第31話 鉄子は彼女をびっくりさせた。



 夕方、太陽が沈む前に野営地を選定し、そこにのぞみが防壁を造り出す。また、街道を荒れた道に戻すことも忘れない。

 翌朝、防壁を消し去り、街道を新たにのぞみが整備して出発する。


 これを数日、繰り返してレティたちは自国であるカンク東王国を目指していた。


 その日は馬車の中で、のぞみはウキウキとしていた。それをレティも感じ取っていた。


「ノゾミさま、何か、いいことでもございましたか?」

「えへへ。実は……レティさまに見てもらいたいものがあります」

「何でしょうか……?」


 のぞみは『鉄道』スキルでNゲージの線路が出せるようになってからも、レティにはプラレー〇しか見せていなかった。ちょっとしたいたずら心である。


 のぞみにしてみるとNゲージならレティを驚かせることができるはずだ、という考えだった。


 そして、この日、レティに見せようとしたのは……。


「これなんです。N700系ですケド……」


 のぞみはNゲージのN700系をアイテムボックスから取り出して、レティに差し出した。レティはおそるおそる、それを受け取る。


「……これはエヌナナヒャッケーとよく似ていますね。あれよりもずっと小さくて、細く……長い感じがしますけれど……? 色はほぼ同じです。これは何ですか?」

「これはですね、Nゲージ……鉄道模型ですね」


「エヌゲージ……テツドーモケー……」

「はい。プ〇レールはあくまでも子どものおもちゃで……こっちもおもちゃのようなものではあるんだケド、本物をそのまま小さくしたのが、Nゲージなんですよ。おもちゃと呼ぶには、ちょっと高級品になりますね」


 そう。のぞみはこの数日で、Nゲージでも車両を取り出せるようになっていた。『鉄道』スキルがそこまで進化していたのだ。


「よく見ると、とても細かい細工物のような造形で……素晴らしい職人がいるのでしょうね、ノゾミさまの国には……」

「そう、かもしれませんケド……何ていうか……」


(機械で作ってるんだよね、たぶん。自分で手作りするヒトもいるケド……KA〇Oとか、TOM〇Xが全部手作りってことはないはず……)


 のぞみは説明しようとして、あきらめた。はっきりとは知らないこともあるのだ。


「これが本物をそのまま小さくしたものだとして……本物はこれと比べると、どのくらいの大きさなのでしょう?」

「だいたい140倍くらいですかねー」


「これの140倍とは……そんなにも大きいのですか、本物の鉄道は……」

「ええと……」


 のぞみはアイテムボックスから、今度はNゲージのレールを取り出した。


「それは……?」

「これはNゲージ用の線路です」


「これが……線路、ですか。青い線路とはまた、違うものに見えますね?」

「そうですね。こちらの方が……線路も本物によく似ています」


「こちらが本物の線路に……」

「はい。この、二本のレールの間の幅が9mmで、その幅からNゲージと呼ばれています」


「なるほど……?」

「本物の線路はここの幅が1435mmになります。あ、もちろん、全てがその幅とは限らないんですケドね? いろいろな幅がある中で、1435mmが世界的に一般的というか……標準軌と呼ばれるんです」


「ヒョウジュンキ……」

「だいたい、あたしの身長くらいの幅になります。あたし、143.5cmですから」


「……ノゾミさまはまだまだ大きくなられるでしょう?」


「いやいやいやいや。もう伸びませんって! すっごく残念だけど、成長期は終わったというか、もう身長の伸びは止まったというか。あたし、もう15歳で……もうすぐ16歳ですし」


「えっ!?」

「え……?」


 レティが珍しく表情を変えて驚いていた。侍女たちの顔は言うまでもない。その反応に、のぞみも驚いた。


「ノゾミさまは、私よりも年上……? そんな、まさか……」

「え? レティさまは、いったい何歳なんです?」


「私は14歳になったばかりですが……」

「えええっ!?」


 のぞみは大きく目を見開いた。


(年下!? レティさまがあたしよりも年下!? 身長も高いのに! それにおっぱいだってもう大人の感じなのにあたしよりも年下っていったい……)


「……レティさまは18歳くらいかなぁと、勝手に思ってました……」

「そ、それはそれで……何と申しますか……」


「あ、ごめんなさい。レティさまはあたしを何歳だと思ってたんですか?」

「その……実は、12歳くらいかと……」


「うわ、マジか……確かにあたしは小さい方かもしれないケド……小学生レベルって思われてたなんて思わなかった……」

「も、申し訳ありません、ノゾミさま……」


「あ、ううん。全然、いいんですよ。気にしないでください……」


 そう言いながらも、のぞみは少しだけ傷ついていた。


(文化の違いとか、人種や民族の違いとか、DNAの違いとか……きっと、そういうことのはず……気にしない、気にしない。身長なんて、人、それぞれだよね……他の部分も……)


 レティも衝撃を受けていた。

 幼い子どもを保護したくらいに考えていたのだから、まさか年上だとは思っていなかったのである。

 幼い子どもを保護するのは当然のことだから、その年齢を確かめようとは考えなかった。その結果が、今の衝撃だった。


(身長はもちろん、お顔も童顔でいらっしゃいますし……その……お胸も子どもとしか思えないというのに、まさか年上だったとは思わず……いえ。もうこの話題は避けるべきでしょう……)


 レティは冷静にそういう判断を下した。


「……あの、お話を戻させて頂きますけれど……こちらが、より本物に似ているということでよろしいでしょうか?」


「あ、はい。そうですね。本物をそのままぎゅっと小さくしたと思ってもらってかまいません。細かいところまでいろいろと頑張ってるので。Nゲージってある意味、芸術だと思いますし」


「そう、ですか。これが……本物の鉄道の姿……」


 レティは手に持ったN700系を見つめた。侍女たちもそこに視線を集中させている。


「……中に座席のようなものが見えますけれど、これが座席なのでしょうか?」


「あ、はい。そうですね。中もかなり忠実に再現しているはずです。窓の間隔とか、号車によって違う部分なんかも工夫してますから。喫煙室とか、トイレのあるなしも本物に合わせてますし」


「たくさん座席がございますが……いったい何人、乗ることができるのでしょう?」


「だいたい、あれですね、横のAからEまでの5席で、それが20はあるから、1両あたり100人として、単純計算で1600人くらいでしょうか。東海道・山陽新幹線は基本的に16両編成なので。実際はそれよりも少し減るとは思います。座席の少ない車両もあるし。グリーン車とか」


「1600人とは……すごい。16両編成というのは、これを16両、つなげるということですよね……?」


「これは先頭車ですから、プラレー〇の中間車みたいなのが14両と、先頭車が2両ですね」


「……ノゾミさま。これも、やはり魔力で動くのでしょうか?」


「そうみたいですね。本来は動力車じゃないとダメなはずなのに、魔力だとそこは関係ないみたいで動くんですよ」


「う、動くところが見てみたいのですが……かまいませんか?」

「あ、はい。準備しますね!」


 のぞみは待ってましたとばかりに、レールをどんどん取り出した。プ〇レールの時と同じように、直線とカーブでトラックを作る。


「リレーラーという、車両をレールの上に乗せるための道具がないから、ちょっと、慣れてないとのせるのは難しいんですケド、こうやって台車の車輪をきっちりとレールに合わせて……」


(……ノゾミさまが、いつも以上に生き生きとしていらっしゃいます……本当に『鉄道』がお好きなのでしょうね……)


 レティはレティの方が年下だという事実が判明しても、のぞみのことを可愛い妹のように見守るのだった。





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