第2話 ツチスナ・七夕(下)
その日の夕方、ツチノコとスナネコは砂漠で待ち合わせをして、探検隊の拠点に向かった。
会場に着いて、ツチノコは浴衣を選びに更衣室へ通される。
ツチノコを待つ間、スナネコはお祭りの会場をふらふらと見て回る。
会場のあちこちには笹が飾られており、その笹には色とりどりの短冊が結え付けられている。
「これ、なんですか?」
スナネコは、隣で涼んでいたミライに尋ねた。
「これは短冊というんですよ。一年に一度、お星様に届けたいお願い事を書くんです」
「そうですか。まぁボクは文字が書けないからいいか」
ミライはにっこりと微笑んだ。
「スナネコさんが教えてくれたら、私が書いてあげますよ」
スナネコは自分の願い事について考え込んだ。
「うーん……これといって今は満足ですし……これからも、ツチノコと——」
スナネコが自分の願いを言いかけた時、ちょうど着替え終わってスナネコを探していたツチノコが、彼女を見つけた。
「スナネコ、ここにいたのか」
「あ、ツチノコ——」
ツチノコに話しかけようとして、スナネコは目をみはった。
涼しげな浴衣に身を包み直したツチノコは、線の細い可憐な少女になっていた。
普段はオーバーサイズのパーカーに隠れていた、控えめな上半身の体のラインを、浴衣の上品な布地が抑えている。
気がつくと、スナネコはツチノコの全身をじぃっと見つめてしまっていた。
普段は被りっぱなしのフードを外し、髪を編み込んだツチノコは、照れくさそうに頬をかいている。
「その……私、変じゃないか?」
「すごく似合ってますよ、ツチノコ」
「そうか。なら、良かった」
スナネコもツチノコから視線をなんとか引き剥がし、ツチノコの手を引いて、笹と短冊の前に連れてくる。
「この紙にお願いごとを書くんだそうです」
「なるほど。短冊ってやつだな。スナネコは何を書いたんだ?」
「これからです。ツチノコから書いてください」
ツチノコは短冊が置いてある台に向かうと、自分の願い事を書き出した。
ツチノコが俯くと、普段は見えない彼女のうなじが、浴衣の襟から白く立つ。
その陶器のような肌を眺めながら、スナネコはチラと見えるそのうなじに自分の爪を立てたいという衝動を抑えなければならなかった。
いつも睦み合うたびに、散々我が物にしているはずなのに、襟から覗く首筋にこんなにも心を乱されるのは、どうしてだろうか。
スナネコはドキマギしながらツチノコが書き終えるのを待った。
「書けたぞ。スナネコは何を願うんだ?」
「ツチノコを——」
「は?」
ツチノコが怪訝そうな顔をする。
自分の欲望が口から漏れ出てしまったので、スナネコは慌てて取り繕った。
「なんでもないです。ツチノコが書いてください」
「私が決めたら意味がないだろ」
「いいんです。ツチノコと一緒なので」
「そんなことはないだろ」
スナネコは短冊に飽きたふりをして、短冊のそばを離れて歩いていった。
ツチノコはしばらく立ち尽くしていたが、いつものことだと気分を切り替えて、短冊にスナネコの分まで願いを書いた。
2枚の短冊を笹に吊るすツチノコを眺めながら、これからもツチノコと一緒にいられますように、とスナネコは願った。
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