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結局家族や友人に「七夕が来るが何を祈る予定なのか」を尋ねてみることにした。なにか参考になるかと思ったがみんなそれぞれ願い事の形が違いすぎて余計に分からなくなった、例えば
「私は今度のプロジェクトが成功するように祈るわ。あとは貴方たちの健康」
「僕はヒーローになりたい!」
「社長がハゲますように!」
「私は好きな人と付き合えるようお願いするよ〜」
みたいな。自分のことを願う人もいれば他人が絡むことをお願いしていてなんでもいいから書けって事なのかなあとすら思い始めた。
「それで、雪寧はお願い決まったの?」
「んーん、まだ悩んでるの。コレって書きたいものが見つからなかったら家族が元気でありますようにって書くつもり」
「雪寧、そのお願い事はとても嬉しいけれど雪寧のことをお父さんは願って欲しいな」
1週間後の夕飯の食卓で母が七夕のことを話題にした。少し前に相談したのを覚えてくれていたみたい。もう明日が締切なので今日この後適当に書いて終わらせるつもりだった。
「お姉ちゃん願い事ないの?僕が決めてあげようか?」
「お、陸斗。何がお姉ちゃんにいいと思う?」
お父さんは弟の髪をわしゃわしゃと豪快にかき回して弟に尋ねた。私もちょっと気になって弟を見つめる。
「えっとね〜、『美味しいものが食べれますように』とか、『新しく発売のゲームが欲しい』とか?」
「それ、陸斗のお願い事じゃん」
思わずツッコミを入れた。
「だめ?だって何も無いなら僕のことお願いしてくれてもいいじゃん」
「願い事は自分のことしか叶わないんだ、だからお姉ちゃんが願っても意味が無いだろう」
「そっか〜」
私は反論できなかったが、お父さんの言葉に納得したみたいで弟は何が1番の願い事なのかをお父さんと一緒に楽しげに悩んでいた。
(自分のことしか叶わない。か)
私はお父さんの言葉に引っかかって考えていた。確かに自分に関わることなのだから自分が動いてなにかすることでしか叶わない。弟だったら他人から与えられることもあるかもしれないけど、私はもう施されるだけの人間ではなくなってしまった。あれから考えて見つけた私の願い事はクラスメイトにみられるのは少々恥ずかしいものばかりでちょっと書く気になれない。でも、願い事を考えるという点で価値があった宿題だなと思った。
結局学校に持っていくことにした短冊には『家族健やかでいれますように』と書いて自室では別に叶えたいことを書いたメモを作った。いつかすべて叶えたい、そんな夢たちをまとめた。家族や仲のいい友達にさえちょっと言いたくない中身に仕上がったけれど書くことで少しすっきりした気持ちだ。他人に願うことではないから未来の自分に願う。どうか素敵な人生を送っていますように、それから幸せでありますように。元気にしていますように。
そう願うことで今のこの絶望しか見えない現状から抜け出せる気がするから。
願い事 れい @waiter-rei
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