*ふゆうじゅつ

「いい? お皿を棚にしまうの。こうやって」


ロトが指を皿に向けると、皿はふわりと浮きあがって棚へと吸い込まれていく。


カチャリ、と小さな音を立てて、皿は棚の中に収まった。


うーん、とスクは眉根を寄せて、指を皿に向ける。


ブン、と浮きあがった皿を見て、ため息をついてロトはスクの魔法を取り消す。


「それ、飛行術。この間、フジのことを運んだときは浮遊術を使えてたのに、なんで?」

「俺が聞きたいよ!」


口を尖らせたスク。


飛行術と浮遊術の違いは微妙なものだが、どちらもうまく使えないと、箒で空を飛ぶときに問題が生じてしまう。


どうしても必要な技術なのだ。


「浮遊術学の教科書を持ってきて。僕も確認するよ」

「わかった」


スクが家の奥に駆けていくのを見送り、ロトは近くにいたユキの頭を撫でた。


スクはマントをつけているのに対し、ロトはマントも杖も何も持っていない。


ロトにとってはそのくらい自然に使える魔法なのだが、まだ学生であるスクはマントの助けを借りたほうがいい。


「スクも学園の三年生になったんだけどね。まだ僕に教えてもらおうとするんだから」


ユキは黙ったまま、ロトを見上げる。


学園の三年生は、人生の大きな選択を迫られる学年だ。


「教科書、これだよ」


戻ってきたスクが机の上に本を置く。


表紙を見て、あぁと納得した。


「ワタ先生?」

「そうだよ。ワタ先生」


「ワタ先生はこの教科書好きだなあ」とロトが教科書を手に取る。


「知ってるの?」

「そりゃもちろん。同じ学園の先生なんだから、知ってるよ」


そう苦笑して、本のページをパラパラとめくった。


「中身も変わってないなあ、相変わらずわかりにくい」


顔をしかめて、教科書を閉じた。


「もしかして、ロトちゃんもこの教科書使ってた?」

「うん。浮遊術学は新しい発見みたいなのもなかったし、ずっと変わんないね」


それでも、この教科書にこだわらなくていいだろうに……とロトはぶつぶつ言っている。


スクは首を傾げた。


「この教科書、よくないの?」

「いや、浮遊術学の有名な教科書だよ。でもね、僕はこっちの方がわかりやすいと思うんだよね」


ロトが振り返ると、ロトの研究スペースから本が一冊飛んでくる。


ロトの手に収まった本の表紙を見て、スクが首を傾げる。


「あれ? これ、ロトちゃんが読んでるの見たことあるよ」

「うん、僕の師匠が教えてくれた本なの。あまり知られてないけど、わかりやすいよ」


その言葉に、スクが本を手に取って中身をパラパラとめくる。


そのまま、スクは目を丸くした。


「わ、全然違う」

「でしょ? その本を読んで練習してみな。教科書には書いてあるけど、この本に書いてないものもあるからそこは僕が教えるよ」


ロトの言葉に、スクが目を輝かせる。


「本当? ありがとう! この本借りるね」

「うん、いいよ。頑張って」

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