#違い
今日はロトが学園に行くらしい。
気づいたときにはもう家にいなかったため、かなり早く出て行ったのだろう。
ロトがいないのだからスクも学園に行くのかと思えば、スクは違った。
藤田が一階におりると、スクはユキと一緒にいた。
藤田に気づいたのか「おはよう!」と声をかけてくる。
「おはよう。鹿野は?」
「シカはね、庭でなんかやってるよ。なんかを確認してみたいって言ってた」
スクはよく分かっていないのだろう。
情報が何もない。
それでも藤田は、鹿野が何をしているのか大体は察した。
鹿野の相変わらずの癖に、藤田は苦笑して庭を覗く。
「鹿野」
「あ、藤田さん」
しゃがんでいた鹿野が振り返った。
目の前にはスクが育てているという植物。
「そろそろ、藤田さんって呼ぶのやめてくれない? 藤田でいいよ」
「癖なんですよ、勘弁してください。それより、見てくださいよ」
これ、と鹿野が指さす植物を、藤田もしゃがんで観察する。
葉は少なく、正しく成長しているのかどうか、よく分からない植物だ。
「この植物、クラミっていうそうです。食べ物というより、薬の材料になることの方が多いらしいんですが食べられなくはない、って言ってました」
「それはスクが?」
「はい」
スクの言うことが、どこまで信用できるものなのか分からない。
苦笑いをしている藤田を見て、鹿野も察したのか苦笑する。
「それは置いておいて。このクラミっていうの、不思議ですよね。重力に完全に逆らってるんですよ。この葉とか、少しくらい引っ張られてもおかしくないと思うんですけどね」
葉に少し触れる鹿野を見て、藤田も葉に触れてみる。
確かに、少しくらい下がっていてもおかしくないほど、葉は薄く軽い。
それでも重力なんてないかのように、空に向かって伸びていた。
「松原にも話を聞いてみる? 専門ではないだろうけど、植物も研究はしてたって言ってなかったっけ」
「そういえば、そんなことを言ってたような気もしますね」
松原の研究分野は、宇宙空間での生物の成長とその影響を確認するものだ。
松原の場合は、宇宙空間では人間の身体にどんな影響があるのか、ということを自分の身体を使って研究していた。
文字通り、身体を張った研究をしている研究者だ。
「にしても、まだ松原は寝てるんですか?」
顔をしかめた鹿野。
「宇宙船でも寝起きは悪かったからね。起こさない方がいいよ」
藤田は肩をすくめた。
#
ご飯を食べる頃になっても、松原は起きてこなかった。
三人がご飯を食べ終わってスクが片付けを始めたころに、やっと姿を現した。
「あ、おはようマツ! ご飯用意するね!」
「……ごめん、ありがとう」
くしゃっと頭を掻いて、申し訳なさそうにしている松原。
大丈夫だよ! と元気にスクが返事をしたのを見て、藤田は庭に出た。
そのまま空を見上げていると、鹿野も気になったのか庭に出てくる。
「どうしたんですか?」
「いや、不思議だなって思って。この惑星はどうも、あの星を中心に回っているらしいんだけど」
藤田が指さした方角を見る鹿野。
そこから肉眼でなんとか見えるくらいの、微かな光が放たれていた。
「え、あれが恒星なんですか?」
「うん、ロトが言ってた。ロトも宇宙については興味があったみたいで。でも、この惑星はあの恒星が中心になってここまで栄えたわけじゃなさそうなんだよね」
うーん、と首を傾げる藤田。
位置天文学を専門としていた身からすると、そういう部分が気になる。
恒星があったとしても、あれだけ遠いか小さい恒星ならば、こんなに繁栄している惑星があるだろうとは思わない。
そもそも、惑星という定義からも外れていそうな星だ。
「じゃあ、ちゃんと空が明るくなったり暗くなったりするのはどうしてなんですか?」
「それもロトに聞いた。あれだって言ってたけど、直接見ない方がいいよ」
今はちょうど真上にある、白く光っている物体を指さす。
鹿野は目を細めて見ようとしていたが、目が痛くなったのかやめた。
「本来はこの惑星はずっと昼か夜なんだって。でもそれだと困るから、人工的に昼と夜を切り替えてるんだってさ」
「人工的に、ですか」
肩をすくめた藤田。
「魔法だって言ってたけどね。それを仕事にしてる人が学園にいるんだって」
へえ、と今度は植物を見ている鹿野。
学園の学生だというスクも、かなりの魔法を使いこなしているような感じがする。
学園はかなりしっかりした教育機関なのだろう。
「よほど、その学園ってのはすごい場所なんでしょうね」
「みたいだね。その学園の先生だっていうロトも、すごい人なんだと思うよ」
はは、と苦笑した藤田。
家での様子だけを見ていたら、あまりそんな感じはしない。
「講義をサボる先生、ね。藤田さんもそうでしたよね」
「それは掘り返さなくてもよくない? しかもそんなサボってたわけじゃ」
抗議をした藤田に向かって肩をすくめて、鹿野は家の中に入っていく。
「鹿野だって講義はサボってただろ……」
呆れながらも、藤田も家の中に入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます