第11話:現れた安倍晴明。

「でも、ここにいるわけにはいかないんだ」

「前に進まなきゃ・・・そのヨモツコシメって化け物のところに

なんとしても辿り着かなきゃ、俺たちは永遠に現世には帰れないんだよ」

「俺が命をかけても真凛を守るから・・・」


「とにかく急いでここを抜けよう」


「こら、おまえら勢いがあっていいがな」

「誰もヨモツシコメには近づかないよ・・・あいつは普段あんたらみたいに迷い込んできた魂を食って生きてるんだよ」

「なんでも何千年も昔、この黄泉国よもつくにに来た中国の妖怪らしいがな」


「まあ食われたら、その時はほんとの魂になるからそのほうがいいかもな・・・」


他人事だと思って好き勝手なことをいうババアだ。


「ただし、予母都志許売ヨモツシコメの屋敷は湖の浮島に建っとる、

橋もかかっとらんから、そのままで屋敷には入れんからな」


「じゃが、わしにもってこいの知り合いがおるで・・・そいつに連絡しといて

やるからそいつに屋敷まで連れて行ってもらえ」


「そいつは鴻鈞道人こうきんどうじんっちゅう、小さいじじいじゃ」

屋敷の近くまでいけば、そいつに会えるようにしておいてやるで・・・」


「ありがとう、おばあちゃん」


「お嬢ちゃん、無事に人間界に帰れよ」


「はい・・・恩にきます」


そして正塚婆しょうづかのばばに教えてもらった予母都志許売ヨモツシコメの住処に俺は真凛を連れて向かった。


ひとつ峠を越したところから遠くに正塚婆が言ったとおり、ヨモツシコメの

真っ赤な館が見えた。

まるで中国の重慶にある洪崖洞ホンヤー・トンみたいな建物だった。


さあ、これからだと覚悟を見めた時、俺たちの目の前に誰かがスーッと現れた。

最初は正塚婆が言っていた、小さいじいさんかと思ったが違っていた。

それは道満さんと同じように平安時代のお公家さんみたいな格好をした人だった。

一瞬、道満さんかとも思ったがまたもや違っていた。


「あなたは?」


「道満から聞いておる・・・ヨモツシコメのところへ行くのであろう?」


「あの・・・おじさん誰?」


娘御むすめご・・・私は、あんたの彼氏のご先祖さんじゃよ」


「彼氏って・・・」


真凛は顔を赤らめた。


安倍晴明あべのせいめい・・・さん?」


「正解・・・話のすべては道満から聞いておる」

「道満は塚からは抜けられんから、私が代わりに来た」


「ヨモツシコメの屋敷にただ忍び込んで、やみくもに進んで万が一にも、

みつかったらたちどころに、あの化け物女の餌食になるぞ」


「コモツシコメを知ってるんですか?」

「まあな・・・話せば長くなるゆえ、やめておくがな・・・」


「さてそこでじゃ、私の式神をそなたらに渡しておくから、いざとなったら

それを使うがよい」

「良いか、私の式神がおまえたちを守ってる隙に、おまえたちは鏡を使って、

人間界へ戻ってこい」


「もし、すべて段取りどうりいけば、おまえらは無事ラブラブな生活に戻る

ことができるからの」


そうい言って晴明は人形型をした「式札(しきふだ)」と呼ばれる和紙札

を俺に渡した。


「ましヨモツシコメに見つかったら、その式神を化け物に向かって投げろ」


悪行罰示神あくぎょうばっししきがみが現れておまえらを守ってくれる」


「あくぎょうばっししきがみ?・・・って?」


「昔、悪さをしていた悪神じゃ・・・わしが改心させて式神として使って

おるのじゃ」

「私ができるのはここまで・・・直接は手助けはできんから、あとは自分たちの

運命は自分たちで切り開け」


「がんばれよ・・・彼女を連れて無事に現世に戻れ・・・よいな」


そう言って安倍晴明は姿を消した。


「ごめんね、晴樹・・・なんかさ、とんでもないことになっちゃったね」

「どうしよう」


「きっと、うまくいくよ」

「こんなところに一生閉じ込められてるわけにはいかないからね」

「がんばってなんとかして、抜け出さないと・・・」


「俺には真凛ていう女神様がついてるから・・・君は俺の守り神だ」


俺はそう言って自分の気持ちを奮い立たせた。


「さあ、行こう、真凛」


「うん・・・」


つづく。

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