*せんもんはなに?

後片付けは、ロトの魔法によって行われていた。


宙を飛んでいく皿たちを、興味深そうに眺めている鹿野。


自分たちにとってみれば当たり前の光景だが、そうではないらしい。


「三人は研究者だったの?」


じゃれついてくるユキをスクに渡して、ロトは藤田を見る。


「そう。地球っていう惑星の出身なんだけど」

「チキュウ……?」


聞き慣れない言葉に、ロトはスクと顔を見合わせる。


どこにあるのかも分からない惑星だ。


本当に、全く知らない場所からやってきた人たちらしい。


「さっきも言ったけど、ここはソルセルリーって惑星なの。魔法の惑星。僕もスクも、魔法を使って生活してる」


皿を眺めていた鹿野が苦笑する。


「私が目が覚ましてから、何回もその魔法ってものを使ってますよね。私からしたらものすごく気になる現象ですよ」


確かに、鹿野はずっといろんなものを不思議そうに眺めている。


首を傾げたスク。


「そんなに不思議なの?」

「はい。どうやって皿を浮かせてるのか、とか」

「それは魔力だよ」


当然のように言うスクを見て、ロトは苦笑する。


「魔力がわからないからシカは不思議がってるんでしょ。シカも、フジも、マツも、みんな魔力を持ってないみたいだし」

「そっか」


残念そうにするスク。


そんなスクの顔を、ユキは慰めるように舐めている。


「分からないかもしれないけど、私たちの専門を教えておきます。藤田、位置天文学が専門です」

「鹿野、重力波天文学が専門です」

「俺、松原は宇宙医学の専門です」


紹介されたが、本当に何ひとつ分からない。


聞いたことのない単語の並びに、思わずスクと顔を見合わせてしまった。


「ロトは何の専門なの?」


藤田に聞かれ、首を傾げながらロトは答える。


「専門がなにかって言われたら困るけど、学園では水魔法学の授業を担当してるよ」

「ロトちゃんが水魔法学の最高責任者なの」


補足したスクを、じとっとした目で見るロト。


「余計なこと言わなくていいの」

「ごめんなさーい」


スクはえへへ、と笑い、反省している様子はない。


はあ、とため息をついたロト。


「スクがさっき言ってた偉い先生って、そういうこと?」


松原が首を傾げている。


本当に、言わなくていいことを言ってくれたものだ。


ロトは苦笑する。


「まあ、そういうこと。僕の師匠の先生が引退したから、その後を引き継いだの」


誇らしげに胸を張るスク。


「そのロトちゃんの弟子が俺なの!」

「だから、住みついてるだけでしょ」


えー、とふてくされているスクを見て、鹿野がふふと笑った。


あれ、とスクが目を丸くする。


それだけで済んだら良かったのだが、椅子から立ち上がって机に身を乗り出した。


慌ててスクの膝から飛び降りたユキ。


「シカ、笑うとかわいいじゃん! ずっとなんか難しそうな顔したり、不思議そうな顔をしてたから……イテッ」


片付けていたコップを一つ、スクの頭に当てる。


頭を押さえて、すごすごと椅子に戻ったスク。


「やめなさい。シカも困るでしょ」


ロトが呆れた顔をすると、藤田と松原もくすくす笑い始める。


鹿野は目を丸くしていたが、またふふ、と笑った。


「ほら、フジとマツにも笑われてるよ」

「ごめん……」


しゅんとしたスク。


スクの膝の上から追われたユキが、今度はロトの膝の上に乗ってくる。


「スクは何の勉強をしてるの?」


藤田に聞かれて、また元気になったロト。


「今はね、土魔法学と薬学の勉強してるんだ! あとはね、生活魔法もやってるの」


へえ……と感心している三人を見て、苦笑いをしたロト。


「土魔法学は去年取れなかったからやってるんでしょ」

「ちょっ、言わないでよロトちゃん!」


途端に焦り始めたスクを見て、ユキがひとつ吠える。


「ほら、ユキもちゃんと勉強しろって」

「してるもん……水魔法学は学年トップだったもん……」


いじけているスクに、ロトは顔をしかめる。


「それは僕が教えてあげたからでしょ? 飛行術学も、僕が教えたから成績がよかっただけなんじゃ」


今度は口を尖らせて、ケチ! と叫んでいる。


「土魔法学もロトちゃんが教えてくれたらよかったのに!」

「全部僕に頼ろうとしないでよ」


藤田と鹿野と松原が三人で顔を見合わせて、苦笑しているのが見えた。


「わかった。魔法陣の描き方だけ教えてくれない?」

「……はいはい、魔法陣ね。わかったよ」


肩をすくめたロトを見て、やったあ! と喜ぶスク。


遊んでくれると勘違いしたのか、そんなスクにユキが飛びついた。

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