12

 私は、三上武に『会って話を聞きたい』と連絡した。すると、ちょうどタイミングが良いことに、武は休みの日だった。

 12時半、チャイムが鳴り、インターフォンのモニターを見ると武が居た。

 私は玄関に行き鍵を開けた。

「こんにちは。武さん。わざわざ来ていただきありがとうございます」

「いいえ、こちらこそ招いて頂きありがとうございます」

「さあ、家に入って」

「お邪魔します」

 武を居間に招いた。

「武兄ちゃん」

「健くん。元気にしていたかい?」

「まあまあかな」と少し落ち込んでいる様子だった。無理もない。昨日あんなに怒られたのだから。

「ねえ、武お兄ちゃん。スプラトゥーンで一緒に遊ぼう!」

「いいよ」

「お昼は食べましたか?」

「いいえ、まだです」

「じゃあ、これからパスタを作るので一緒にいかがですか?」

「良いんですか?嬉しいです」

 彼は、武と一緒にスプラトゥーンで遊んでいる時に、私はキッチンでアラビアータを作った。

 パスタが出来上がると、二人を呼んで一緒にパスタを食べた。武には赤ワインを注いだ。

「美味しいですか?」

「はい、とても美味しいです」

「それはよかった。健くん。毎日こんなに美味しい料理を食べているのかい?羨ましいね」

「今日は、特別ですよ。普段は有り合わせの食材を使って作っているので味はイマイチです」

「それにしても、美味しいですね」

「もし、よろしければ、おかわりはいかがですか?」

「良いのですか?」

「はい。ソースはまだ残っているので」

「では、お言葉に甘えて」


   *


 食事を終えて、武にコーヒーを出した。

「健、武お兄ちゃんとお話があるから自分の部屋で遊んでいてくれるかな?」

「うん、わかった」

 健は、部屋を出て部屋に行った。

「それで、お話というのは?」

「実は、最近、不思議と言いますか、不可解な事件が続いているので聞きたいことがありまして」

「湖のことですか?」

「それもありますが、他にも怪現象がありまして」

 私は、順を追って話をした。まず、鏡が同時に割れたこと、湖のこと、そしてジョンのことを。

「それは、なんというか不思議ですね」

「そうなのです。それに気になるのは、健が云った『青木』という人物の存在です。最初はイマジナリーフレンドだと思っていました。でも、昨日、旦那が『青木』という人物の名前を出した瞬間、猛烈に怒りました。しかも、『青木』について何か知っているような口ぶりでした。そこで、聞きたいのですが、『青木』とは誰のことですか?」

 武はしばらく黙った。それから、口を開いた。

「実は、奥さん。僕が小さい頃、村に青木という子がいました。彼はある日を境に失踪しました」

「失踪ですか?」

「はい、大規模な捜索をしましたが見つかることはありませんでした。実は、村では噂話がありました」

「噂話ですか?」

「はい、実は大変申し上げにくいのですが・・・」

「なんですか?教えてください」

「実は、青木は虐められていたという噂話がありました。それも、雅人さんが中心人物だと」

「それは、本当ですか?」

「はい、あくまで噂話ですが」

「そうなんですか」

「実は、話はこれで終わりません。虐めていたと云われていたグループが次々と不可解なことに巻き込まれていったのです」

「不可解なことですか?」

「まずは、北村進。彼は、青木が失踪してから原付の事故で死亡しました。それから、井口雅人。彼は、大学進学の為に上京しましたが、上京してすぐに心不全を起こして死んでしまいました。それから、雅人さんの元カノの秋元ミキ。彼女はある日突然自殺しました。彼女とは面識がありました。とても、明るい性格で、とてもじゃないけど自殺するようには見えませんでした。それで、村で噂話が囁かれるようになりました。青木は失踪したのではなく虐め苦に自殺したか、あるいは虐めの弾みで殺されたと。それで、その呪いで虐めていた人たちに不幸が訪れたと」

 私は、驚愕した。雅人がまさか虐めをしていたなんて。しかも、その中心人物だった事と、呪いの話に。だが、私は呪いや幽霊などのオカルト話は信じない。だが、鏡が一斉に割れた事、健が一時的に失踪した事、ジョンが不可解な殺され方をした事。それらを考えると呪いはあるのかも知れないと思った。だが、私はそんな事を信じたくなかった。呪いより偶然が重なって死んだ確率の方が高い。人は不幸が続くと、何かのせいにしたがる。それが呪いの正体だと思っている。しかし、ジョンの不可解な死はどう説明がつくのだろうか?急に閃いた。もしかすると、青木の家族が復讐を繰り返しているのではないかと、そっちの方が確率論的に高い。

「それで、その、青木の家族は今何をしているのですか?」

「青木の家族はもう、みんな死にました。元々、青木は小さい頃に母親が病気で死んで、それから、父は息子が失踪してから、しばらくして自殺しました」

「そうなんですか」

「青木の父は、元々素行が悪く、虐待疑惑まであったくらいです。虐めの噂よりも、父親が息子を殺めたのではないかと噂の方が強かったと記憶しています。それから、しばらくして、彼は自殺しました」

「そんな雅人に過去があったのですね」

「あくまで噂です。実際、僕は雅人さんが青木を虐めていたところを見ていませんし」

 昨日の雅人の対応振りから、もしかして青木を虐めていたのではないかと思った。だが、信じられなかった。雅人が虐めをするような人間ではないと。しかし、人の本性なんてわからない。ジョンが健を噛んだ時に、殺処分しようとした時のように。もしかして、雅人は自分が思っているような人物ではないのではないのかは考え始めた。

「それと、荒唐無稽な噂話があります。馬鹿げていますが」

「なんです?その噂話って?」

「イバンと言われる育田湖に住む化け物というか、妖怪というか、悪霊の仕業だと」

「イバンですか?」

「そう、異なると野蛮の蛮と書いて『異蛮』と書きます。昔から伝わる伝承で、元々は村にやってきた落武者を村民が殺して育田湖に遺棄してから、その怨念で落武者が異蛮として現れるようになったと云われていて、顔はワニのような姿で、肌は緑がかった黒色で、鋼のような体毛に覆われていて、定期的に現れて、普段は動物を捕食していますが、人間が大好物、時々、湖に近づいた物を捕食するという話です。まあ、馬鹿らしい話ですがね」

「そんな伝承があったのですね」

「今では誰も信じていませんが、人が失踪するたびに異蛮の仕業だという者が出てくるんですよ。全くナンセンスです。すみません。こんなふざけた話をしてしまって」

「いいえ、大丈夫ですよ」

「ところで、僕が云ったって云わないでくださいね。流石の雅人さんも怒ると思うので」

「はい、大丈夫です。絶対に言いません」

 その後、武は健と一緒にスプラトゥーンをして遊んでくれた。16時になると、「これから友達と用事があるので」と云って帰っていった。

 私は、混乱していた。どう考えてよいのかわからなかった。もちろん、オカルト話は信じられないが、心のどこかで、この出来事は青木のせいではないかと思う自分もいた。青木の幽霊のせいであれば全てが解決する。だが、そんなことナンセンスだ。あり得ない。きっと、何か違う原因があるはずだ。もっと、科学的で地に足のついた原因が。

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