第12話:鴻鈞道人(こうきんどうじん)
俺はマリンを連れてヨモツシコメの屋敷に向かった。
途中、いろんな人に出会ったが誰も俺たちに声をかけるものはいなかった。
しばらく行くと食い物屋が立ち並ぶ場所にやってきた。
ラーメン屋とか中華料理店にたこ焼きや・・・ピザ屋まで、いろいろ。
「ここにいる人たちはみんな魂じゃないのかよ」
「食べたりするのか?」
「どうなのかな・・・
思えなかったけど・・・」
「生きてる人でここに来たって人がいないのなら人間界でこんな国がある
なんてこと誰も知らないんでしょ?」
「でも道満さんは知ってたぞ・・・」
「陰陽師なんてしてたから怪しいことにも首を突っ込んでたんだよ」
「そうだなそもそも陰陽師なんて、胡散臭い商売だよな」
そんなこと言うと、ふたりのご先祖様も形無し。
「こういう世界も、いろんな異次元の中のひとつなんだろうな・・・」
「腹減ってないか、真凛?」
「たこ焼きでも食ってくか?」
「腹が減っては戦はできぬって言うだろ?」
「これからヨモツシコメのところに行くんだからパワーつけとかなきゃ」
「でも、お金持ってないよ」
「俺はいくらか持ってるけど・・・・人間の世界の金なんか通用しない
かもな・・・」
「試しに聞いてみるかな」
「って言うか、そんな悠長なことしてられないんでしょ」
「早くここを抜けないと、ふたりとも戻れなくなるよ」
「そうだな、道草食ってる場合じゃなかった・・・」
ふたりはヨモツシコメの屋敷がかなり大きく見えるところまでやって来た。
正塚婆が言ったとおり屋敷は、湖の真ん中にある浮島に建っていてこちらの
位置からは、かなり離れていた。
そこまで橋もかかってないので館に行く手立てが見つからなかった。
「どうやって、ヨモツシコメの館まで行きゃいいんだ・・・」
「お手上げだね・・・」
「誰か、あのお屋敷に行ける方法知ってる人いないかな・・・」
「おまえら、あの屋敷に行きたいのか?」
「えっ」
そう声をかけられて俺は振り向いた。
見ると、小ぶりな奇妙な老人が、ひとり立っていた。
子供みたいに小さくて頭はツルッパゲなのに地面にも届きそうなくらいの
白い髭を偉そ〜に生やしていた。
「あなたは?」
真凛がそう聞くと、老人は答えた。
「わしは
「はあ、こんにちは、こうきん?」
「こうきんどうじん」
「はあ・・・その道人さんが俺たちになにか用ですか?」
「正塚婆から連絡をもらってたんでな・・・おまえらをここで待っとったんじゃ」
「ああ・・・正塚婆の・・・」
「じゃから、おまえら、あの屋敷に行きたいんじゃろ?」
「あ、はい・・・あそこに行きたいんですけど・・・」
「だいいち、あの化け物のところに何の用事で行きたいんじゃ?」
「行っても、すぐに食われてヨモツシコメのうんこになって、しまいじゃ」
「どうしても行かなきゃいけないんです」
「でも、どうしてあんな場所に屋敷があるんです、不便でしょ」
「あいつは空を飛べるでな・・・だからあんなところに屋敷があるんじゃ」
「わしも実はあいつには恨みがあるで・・・」
「昔、大切な人を、あいつに食われたんじゃ」
「じゃから事と次第によっては、力にならんでもないぞ」
「あんな、化け物のところに行こうって言うんだから、のっぴきならねえ
訳があるんじゃろうが・・・」
そこで俺は、これまでのことを抗菌道人に話して聞かせた。
本当は、そんな話なんかしてる暇なんてないんだよ。
「なるほどのう・・・その鏡、それがおまえらの世界とつながっとるっ
ちゅう訳か?」
「おまえら、その鏡で自分らの世界に帰るんなら、わしも連れて行ってくれんかの」
「本当なら、あの屋敷まで連れて行ってやるのに、なにか代償をもらうんじゃが
おまえらの世界に連れてってくれるならタダであの屋敷まで連れて行ってやるが・・・どうじゃ?」
「え?そんなことしていいんですか?ここにいなきゃいけないんじゃ」
「わしはもう何千年も前に中国からここにやってきて、ここに住み着いておったが
ここも飽きた・・・別の世界にいきたくなったで・・・」
「俺はかまわないですよ・・・真凛さえ救い出すことができたら」
「道人さんを俺たち世界に連れて行っても・・・」
「春樹・・・そんな約束していいの・・・」
「おじいちゃん、ここの人だよ」
「
「あ、いえ、帰りたいです」
「わしはおまえらの世界に行きたい、
「お互いの利害は成立しておるではないか?」
「あの屋敷まで連れて行ってやろうって親切で言っておるのだぞ」
「人の親切を無にするものではないぞ、
「ごめんなさい・・・お願いします、おじいちゃん」
「素直でよろしい」
「では、早速でかけるかの・・・」
つづく。
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