第16話:無事、人間界に生還したふたり。

俺と真凛は、恐る恐る鏡の中に入っていった。


「こら、おまえら、待て待て・・・年寄りを置いていくな」


そう言って鴻鈞道人は俺たちの後をついてきた。

鏡の途中まで行ったところで、俺も真凛も気付かないうちに気を失っていた。


どのくらい時間が経ったのか、ふと気がつくと土と草の匂いがした。

頭を持ち上げて周りを見ると、そこはなんと蘆屋道満あしやどうまんの塚の前だった。

俺はそこに横たわっていた。


(魂が体に戻ってる)

(そうか、俺の体はここに置いたままになってたんだ)

(道満さんが、この場所に戻ってこれるようにしていてくれたんだな)


「そうだ、真凛・・・?」


俺の横を見ると俺の手をしっかり握りしめたまま寝むっている真凛がいた。

ちゃんと真凛がいるのを見て俺は安心した。

赤い着物を着たまま、こっちへ帰ってきたみたいだ。


「真凛・・・真凛、起きろ」


真凛は俺に揺り動かされて、起こされたのがイヤみたな仕草でごねた。


「ヤダ・・・もう少しだけ・・・もう少しだけ寝る」


「真凛・・・俺だよ・・・ほら起きて」


「え〜・・・・あ、春樹・・・晴樹、なにしてるの?」


「俺たち黄泉国よもつくにから無事に帰ってこれたんだよ」


「ほんと?」


「ほら、間違いなく道満さんのお塚の前だろ?」


「ほんとだ・・・よかった晴樹〜」


そう言って真凛は俺にしがみついてきた。

俺は嬉しさのあまり真凛を抱きしめた後で彼女の無事を確かめるように

キスした。


「もう離さないからな」


「お〜お〜、いちゃいちゃしおって・・・」


「俺は驚いて、声のした方を振り向いた」


するといつの間にか、イヤそうな顔をした道満さんが立っていた。


「いきなり出てこられたら、びっくりするじゃないですか?」

「もう周りは暗くならないんですか?」


「もったいぶった演出はやめたわ」


「演出?」


「そんなことより無事に帰ってこれたようじゃな」

「お前の魂もちゃんと体に戻ってるようじゃ」


そういうと道満はなにやら呪文みたな言葉を唱えた。


「晴樹の魂はもう体からは離れんようにした」


「じゃが真凛の魂はまだ体に戻っておらんからな」

「さあ、とっとと真凛を連れて帰れ」

「もたついていたら真凛の魂はまた黄泉国よもつくにに引き戻されるぞ」


「よいか?二度目はないと思え・・・次、黄泉国へ行ったらもう二度と

真凛の魂は取り戻せんぞ」

「今回は計画どおりにことがうまく運んだことと運がよかっただけじゃ」


「分かりました・・・道満さん今回は、お世話になりました」

「ありがとうございました」


「おじいちゃんも、ありがとう」


「わしのことか?」


爺さんが言った。


「あ、鴻鈞道人・・・そうか連れてきてたんだ・・・」


「さっきから、ここにおるのに無視して娘御とやらしいことしおって 」

「そのまま娘御と目合まぐわうのかと思ったぞ」


目合まぐわうって・・・こんなところで、そんなことしないよ」


つづく。


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