3日後、徹夜が続き、どうにかしてアプリのバグ取りとアプリは完成した。あとは違うテスターがテストするだけだった。

 とにかく眠かった。疲れも溜まっていた。その間、家事を全くしていなかったが、雅人が手伝ってくれた。と言っても出前だが、健はピザに寿司が食べられて嬉しそうだった。その光景を見て少し寂しい気持ちになった。普段は家にいても仕事ばかりなので、料理だけでも美味しく健康的な料理を作るように努めていたからだ。でも、自分の小さい時を思い出すと、母親が作ってくれる料理より、ハンバーガー、ピザなどのジャンクフードの方が魅力的に感じたのも事実だ。この年にして、ようやく母親の気持ちがわかった気がする。

 自分の場合は、好き嫌いが激しく随分母親に迷惑をかけた。それに、反抗期の時は常に母親や父親に対してイライラして暴言を浴びせた。

 そのうち、健も同じように反抗期に入って「ジジイ」「ババア」と呼ぶ日が来るのだろうか?だとしたら自分はどう対処すべきだろうか。

 そんなことを考えていると、急に服を洗濯していない事に気がついた。

 私は、洗濯機が在る脱衣所に行った。浴室には健が入っていた。何やら知らない曲の鼻歌を歌いながら。

 ドラム式の洗濯機を開けた。衣類が溢れ出そうなくらいに入っていた。なぜ、雅人は気づかなかったのだろう?このドラム式洗濯機は洗濯の他に乾燥機能が付いている。ボタン一つで解決するのに。

 雅人に任せたのがバカだったと、思ったと同時に自分はなぜこの事に気づかなかったのだろうと自分を恥じた。

 洗濯機に液体洗剤を入れてスイッチを押した。ゴロゴロと音をたてながら回り出す洗濯機。

 浴室のドアが開いた。そこには健が裸で立っていた。私は驚いた。健の身体に無数の青あざの跡があった。

「ママ何を見ているの?恥ずかしいだけど」

「健。その痣はどうしたの?」

「これ?さあ、分からない」

「分からない?ねえ、正直に云って。誰がこんな事をしたの?もしかして学校でイジメにあったの?」

「イジメ?虐められてなんかいないよ」

「ねえ、ママに本当のこと言って。嘘はダメだって云ったでしょ?」

「だから、虐められて無いって」

 これではラチが明かない。私は大声で叫んだ。

「パパ。お風呂場に来てちょうだい!」

 すると、居間にいた雅人がお風呂場に入ってきた。

「どうした?そんな大声だして」

「健の体を見て」と私がいうと雅人が健の体を見た。

「おい、健。その痣はどうした」と驚いた様子だった。

「だから、なんでもないってば」

「おい、健。正直にいうんだ。誰にやられたんだ?学校で虐められているのか?」

「だから、なんでもないってば」というと健は泣き叫び出した。


   *


「いったい、誰の仕業だ?」と雅人はベッドで横になりながら言った。

「分からない。でも、学校から帰ってきた時は、いつも元気そうにしていたし」

「なあ、公園かなんかで近所のガキに虐められてないよな?」

「公園?夏休みに入ってからは、暑すぎて危険だから、ほぼ家にいた」

「なあ、聞いていいか?」

「何?」

「もしかして、明美じゃないよな?」

 私はショックを受けた。旦那から虐待疑惑をかけられた事に。

「私がそんなことする訳ないでしょ」とつい怒鳴った。

「ごめん。撤回する。すまなかった」

「それよりも学校で受けた可能性の方が高いでしょ?そもそも変な時期に転校するから、こんな事になったのよ」

「何をいうんだ。僕のせいだというのか?なあ、冷静になって考えよう。もしかしたら、階段から落ちた時にできた痣かもしれないだろ?」

「だったらなんで、階段から落ちたって言わないのよ」

「それは、子供だから階段から落ちたことが恥ずかしいと思ったじゃないかな」

「それだったら、もっと大きな傷ができるはずよ」

「確かに」

「私、明日に直接学校に行って確かめに行ってくる」

「学校に?」

「そう。それが一番手取り早いでしょ。それに、どう考えてもイジメに違いないわ」

 そうだ、あの痣は集団で殴られた跡だ。きっと。

 私は怒りに震えていた。誰が私の健を虐めたのか。許せない。あんなに優しい子を虐めるなんて。

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