第14話 鉄子、落胆される。
聖王城の私室で、その親子は、深刻な顔を突き合わせていた。
「では、何か? 新たな勇者は役に立たんと、そういうことなのか?」
「はい、父上。それどころか、毒を生み出す、危険な存在だということです」
「むぅ。宰相め、ろくな報告が上がってこぬと思えば、そんな失敗作を召喚しておったとはの」
ひとりは聖王の第二王子である、聖王子シェフィールドである。そしてもうひとりはその父、聖王ル・トラン・ブルー2世であった。
「もう、何か国も、勇者の御披露目に合わせて入国してきておるというのに……」
「悩ましい話でございます」
「どうにか、聖教側の失策として手は回せぬものか……」
「今回の勇者召喚は宰相が主導したものにございます、父上。どちらかといえば、聖教側からこれを失点として突かれぬよう、対策を練った方がよろしいかと」
「そうか……新たな勇者は年若い娘と聞いたが……どこか、勇者として高く買い取る国はないだろうかの?」
「何も知られずにというのであれば可能性はあるかもしれませぬが、なにぶん、かの勇者は、固有スキルを除けば『土魔法』しかないようです」
「『土魔法』とは……それでは売れぬか……」
「ええ、どうにか、どこかの小国にでも強引に押し付けるしかないかもしれませぬ」
ケイコ教国の一方の頂点では、のぞみについて、そのような会話がなされていたのだった。
のぞみは危機的な状況に陥っていたのだった。
別室でも、密談は行われていた。
「宰相閣下、これはかなりマズい状況では?」
「ええい、知らぬわ。誰が召喚を主導しようと、こちらにやってくる勇者を選択できる訳ではないだろうに。それをわしのせいだとでも?」
「しかし、誰かに責任を負わせなければなりません。少なくとも、聖王はそう考えることでしょうな」
「それは間違いないかと」
「くそ、あの場に第二王子が居合わせたことで、確実に勇者ノゾミの情報が聖王へと流れるか。教皇はその目で見て、その耳で聞いたのだ。もはや言い逃れはできん」
「あの小娘を始末なさいますか?」
「だが、まだ勇者のお披露目も終えておらぬというのに……」
「そのお披露目も、もはや、あの小娘をいかに目立たぬようにするか、という点に重きをおいておるが……」
「価値はないが『土魔法』を前に出すしかなかろう。固有スキルで毒を出すなどと、他国に知られたら……」
オジサン軍団も、狼狽している。
ここでも、のぞみの扱いはよくなりそうもない。
「表立っては難しいが、毒を活用するというのは……」
「いや。勇者アカツキによると、勇者ナハが言っておったその毒も燃やせば空気の中に消えてしまうそうじゃ」
「どこまでも使えぬ小娘よの……」
「とりあえず、明日からは『土魔法』の指導と、『土魔法』での仕事をさせるがよい。幸い、魔力量は規格外なのだ。何かの役には立つだろう」
こうして、翌日からののぞみの活動は決定した。少なくとも、もうダンジョンに潜ることはないようだ。
プラ〇ール事件の日、のぞみは、心優しいとおそらく思われる侍女の巫女シーノに優しく抱きしめられながら眠った。
翌日、目覚めると、侍女たちの手で着替えさせられ、なんだか魔法少女っぽい感じの服装にさせられる。すると、今度は初めての場所へと連れて行かれた。
そこでは魔法使いっぽいローブを着たおじいさんがいて、もぞもぞとしたしゃべり方でのぞみに『土魔法』について説明して、教えてくれたのだった。
(魔法? 魔法を教えてくれるってことね? 固有スキルの『鉄道』に期待してたけど、それがアンナコトになったもんだから、方針の変更ってことだよね? でも、それでもうモンスターを殺さなくていいんなら、もうそれでいいや……)
のぞみはゴブリンやコボルト、オークやオーガ、果てにはミノタウロスまで、ただ殺してきた。
戦ったのではない。
全て、心配した過保護なアカツキによってお膳立てされて、ただ殺すだけだったのだ。
それがのぞみの誇りを育てなかったのだと、アカツキが気づくことはなかった。
ただ、アカツキがそこまでやってしまったのも、仕方がなかったとも言える。
なぜなら、のぞみはその見た目が15歳の女子高校生にしては、ちょっと幼過ぎたのだ。
のぞみを守らなければとアカツキが強く思ってしまったのは仕方がないだろう。
だが、この『土魔法』によって、のぞみとアカツキの間に亀裂が入ることになる。
「城の、外壁の補修を行いますじゃ……」
「……はい」
聖王城の『土魔法』の使い手からもそもそと聞き取りにくいレクチャーを受けたのぞみは、そのまま、聖王城の外へと連れ出された。
そして、聖王城の城壁の修復が必要なところへとやってきた。
「こうするんですじゃ……手をあてて……そうそう。それから魔力を込めて、念じるのですじゃ」
そして、お手本をもそもそと示されて、やってみるように言われて、のぞみは初めて『土魔法』を使った。
その瞬間、のぞみはレベル31へとレベルアップしたのだ。
(え……『土魔法』を使っただけなのに、レベルアップしたの? なんで? モンスターを倒さなくてもいいってコト? それじゃ、あたしは今まで何のために……)
確かにこの世界では、モンスターを倒さなくとも、少しは経験値が得られて、それでレベルアップすることもある。
ただ、この、のぞみの『土魔法』の行使によるレベルアップは異常だった。
たとえ勇者の『成長加速』があったとしても、起こるはずがないレベルアップだったのだ。
だが、その事実をのぞみが知ることはない。のぞみにとっては『土魔法を使ってもレベルアップができる』という事実だけが重要だった。
「ふむふむ……みごと、です、じゃ……さすがは、勇者さまですな……天才的な『土魔法』ですじゃ……」
もそもそと『土魔法』の使い手が大きく目を見開いてのぞみのことを誉めてくれた。ただし、のぞみはその目が驚きに満ちていることには気づかなかった。
城壁はのぞみの『土魔法』によって見事に補修されていたのだ。
のぞみの規格外のMPなら、それも当然ではあった。ただし、のぞみは自身が規格外のMPだと正しく認識していなかった。
一応、アカツキから聞いてはいたのだが、それがどのくらい規格外なのかは知らなかったのだ。
誉められて、ちょっとだけのぞみは嬉しくなる。だが……。
「見ろよ、あれが毒の勇者だ……」
「近づくなよ、危ないぞ」
「やれやれ、今回の勇者はハズレかよ……」
「ダンジョンに付き合わされた連中も災難だったよな」
……『土魔法』での仕事を終えて、城内の私室へ戻るまでに、何度も何度も、のぞみへの陰口をのぞみは耳にしたのだ。
(聞こえてるんですケド……聞きたいワケじゃないし、はっきりいって聞きたくないんですケド……なんでこんなことを言われないといけないの? あたしだって、好きでこんなトコにいるワケじゃないのにね……)
のぞみは歩きながら、涙がこぼれそうになるのを堪える。
(勝手に期待しといて、勝手に落胆するなんて、ヒドくない? なんであたしがこんな目に遭わないといけないのよ……)
のぞみの心は、再び傷つけられていく……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます