目の悪い国

※ゆかり様の「王様だからね」のリメイク作品です。


 むかしむかし、あるところに二つの隣り合った国がありました。土地柄なのかなんなのか、この二つ国の人々はそろいもそろって目が悪くありました。近視に遠視、それから乱視。人々は日々、目の悪さに悩んでいました。

 片方の国の人々は皆「眼鏡」を掛けていました。レンズの分厚い黒縁眼鏡をまるで体の一部であるかのように身に着けていました。その国の王もお気に入りの眼鏡をわが子のように大切に扱っていました。

 もう片方の国の人々は皆「コンタクトレンズ」を着けていました。朝起きるとすぐに鏡の前で目を開き、夜は寝る直前まで外すことはありませんでした。その国の女王も三六五日、コンタクトレンズを着けない日はないほど愛用していた。

 この二つの国はとても仲が悪くありました。眼鏡の国の人々はコンタクトの国の人々を「目にものを入れるなんて頭がおかしい」「目の中でレンズが割れたらどうするつもりなんだ」と馬鹿にしていました。コンタクトの国の人々は眼鏡の国の人々を「ダサい」「むさくるしい」「目ちっさ」と馬鹿にしていました。王と女王も顔を合わせるたびに相手のものにケチを付け、毎日毎日いがみ合っていました。


 ある日のこと、二つの国に海の向こうから使者が訪れました。聞くところによると、その使者の国の人々も目の悪さに苦しんでいたらしいのです。

「しかし、そなたは眼鏡を掛けてはおらぬ。コンタクトレンズを着けているのか?」

王は使者にそう尋ねました。

「いいえ、私はそのようなものは着けておりません」

「ならば、そなたはもともと目が悪くない特別な人間なのか?」

女王も使者に尋ねます。

「いいえ、そうでもありません。私ももともとは近視に悩んでおりました」

「では、どうして何もつけておらぬのじゃ?」

「私共の国には『レーシック』という医療技術があります。レーシックでは、眼の角膜にレーザーを当てその屈折力を調整することで視力を回復することができます。私はそのレーシックを行ったため、この通り裸眼でもものがよく見えるのです」

 二人は使者の言葉に目を丸くしました。生まれてこのかた、ずっと目の悪かった二人にとって、裸眼で生きるということは夢のまた夢だったのです。

 二人は「是非ともその技術を我が国にも教えて欲しい」と懇願し、使者はそれを快く承諾しました。ほどなくして、レーシック治療は二つの国に広まり、人々は裸眼という自由を手に入れたのです。


めでたしめでたし


と、終わりたいところですが、話はそうもうまくはいきませんでした。

 しばらくの間、眼鏡の国の人々も顔にものを着けなくていいことを喜んでいましたが、しばらくすると、その何も着けていないことが気になりだしました。今までは当然のようにあった眼鏡が無くなってしまい、自分の顔に物足りなさを感じたり、何度も鼻筋を指でこすったり、在りもしない眼鏡を探したりしました。コンタクトの国の人々もそれは同じでした。朝起きると鏡に向かっては我に返り、昼間も目が気になって何度も目薬を点しました。人々にとって眼鏡やコンタクトはかけがえのないものになっていたのです。

 人々は再び眼鏡やコンタクトを着けるようになりました。もちろんそこに度は入っていません。着けているという実感が欲しかったのです。

 しかし、ただ身に着けているのも面白くない。度を入れなくなって制約がなくなったのもあるでしょう、しばらくすると、それらはどんどんオシャレに進化していきました。眼鏡はフレームのカラフルなものや細いもの、レンズに色の入ったものが作られました。コンタクトは瞳を大きくしたり違う色にしたりできるようになりました。人々にとって眼鏡とコンタクトは医療器具からファッションアイテムへと変化したのです。


 昔から続く不仲がそうそうなくなることはなく、レーシックが普及してからも二つの国はいがみ合っていました。

 その日、二つの国の王たちは久しぶりに顔を合わせました。王は愛用している細いメタルフレームの伊達眼鏡を掛けていきました。女王はお気に入りの青いカラーコンタクトを着けていきました。

 二人はお互いの顔を見ると、呆気にとられました。そして、しばらくの間見つめ合い、ぼそりと心の中で呟きました。

「「ちょっといいじゃない」か」


 この日から、今までとはうってかわって、二つの国は少しずつ仲が良くなり、人々は眼鏡もコンタクトもどっちも楽しむようになっていったとか。


 あらためまして、めでたしめでたし。

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この二つのお話、面白く調理してください 佐々木キャロット @carrot_sasaki

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