第七話 白練の妻

 彼の名は羽々本霄(はばもとしょう)。三十一歳。若いが優秀な歴史研究家にして稀覯本の蒐集家、そして素人探偵である。今回、ある殺しの事件を調査するため、パーティーにやって来た。

 そのパーティーとは、ある記念館の落成パーティーである。小さなホールに、十数人の男女が集まっている。会食が始まってから、みんな賑やかだ。

「こんにちは、羽々本さん。この度は誠にありがとうございました。こちら、いかがですか?」

 身なりの良い中年男性がワインボトルを持ってきた。彼はこの記念館の館長、牧川麗一(まきかわれいいち)だ。

 麗一は霄のグラスにワインを並々と注ぐ。

「ありがとうございます。とても美味しいですね。こんな素晴らしいものを、わざわざ」

「いえいえ、羽々本さんがご提供してくださった資料がなければ、父の記念館は完成しませんでした。こちらこそ、本当にありがとうございます」

「あなたがお父上の業績を残そうと活動されたからこそ、私も資料を提供しようと思ったのですよ」

 霄は微笑んだ。

 この記念館は、牧川蓮司(まきかわれんじ)記念館という。

 牧川蓮司。これは筆名であり、本名は牧川竜円である。

 彼は昭和に活躍した小説家だ。主に、幻想小説や怪奇小説を書いた。時には挿絵も自分で描いた。西旗町という架空の町を舞台にした怪異譚『西旗町妖怪絵図』シリーズが代表作で、映画にもなっている。しかし、時代の波に押されてしまい、今は知る人ぞ知る作家になってしまった。

 パーティーホールの天井には、美しい虫の絵が描かれている。『西旗町妖怪絵図 その一 白練の妻』に描かれた紙魚だ。紙魚でありながら、真っ白な毛に覆われており、世にも美しい存在として描写されている。

 天井画は現代のプロの画家に注文したものだ。優雅に身体をくねらせる紙魚は、まるで貴婦人のようである。どんなに虫が嫌いな人でも、惚れ惚れとしてしまうだろう。

「記念館をたてて終わりではありませんよ。ここがスタートです。これからも頑張りましょう、館長」

 パーティーは和やかに進んだ。酒の力も借りて話が弾み、羽目を外さない程度に盛りあがる。

 宴もたけなわとなった頃、霄は麗一に再び話しかけられた。

「すみません。一つお願いがあるのですが」

「はい、なんですか?」

「これを見ていただきたいのです」

 麗一は懐から一冊の帳面を取り出した。

 古いノートだ。表紙に呪術的な紋様が描かれている。

「これは父の日記帳です」

「日記帳?」

「はい。この変な表紙のノートに、父が色々書き込んでいたのを見ていました。いつの間にかなくなっていたんですが、つい先日の夜、古書店で見つけまして」

「え、古書店で? それはすごい偶然ですね」

「はい。しかも無料でした。信じられなかったんですが、何度店員に確認してもお金はいらないと言われて。それでまあ、貰ってきたんですが。中を見てください」

 霄は表紙を開いた。古いページに記号が羅列されている。記号は丸や線を組み合わせたもので、他に類を見ないものだ。

「暗号のようですが、解き方が検討もつかないのです。先生、どうか解読してくださいませんか?」

 霄はペラペラとページを捲る。記号が並んでいる。日本語は一文字もない。

「分かりました。解読させていただきます。そのために、お屋敷におじゃましてもよろしいでしょうか? 暗号の解読方法の手がかりは、専ら書き手の身近なところにあるものです」

