第10話 使えるようになった鉄子。
実際、ナハは侍女となった巫女とヤリまくっていた。
拒む巫女もいるのだが、拒まない巫女もいた。巫女の中には勇者の種を身ごもることを狙って、積極的にナハと寝ようとする者もいたのだ。
だから、強姦していた訳ではなかった。そこだけはマシだろう。
こっちの世界で勇者の遺伝子がその子にどういう形質を遺伝させるのかは分からないが、そういう巫女がいるということは、何かの価値はあるようだった。
アカツキは、そういうことをしていない。そのため、勇者の種を求める巫女はナハの侍女となることを切望していた。
妊娠した巫女は侍女の職を辞するので、ポストが空きやすい。そのため、ナハの侍女にはなりやすいということも影響していただろう。
そういうのを望まない巫女は、のぞみの侍女たちのような巫女だった。どのような家に生まれ育ったか、という部分も関係している。
実際のところ、アカツキはアカツキで、巫女たちから人気があった。
だが、子種がほしいというような、一時的なものではなかった。どちらかといえばアカツキの正式に妻となりたいという、もっと真剣なまなざしだったのだ。
ナハと寝ている侍女たちは、ナハの妻になりたい訳ではなく、勇者の子を産んだ母になりたいだけだった。そのあたりの違いがある。
本質的にはナハよりもアカツキの方がモテているのだが、ナハはそんなことにも気付かず、ただ日本ではモテなかった分、女体に溺れる日々を満喫していた。
(さすがにJKとはいえ、テツコちゃんはちょっと小さいよなー。いや、セーフか? JKってセーフだったっけ? アウトだったっけ? どっちだよ? 確か、高校でリア充してたら間違いなくリア獣してるよなー? ならセーフなんかも。テツコちゃんの弱ってる心の隙に付け込めば……って、よく考えたら、アレ、もう弱ってるって段階なんてを通り越してんじゃん? 付け込むとかなくね? 下手な声かけしたら自殺しかねないっしょ? あー、ムリムリ、地雷女って感じか? うーん。地球の日本を知る者同士でヤってみたかったけど、ヤっちゃった翌朝に首つってましたとか、トラウマもんだよなー……)
はっきりさせておくが、JKはアウトである。完全にアウトである。ただし、ここは異世界。そういう意味では地球や日本のルールは関係がないのだ。
(まあ、そろそろテツコちゃんのパワレベに付き合うのも飽きてきたし、どうしたもんかなー……)
そんなことを考えていたナハの前で、のぞみがミノタウロスにとどめを刺した。
「……あ」
小さな、それは小さな音。
そして、それは、本当に久しぶりに、のぞみが発した声だった。
のぞみの声に反応したのはナハだった。
「どしたの、テツコちゃん?」
「あ……その……」
自信を失っていたのぞみは、小さな声でもそもそと口ごもる。
そこへ、アカツキもやってきた。
「どうかしたのか?」
「いえ、テツコちゃんが久しぶりに声出したモンっスから、気になっただけっス」
「ノゾミくんが?」
アカツキはさっとのぞみを振り返った。
「何か、あったのかい、ノゾミくん?」
「あ、あの……その……」
のぞみはまたもぞもぞとした。
ナハが何かを言いかけたが、アカツキはそれをすばやく手で制した。それから、小さく息を吐いて、今度は声を小さく、ゆっくりと口から出す。
「慌てなくていい。ゆっくりで。ノゾミくんが、言いやすいように、言いたいことを言ってくれればいいんだ」
「あの……あ、あの……」
のぞみは、うまくしゃべれなくなっていた。
およそ1か月くらいは、まともに言葉を発していなかったのだ。
アカツキはナハだけでなく、周囲の聖騎士たちや神官たちにも手を向けることで、物音ひとつさせないように制していた。
ダンジョンの奥地で、しんとした静かな空間が生まれた。
それが、かえって、のぞみにとっては話しづらかったのだが……。
(ど、どどど、どうしよう? ちょ、ちょっとした声が、すす、すごーく反響するよぅ。で、で、で、でもでも、でもでもでも、こここ、これは、これは伝えないとダメだよね……?)
「あ、アカツ、さん……」
「ああ、どうしたんだい?」
「……つ、みたい、デス」
「うん?」
「つ、使える、みたい、デス……」
「使える?」
「は、はい。て、『鉄道』、が……」
「っ!」
アカツキは喜びの余り叫びそうになったが、のぞみを驚かせてはいけないと奥歯を強く嚙み合わせるようにして声を飲み込んだ。
だが、そんなことはお構いなしに叫んだ者がいた。
「おおおっっ! やったじゃん、テツコちゃんっ! どれどれ? 使ってみ? ほら、使ってみ?」
「あ、あの……えっと……」
「どんな感じ? どんな感じなのかな~? テツコちゃんはどんな風に感じるのかな~?」
「えっと……その……」
ぱしん、と、アカツキはナハの後頭部をはたいた。
「いっ……」
「ナハ、ノゾミくんがびっくりしてるだろう。ちょっと静かにしてろ」
「……うっス」
「あ……す、すみ……」
間違いなく、『鉄道』が使えるというのは朗報である。
時が経てば経つほどに暗くなっていくのぞみに、アカツキは複雑な思いを抱いていた。
そして、『鉄道』が使えるようになったことで、少しでも、のぞみに前向きな気持ちになってもらいたかったのだ。
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