第5話:晴樹と真凛、蘆屋道満に会う。
「ようやく来たか?真凛」
「え?私?」
「あなたは?・・・」
「おまえのご先祖様じゃ・・・」
「
晴樹が言った。
「青年、正解じゃ・・・いかにも我は蘆屋道満」
「こんなことあるんですね・・・信じられない」
「いずれ真凛はここに来るとは思っていたが、一ヶ月もかかったわ」
「私、幽体離脱したまま、体に戻れないくて・・・」
「で、この人がここへ来れば何か進展があるかもしれないって」
「それも分かっておる・・・」
「そもそも、眠ったままのそなたの体は、なんらかの延命処置をせねば
とっくに朽ちているはず」
「いまだに、状態を維持しているのは、わしの血を引いているからじゃ」
「幽体離脱したおまえをなんとかしてやりたいが、わしはここらから動く
ことはできん・・・おまえを元にもどしてやる力も今はもうない 」
「そこで、その青年と合うように仕向けたのだ」
「よいか・・・真凛、その青年とは偶然出会ったのではない」
「出会うようになっていたのだ・・・」
「そうなんですか?・・・
「なんで、そんなこと」
「その青年が、おまえを元に戻す力を持ってるからじゃ」
「青年、なんでおまえにだけ真凛の姿が見えるか分かるか?」
「いえ、まったく・・・」
「青年それは・・・おまえが安倍清明の血を引いてるからじゃ」
「え?そうなんですか?」
「おまえに真凛の姿が見えるのは、清明の力を宿してるからじゃよ」
「それが俺に真凛が見える理由?」
「青年、すくなからず、おまえは真凛に好意を持っているであろう?」
「好意って・・・なに言ってるんですか? 」
「俺と真凛は14歳も歳が離れてるんですよ・・・ありえないでしょ」
「まあ、理想的に言えば、もう少し歳が近ければ完璧じゃったんじゃが
それもしかたなかろう? 」
「じゃが、おまえしか真凛を元に戻してやることはできん」
「安倍晴明と蘆屋道満の子孫がひとつにならねばの・・・」
「その意味が分かるか?青年」
「分かりません?」
「じれったいやつじゃのう・・・」
「青年、真凛と一緒に暮らせば、そのうち分かる時が来る」
「それまではおまえが真凛の面倒を見てやってくれ」
「ただし、真凛の魂を戻すのに長く時間がかかてはならん」
「なるべく、すみやかにな・・・」
「それも、お前たち、お互いの気持ち次第」
「分かったな・・・青年、真凛のことを頼んだだぞ」
そう言うと道満は静かに消えていった。
「ちょっと待ってください・・・お互いの気持ち次第って?」
「どういう意味なんだよ?」
「最後までちゃんと教えろよな・・・」
「結局、いい方法、聞けなかったね」
真凛はちょとだけ落胆した。
「しょうがない・・・一度俺のマンションに帰るか・・・」
「態勢を立て直して、もう一度出直そう」
「何か、考えあるの?」
「今度は俺の、ご先祖様に会ってみるとか・・・道満さんみたいに出てきて
くれたらだけど・・・」
「さ、帰ろう真凛・・・」
「ごめん、知らない間に君のこと呼び捨てになっちゃってたね」
「いいよ・・・呼び捨てで・・・真凛でいい」
「じゃ〜俺のことも安倍さんって呼び方はやめないか?」
「何て呼べば?」
「晴樹で、いいんじゃないか?」
「私よりずっと年上なんだけど・・・呼び捨てじゃ失礼だよ」
「歳なんか関係ないだろ・・・」
「誰かを好きになるのに、歳、関係あるか?」
「えっ?好きって・・・」
「あ〜言葉のアヤ・・・たとえばだよ・・・」
ふっとなにげなく俺は自分の気持ちが出てしまった。
「そうだよね・・・でも誰かと好き同士になってもこの状態じゃ・・・
やっぱりダメだよね」
俺は一瞬、いけないことを考えた、魂とでもエッチできるのか?
触れることなんてできるのか?
「ああ・・・早く元に戻らなくちゃな・・・」
俺は地元に帰ると真凛をマンションに招待した。
思えば女性が俺の部屋に入るなんて、今までなかったことだった。
まだ子供みたいな真凛だったが女っ気があるってのはいいもんだなって思った。
ひとり孤独に暮らす男には女子高生は目の毒だ・・・眩しすぎる。
「はい・・・遠慮しないで入って?」
「それとも一人暮らしの男の部屋は嫌かな」
「そんなことないけど・・・私も家に帰るくらいしか行くところないし」
「街中を徘徊することも飽きたし・・・」
「そう・・・じゃ、ゆっくりして」
「いくところなかったら、ここにいていいからね」
「高校だってもう行けてないだろうし・・・」
「そうだね、学校の先生が心配して、親戚のおばちゃんに連絡してくれた
みたいだけど、事情を聞いて私を休学にしてくれてるみたい」
「あのさ・・・君のことは見えるんだけど、触れることとかは
できないんだよね」
「大丈夫と思うけど・・・私、壁を通り抜けたりはできないみたい」
「人とすれ違う時、避けないとあたったりするから」
「魂なのに実体があるみたいって不思議だよね」
「抵抗がないと、こうして建物にだって入れないし床だって抜けちゃうよ」
「だから触れることはできるんじゃないかな?」
「え、俺には真凛が見えるけど、普通の人は見えないんだろ」
「だったら、透明人間みたいなもんなのかな?」
「ああ、透明人間も触れられるのかな?・・・そうなんだよね」
「ちょっとこっちに来てみ?」
そう俺に言われて真凛は、俺のそばに来た。
俺は真凛の手に触れてみた。
「うん・・・スーッと抜けていくのかと思ったけど普通に触れる・・・」
「なるほどな触れることはできるんだ・・・」
「触れられるのと触れられないじゃ大きく違うからな」
「え?触れられた方がいいの?」
「そりゃそうでしょ・・・手だって繋げるし、ハグだってできるし」
「普通の人は見えないかもしれないけど俺は普通に真凛が見えるんだから、
幽体離脱してようがしてなかろうが状況は変わらないからね」
俺は真凛に触れられるなら、このままでも一向に差し支えないんだって思った。
「まあ、でもちゃんと元にもどった君に触れてみたいかな」
「あ、勘違いしないでよ・・・いやらしい意味で言ったわけじゃないからね」
「大丈夫だよ・・・私、嬉しいかも・・・」
「こうして、分かってくれる人がいるってだけで・・・」
「え・・・・なに、涙ぐんでるんだよ?」
「ごめん・・・一ヶ月ひとりぼっちで、心細かったから、今は嬉しいのと安心感
とで気持ちが溢れちゃって・・・」
俺は何も考えず、真凛を抱きしめていた。
彼女から、かすかに石鹸の匂いがした。
つづく。
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