 麗一は即諾した。

「屋敷の管理をしている田村に案内させますね」

 麗一が電話した後、すぐに作業着姿の老爺が一人、パーティー会場にやって来た。

「こちらは田村です。長年屋敷の管理をしております。田村、こちらは父の作品の研究をしてらっしゃる、羽々本先生だ。先生に屋敷の中を案内してください」

「かしこまりました。先生、こちらです」

 羽々本は田村の案内に従い、記念館を出た。

 牧川邸は、記念館の北側にある。記念館が真新しいコンクリート製の建物であるのに対し、この屋敷はいかにも古びた昭和時代の家屋といった感じだ。手入れされた植え込み、長年の風雨を耐え忍んできた跡が残る木造の壁。飛石を歩いていくと、屋敷の立派な玄関が見えてくる。

 歩きながら、心の中で霄は笑う。

(まさか、こんなに早く屋敷の中に入れるとは。これで、計画の第一段階はクリアだ)

 霄は、ただの善良な研究者ではない。目的を持って麗一に近づいたのである。

 数十年前、この牧川邸で陰惨な事件が起きた。幼い子どもが殺されたのだ。今では霄だけが知っている事件だ。この事件の犯人を探すため、霄は研究に協力し、記念館の設立まで漕ぎ着けたのである。

「では、失礼します」

 霄は屋敷の中に入る。




 ママ、外に出たい。

 分かってるよ。外は危険なんでしょ。夜、パパと一緒じゃないと出られないんだよね。

 でも、本に書いてあった青空を一度でもいいから見たいよ。それから、お花も見たい。町にも行きたい。ねーねー、外に出たいよぉ。

……え? いつか見せてくれるの? もう少し大きくなったら? 本当に? 絶対だよ?

 あ、パパが帰ってきた!

 おかえり! 今日はなんの本を持ってきてくれたの? レシピの本? わあ、美味しそう。ありがとう!



「失礼します」

 外観に反し、内装はモダンだ。室内はLED電灯で明るく、壁には現代美術の絵画がかけられている。掃除は行き届いており、床も壁もとても綺麗だ。

「おや? あちらの古いお屋敷は?」

「あれですか? あれは旧館です。大昔、若い頃の大旦那様はあちらで暮らしていました。今はほとんど使われておりませんが」

「大旦那ということは、竜円さんが暮らしていたんですね? 是非とも中に入りたいです!」

 田村は狼狽える。

「随分長いこと掃除していないので、とても汚いのですが……それに虫やら何やら、変なものもたくさんあります」

「気にしません。むしろ研究者として、変なものは大歓迎です。是非お願いします」

 霄は深々と頭を下げる。

「は、はあ。では、こちらへどうぞ」

 田村は気乗りしない様子で、屋敷の奥へ歩き出した。

 長い廊下を渡ると、いきなり古びた雰囲気の部屋に入った。突然時代が遡ったかのようだ。

「汚くてすみません」

「いえいえ、汚いなんてとんでもない! ここで数々の名作が生まれたのだと思うと、興奮します」

 霄は目をキラキラと輝かせる。

 二人が歩くたび、廊下の板が軋む。どこからか、カサコソと小動物が動く音がする。

 どの部屋にも、腰の高さの棚が置かれている。上面がガラス張りになっており、中には蝶や蛾、芋虫、蜘蛛、甲虫など、多種多様な虫の標本が等間隔に並べられている。

「見事ですね。竜円さんのコレクションですか?」

「はい。あの人が全てご自分で作られました」

「はー、すごい……」

 霄は感嘆のため息をつく。

 一方、田村はしかめ面だ。

「いやいや、そんないいもんでもないですよ」

 吐き捨てるように言う田村。

「虫を好きすぎるんですよ。ちっこい頃から……ハイハイが終わって歩きはじめたころから、地面のアリやムカデにばかり見てました」

「そうなんですか。竜円さんの著作には様々な虫が登場しました。虫の偏愛のは幼少の頃からのものだったんですね」

 田村はむすりとした顔で頷く。

「ええ。大旦那様は、人前ではニコリともせず黙りこくってばかりでした。我々下の者にはもちろん、ご家族に対しても、目線すら合わせなかったんですよ。ですが、虫には笑顔を向けていました。時には話しかけることすらあったのです。人より虫と一緒にいる時間の方が長かったんです。

