第10話:正塚婆(しょうづかのばば)

「だから、ここから出なくちゃ」

「出る方法は道満さんから聞いてる」


「ここにいる予母都志許売ヨモツシコメって女の化け物がいるらしいんだ

そいつの部屋にある鏡に俺たちのアザを映したら向こうに帰れる道が開ける

んだって道満さんが言ってた」


「だからヨモツシコメの部屋を探さなくちゃ」

「とりあえず、この部屋から出よう・・・」


俺は真凛の手を引いて、あたりに誰もいないか確かめながら外に出た。


「ここはまだ黄泉國よもつくにじゃないんだな・・・」


「あんたら・・・ここでなにやってんの?」


「あら、見つかっちゃった」


真凛は両手で顔を覆った。


そこには皺くちゃの、ざんばら白髪の老婆が立っていた。


「真凛、このばあちゃん知ってるのか? 」


「私がさっき、怒られるって言った正塚婆しょうづかのばばさんだよ。


「おばあさん、ここの人ですか? 」


「まあ、厳密にはそうじゃないけどね・・・わたしゃ、ここでバイト

してんだよ」

「いつもは、黄泉比良坂よもつひらさかってところに住んでるんじゃ」


「不景気だからね、バイトでもしなきゃと食ってけないんだよ」

「なんで、こんな歳取ってまで働かなきゃいけないのかね」


「人間の世界もここも同じようなもんなんだな」


「ここは毎日、死者の魂が来るから働くのには困らないんだよ」


「死者の魂って・・・俺も真凛もまだ死んでないけど・・・」


「それがほんとなら、面倒なことになるよ、あんたら・・・」

「死んでもないのに魂だけこっちに来たら、それはルール違反だ」

「ここは死んだ者しか受けつけてもられないからね」


「じゃ〜俺たちどうなるんですか?」


「裁かれることもなく転生することもなく魂が朽ち果てるるまでここに

とどまることになるね、永久にね ・・・」


「マジか・・・じゃあ尚更ここを抜け出さなきゃ」

「おばあちゃん、ヨモツシコメって人の住処知ってる?


「ヨモツシコメじゃと?」


「あんな化け物になんか用事でもあるのか?」


「どうしても、そいつのところに行かなきゃいけないんだ」


「おまえら、食われるぞ・・・」


「あんな化けもんのところには近寄らないほうがいいぞ・・・」

「言っといてやる、これがほんとの老婆心・・・なんちゃって」


「そんなに怖いやつなのか?ヨモツシコメって・・・」


「こら!!、無視すんな」


「晴樹・・・やめようよ・・・怖いよ、私」


「でも、ここにいるわけにはいかないんだ」

「前に進まなきゃ・・・そのヨモツコシメって化け物のところに

なんとしても辿り着かなきゃ、俺たちは永遠に現世には帰れないんだよ」

「俺が命をかけても真凛を守るから・・・」


「とにかく急いでここを抜けよう」


つづく。


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