第11話 持ち直した鉄子。
のぞみは、自分のステータスを改めて確認した。
【下松のぞみ 15歳 レベル30
HP750、MP3000、ちから150、かしこさ600、すばやさ420、みのまもり180
職業:勇者
勇者基本スキル『成長加速』『アイテムボックス【※】』『勇者装備使用許可』
一般スキル『土魔法【※】』
固有スキル『鉄道』
『線路購入』(直線レール〈P〉)】
(つ、使えるって、言っちゃったけど……線路購入? とりあえずMP不足ってのはなくなったし、使えるのは確かだよね?)
「それで、ノゾミくん。ゆっくりでいいから、君の固有スキル『鉄道』について、使えるようになって分かったことを教えてくれないかな?」
「あ……はい。その……線路が、買えるみたい、ですケド……」
「線路……?」
(『鉄道』で線路が買える? 電車ではなくて線路だと? いや、そうか。『鉄道』とは、鉄の道だな。電車よりも線路の方が確かに『鉄道』だろうか? だが、線路だけでは『鉄道』の持つ本当の影響力が出せないか……)
アカツキは線路と聞かされて、考え込んでしまった。アカツキがオジサン軍団に語った鉄道の価値は圧倒的な輸送能力についてだ。
蒸気機関車による陸上輸送は産業革命を根底から支えた。
世界中の地図には、それまでになかった鉄道の路線が毎日のように描き加えられたはずだ。また、軍事的な価値も大きいと考えられる。
それは、線路だけで果たせるものではなかった。
(……待てよ? 線路なら少なくとも、かなりの量の鉄、しかもかなり良質な鋼鉄が確保できるんじゃないのか? こっちの世界でそれを加工できるかどうかは分からないが、あっちの世界の線路が手に入って、それが素材となるだけでも価値はあるはずだな? それに、電車がなくとも、この世界には馬車がある。線路に合わせて改造した馬車を走らせる方が、この世界に合ってるかもしれんぞ?)
「ほへーっ、線路が買えんのかよーっ! すっげーっ! いや、すげーのかどーなのかわっかんねぇけどさ、なんかすげーっ! たぶんすげーっ! なあ、ちょっとやってみなよ、テツコちゃん!」
「え、あ、あの……」
アカツキの思考はナハの能天気な言葉で遮られた。
「ほらほら、やってみなって!」
「そ、その……」
「ほれほれ、そこに……っ! 痛いっス、ツキさん!」
今度はゴツンとナハの後頭部にゲンコツを入れたアカツキだった。
「馬鹿野郎、ナハ。ここはダンジョン、しかも深層間近の中層だぞ? ここの地面を見ろ、周りを見ろ、幅を見ろ」
「へっ?」
「こんなところに線路を出したらどうなる?」
「……あー、そうっスね。納得っス。ごめんよー、テツコちゃん」
こんなせまいところに線路などだしてしまったら邪魔でしょうがない。
それに、アカツキもナハも、アイテムボックスが勇者のスキルとして使えるが、一人で野営するための準備を入れたら、それでだいたい一杯になるぐらいの容量しかないのだ。
線路など、こんな深層付近からでは到底持ち帰ることができない。
「あ……あはは……すみ、ません……」
「お、ヒサビじゃん? テツコちゃん、笑ったね? うんうん、かーいーねー」
ナハにそう言われて、のぞみは、これまでの間、笑うこともなかったのだと、思い出したのだった。
この後、アカツキは聖都に戻ってからのぞみのスキルを試すべきだと判断して、ダンジョンから引き上げたのだった。
アカツキは、のぞみのこれからに光を見出していた。
異世界は今、はじめての鉄道を迎えようとしていた。
聖都に戻ったアカツキはオジサン軍団と面会し、のぞみがついに固有スキル『鉄道』が使える状態になったことを報告した。
「ついにきたか……」
「勇者アカツキの話では、教国の輸送力が強化されるというのじゃったな?」
「魔力量3000の固有スキルか……とんでもない魔力量が必要だな……」
「それだけに期待は十分じゃのう」
興奮しながらも、声をおさえるようにしゃべるオジサン軍団に、アカツキは違和感を感じながら、それでものぞみを守る言葉を続ける。
「だが、ノゾミくんは、ここまでのダンジョンの戦闘で、かなり精神的に疲弊している。だから、これ以上、彼女を追い詰めないでほしい」
「分かっておるよ、勇者アカツキ。そなたの言う、『線路』とやらだけでは、輸送力そのものは高められないと言うのじゃろう?」
「だが、素材としての可能性は、高いのじゃよな? それだけでも十分な成果と言えよう」
「『線路』をうまく使って、上に馬車を走らせる、というのも面白い。馬車専用の道として使うという発想はなかった」
「ふむ。車輪をぬかるみにとられるようなことがなくなるのであろう? それだけでも今よりはよい」
オジサン軍団はのぞみのスキルに期待していた。
その点については、アカツキも期待していたので、この場で同調したりはしないが、同感ではあった。
これまで謎だった固有スキル『鉄道』が、ついにその真の力を見せるのだ。
期待するな、という方が難しい。
「今日のところは、勇者ノゾミをゆっくり休ませてやるがよい。固有スキル『鉄道』は広い場所が必要なのであろう? 明日、聖王城の聖騎士訓練場で試してみようではないか」
この、宰相が下した決定が、のぞみの運命を大きく動かしてしまうのだった。
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