 大きくなると、こうして標本を作って飾るようになりました。あっという間に増えてしまって。捨てようとすると激怒するので飾るしかなく……今は旦那様が父の遺品だから捨てたくないっておっしゃるし」

「捨てるのは勿体無い気がしますね。こんな立派な標本なんですし」

「研究者には良いものでしょうが、掃除する側にとっちゃたまったもんじゃないですよ。奥にあるものはもっと気持ち悪いし。

 あなたは随分ここを楽しんでらっしゃいますが、奥を見たら分かりますよ。あの人がおかしいってことが」

 田村は吐き捨てるように言った。



 二人ともおかえり。今日はどうしてたの? 僕とママはずっとお話ししてたよ。

 その箱は何? 本? 違うの?

 虫? わあ、カゴの中に虫がいっぱいいる!

 モンシロチョウだ! あ、この子はクロオオアリ! キアゲハの幼虫もいるね。そっちのはええと……なんだっけ。本にあったけど忘れちゃった。

 これどうするの? しばらくここで育てて、それから飾るの? 面白そうだね!

 ね、パパ。僕も蝶や蟻を捕まえたい。

 駄目? そういうと思った。昼は危ないんでしょ、知ってる。

 あ、そうだ。じゃあ蛍は? 夜の虫なんでしょ? 夜なら外に出られるでしょ?

……この辺にはいないの? だから無理? えー。

 あ、パパ、もう出ていくの? 君も? もう寝るの? わ、分かった。おやすみなさい。

……ねえ、ママ。こんなのおかしいよ。

 パパと弟は外に出られるのに、どうして僕とママはここに閉じこもらないといけないの? 外が危険なら、パパも弟もここにいればいいのに。ねえ、なんで?

 なんでなの、ママ?



 階段を上り、二階へ行くと、雰囲気は一層陰鬱になった。外の樹木は枝葉を伸ばし窓ガラスを覆っている。おかげで全然日光が入ってこない。

 飾られている標本の種類も、多種多様な、しかしごく普通の虫から、何か別のものに変わっていく。

 羽の数が異常に多い蝶。鉤爪がついた芋虫。目が異様に大きい蠅。極彩色の百足。ホルマリン漬けにされた、奇形の小動物の標本もある。

 田村は背中を丸めて俯き、極力標本を見ないようにして歩いている。

「この標本も竜円さんが?」

「はい。虫や動物同士をつなぎ合わせるのはやめろと、色々な人が叱りましたが、大旦那様は『捕まえてきたものだ』と言って聞きません。そういえば、これを作りだした時から、小説を書くようになりましたね」

「なるほど」

 霄は、標本箱や瓶の間に、本が置かれていることに気づいた。

 他にも、壁にお札が貼られていたり、天井に紋様が描かれていることに気づく。古いものを多く見てきた霄には、それらが古今東西の様々な民間信仰のものだとわかる。

「あの本やお札も、竜円さんが集めたんですか?」

「そうです。いつの頃からか、変なものを持って帰るようになりましたね。気持ち悪いし捨てたいんですが」

 二階の部屋を全てまわると、田村は足早に階段へ向かう。

「さあ、研究者の先生。こんなところ、早く出ましょう」

「いえ、まだ残ってます。離れの書庫が」

「あそこは勘弁してください。近寄りたくないんです」

「でしたら、場所を教えてください。私一人で行きます」

「それもダメです。いけません。玄関まで送ります。お引き取りください」

 田村の態度は頑なだ。折れそうにない。

 霄は小さなため息をつく。懐から麗一から借りた日記帳を取り出した。それを見た瞬間、田村の顔が凍りつく。

「どこでそれを?」

「麗一さんからお借りしました」

「嘘だ。その日記帳は捨てたはずだ」

「おや、これが日記帳だとご存知なんですね」

 日記に挟んだ栞が揺れる。栞の先端の鈴がチリン、と場違いな音を立てる。

「これは竜円さんの日記です。麗一さんからお借りしました。麗一さんは暗号だと思っていますが、それは違います。これはとある少数民族の文字ですね。とてもマイナーな言語ですが、幸い私は読めます。当時起きた悲惨な事件について、詳細に記されています。当然、あなたのことも」

