#ワームホール
夜中に突然目が覚めた。
隣を見ても、鹿野と松原はまだ眠っている。
「余ってるから別の部屋も使っていいよ」とロトからは言われたが、なんとなく申し訳なくて三人とも同じ部屋で寝ている。
うーん、と少し悩んでから部屋を出た。
階段を降りていくと、ユキが近寄ってくる。
「ユキはまだ起きてたのか」
ユキの頭を撫でながら廊下を見ると、リビングから明かりが漏れていた。
そっと覗いてみると、なにやら真剣な顔をしているロトがいた。
机に大きな紙を広げて、何冊かの本を重ねている。
古そうな本を開いて羽根ペンを片手に持ち、紙を指差しながら本の記述と比べているらしい。
じっと藤田がロトを見ていると、視線に気づいたのかロトが顔を上げた。
「あれ、フジ。どうしたの?」
羽根ペンを机の上に置いて、ロトが椅子から立ち上がる。
「何もないよ。ただ、目が覚めちゃって」
「そっか。何か飲む? 僕、喉乾いちゃった」
「じゃあ飲もうかな」
ロトが空の鍋を火にかけたかと思えば、次の瞬間には鍋の中には水が入っている。
へえ、と藤田が目を丸くしている間に、あっという間にお茶が入った。
「どうぞ」
「ありがとう」
渡されたコップを手に持ったまま、藤田もロトが見ていた紙を覗き込む。
ロトは自分のコップを倒さないように遠くに置くと、また本に目を落とした。
残念ながら、ロトがかけてくれた言語通訳の魔法は、文字には適用されないらしい。
何が書いてあるのかさっぱり分からなかったが、小さくある挿絵と広げられた紙を見て、何についてロトが調べているのかはなんとなく分かった。
「それ、宇宙図?」
「うん。……あれ、フジ読めるの?」
目を丸くしたロト。
言い方からして、文字が読めないことには気づいていたようだ。
「ううん。文字は読めないけど、宇宙図は読んでたから」
書いてある内容は違うものの、書き方が同じであったため分かった。
中心にあるのがソルセルリーなのだろう。
「そっか」
ロトは何か考えていたらしいが、藤田の顔を見あげた。
「ねえ、フジがいた惑星では、宇宙のことはどれくらいわかってた?」
「どれくらいって?」
宇宙のこと、と言われてもその内容は幅広い。
どのジャンルの話を指しているのかが分からないと答えようがない。
眉をひそめた藤田を見て、聞き方がまずかったことに気づいたらしい。
ロトは頭を掻きながら続けた。
「ワープトンネルって知ってる?」
「ワープトンネル?」
うーんと考えて、ハッと気づいた。
名前の雰囲気からして、もしかしたら。
「ワープトンネルって、ワームホールのことかな」
「ワームホール?」
今度はロトが首を傾げた。
聞いたことがないらしい。
「別の場所に移動するトンネルみたいなもののことでしょ?」
「あ、そうそう。それのこと」
「うん。俺らはワームホールって呼んでるの」
へえ、とロトが本に目を落とす。
口の中で「ワームホール」としばらく呟いていたが、首を傾げた。
「ワープトンネルの方がわかりやすくない?」
言いたいことは分からなくもない。
藤田は苦笑した。
「ここではワープトンネルって言うんでしょ? 無理に俺らに合わせる必要はないよ」
宇宙図を見れば、ソルセルリーの近くに天体が描かれているのが分かった。
この書き方はブラックホールと同じだ。
ワームホールはブラックホールと同じ認識をされている、ということなのだろう。
「このワームホールだったんだろうな」
思わず呟くと、ロトは藤田の顔を見る。
「ワープトンネルのこと、詳しいの?」
「ワームホールは鹿野の専門範囲内だよ。俺ら、このワームホールに吸い込まれてここにたどり着いたみたいだから」
藤田の言葉に、ロトが目を丸くした。
「え、そうだったの?」
「そう。ワームホールを抜けるときに、重力に宇宙船が負けて故障して……」
そこまで言って気づいた。
「ロト、俺らってどこにいたの?」
考えてみれば、途中から記憶がない。
ワームホールを無事に抜けたかどうかも確認できないうちに、意識を失っていた。
そもそも、完全に宇宙船の制御は効かなくなっていた。
あぁ、と立ち上がったロト。
「ここから歩いて五分くらいの場所だよ。ものすごく大きな音が聞こえて、見に行ったら大きな白いものが落ちてたから」
ロトの言葉に、今度は藤田が目を丸くする。
その言い方だと。
「宇宙船、残ってるの? そのまま落ちたの?」
へ? とロトも目を丸くした。
「あれが宇宙船っていうやつなの?」
「そう。俺らが乗ってたやつでしょ? エクリプス152便っていうの」
お互いに目を丸くしたまま、顔を見合わせた。
「あ、だから見たことがあったんだ……ああいう宇宙船があるって、本の挿絵で見たの。なるほどね」
ロトは納得したらしく、頷いている。
なぜ宇宙船の挿絵がある本が存在しているのかも不思議ではあるけれど。
「ねえロト、その宇宙船は今もそのままになってる?」
藤田が思った以上に食いついてきたからか、ロトが一歩身を引いた。
「う、うん。みんなを助けてからそのままになってるよ。助けたときも、ドアを魔法で開けたくらい」
少し頬を引きつらせながら頷くロト。
ドアを魔法で開けた。
ドアを開けられるほど、そのまま残っているのかもしれない。
「ロト、そこまで連れて行って!」
「わかった、いいよ」
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