 霄はセールスマンのような完璧な笑顔を作る。

「田村さん。私は研究者であって、警察ではありません。私は知りたいです。当時起こった事件について。書庫へ連れていってください」

 田村は観念したかのように肩をがくりと落とすと、それ以上何も言わずに、階段を降りはじめた。



 よーし! よしよしよし、よっし!

 ドアが開いた! ほんの少しだけど、開いたぞ!

 鍵に細工したこと、誰にもバレなくて良かったぁ。

 さて。ママがお昼寝してる間に、早速外を探検だ。隙間にカラダをねじ込もう。

 あれ、足音が聞こえてくる。パパでも弟でもない。誰だ? 隠れた方がいいかな?

 あ、ドアが──



「仕方がなかったんだ」

 床のシミを見ながら、田村が言った。

 書庫の入り口の床には、液体が飛び散った跡がある。色は黒ずんでいるが、血だと分かる。天井付近まで血の跡がついている。

「入ってはいけない部屋のドアが少し開いていたから、中が気になって覗こうと思っただけなんだ」

「だからといって殺さなくとも」

「いいや、あれは殺さないといけなかった」

 田村は強い口調で断言した。その瞬間、ずっと笑みを浮かべていた霄が、初めて真顔になる。

「ここには、大旦那の内縁の妻と息子が暮らしていた。病気で外には出られない、世話は全て俺がやるから誰も近づくな、と大旦那にきつく言われてたもんだから、誰も二人の顔を知らなかった」

「だから、たまたま部屋の前を通りかかったあなたは、開いているドアの中をつい見てみたくなったんですね?」

 霄は書庫の奥へ進む。手元のスマートフォンのライトをつけて周囲を観察する。

 部屋を壁際の本棚に本が並んでいる他に、家具は無い。電灯すらない。ガランとしている。

「だが、ドアを開けたらそこには、ば、化け物がいたんだ! 巨大な虫の化け物が!」

 田村はヒステリックな声を上げる。

「超巨大なゲジ虫だった。子どもくらいの大きさがあって、床を這ってた。俺は、持っていた角材を虫の頭に振り下ろした」

 興奮し、早口で喋る田村。

「虫が人間のような悲鳴を上げて、そしたら、部屋の奥から恐ろしい唸り声がして、もっと大きな化け物が出てきやがった。俺は逃げたよ。全速力で逃げた。

 なあ、俺は間違ってないだろ? 化け物を倒したんだから、むしろ英雄だろ?」

「竜円さんが妻や息子と呼んでいたヒトを殺したんですよ?」

「ああそうさ! 虫のバケモンを、アイツは妻や息子と呼んで世話してたんだ! キチガイだったんだよ、アイツは!」

 田村は書庫のドアを閉めた。部屋の光源は、霄のスマートフォンのみになる。

「その日記は、竜円の机から俺が盗んだんだ。俺の悪口がたっぷり書いてあった。だから燃やしてやったんだ。麗一から借りたはずがない。

 お前、どうしてその本を持っている? どこで見つけた?」

 霄はゆっくりと後退する。背中のすぐ後ろに本棚がある。

「お前、何者だ? ただの研究者じゃねぇだろ? 何が目的だ? もしかしてそうなのか? 虫と寝る異常者か?」

 田村の瞳がギラつく。拳を握り締め、霄に突進した、その時、

「ここで何をしてるんですか?」

 書庫のドアが開き、麗一が入ってきた。

 田村の拳の狙いが一瞬ブレる。霄はその隙を逃さず、横にさっと飛び退った。その結果、彼は本棚に激突した。

 何十年も書庫に放置されていた本棚は、経年劣化で脆くなっていた。老人とはいえ大の男一人の突進を耐える力は無かった。

 本棚は崩れ、何十冊もの本が、田村の上から降り注ぐ。部屋中に轟音が響き、埃がもうもうと立ち上った。

「だ、大丈夫ですか?」

 狼狽える麗一。霄は咳をしつつ「大丈夫です」と答える。

「う、うう……誰か」

 田村は本の山の下でうめき声を上げている。

「パーティーが終わって北館に参りましたら、全然お姿が見えず、それでここまで探しに参ったのですが、一体何があったんです?」

 霄は全く聞いていなかった。

 ただ、スマートフォンのライトを壁に向けている。本棚があった場所の壁に。つられて麗一も、壁へ視線を向けた。

 そして、言葉を失った。



 羽々本霄には秘密がある。

 それは、前世の記憶があることだ。

 虫、犬、バクテリア、細菌、人間。オスやメス、男や女。色々な生物に生まれては死に、それを繰り返してきた。このことを知っている者は、SNS上での友人と、心療内科の医師の二人だけ。他には誰にも、家族にも教えていない。

 霄が歴史の研究者になったのは、前世の記憶が妄想でないと証明するためだ。前世で経験した出来事を調べあげ、その結果研究者として名をあげた。書物の蒐集も同じだ。前世で読んだり見かけたりした本を探しだし、記憶の正しさを確かめているのである。

 目を閉じれば、すぐにあの忌まわしい記憶が蘇る。角材で殴られる痛み、母の悲鳴、流れ出る血、死の間際の寒さと暗さ。

 痛い、やめて、痛い、あああああ痛い痛いいたいいたい! ママパパたすけて、いたいこわい、いたい……

 この死の記憶の真否を確かめるため、霄は記憶の中に出てくる本や物品を地道に調べた。前世の自分と酷似した姿が載った絵本を発見し、その作者が牧川竜円だと突き止めた。その後も研究を続け、麗一に協力し、ようやくここまで来たのだ。

 そして、その甲斐はあった。思いがけない収穫があった。

「これは、美しい」

 壁一面に、絵が描かれている。

 青い空、満開の花畑。花畑には、笑顔で手を振る男がいる。竜円だ。その隣には二匹の虫と、一人の赤ん坊がいる。

 人と虫の家族の周囲には、多くの人間や動物、妖怪じみた化け物が描かれている。だが怖くはない。みんな笑顔なのだ。種の垣根を越え、みんなが幸せに過ごしている。

 霄は壁に近づいた。細かい紙が無数に貼り付けられている。塗料で描かれた絵ではない。ちぎり絵だ。

 床に散乱した本を数冊、手に取る。中のページはほとんどが破られている。手で破るというよりは、虫に食われたかのようだ。

「ここには母と弟が暮らしていました。身体が弱くて、この部屋にずっと住んでいたのです」

 麗一はポツポツと語る。

「弟は私が幼い頃に死んでしまい、その後母は一人でここにいました。外に出てくることは決してなく、実の母なのに顔を見たことさえなかったんですが……こんなちぎり絵を作る人だったんですね」

 田村が唸り声を上げる。そこでようやく、二人は怪我人のことを思い出した。

「麗一さん、外に助けを呼びにいってください。私はここで田村さんを見ています」

 麗一はすぐに外へ出ていった。また二人きりになる。

「さて」

 まず、霄はスマートフォンでちぎり絵を撮影した。大切な母の絵だ。大事に取っておかなければ。

 それから田村を見下ろした。息はまだあるようだが、ぐったりしている。当たりどころが悪かったのかもしれない。

 輪廻転生を繰り返し、途方もない量の経験を積んでいる霄は、文明社会に生きる常人には決して得られない知識も持ち合わせている。例えば、簡単に人の記憶を操作する方法だ。

「ご心配なく。命まではとりませんよ」

 霄は部屋の扉を閉めた。

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