願い事
れい
1
「調子はどう?検査では問題なかったみたいだけど」
「大丈夫だよ、ベッドに縛り付けられてたからむしろ元気! 」
1泊2日の検査入院が終わってお母さんがむかえにきてくれた。言葉の通り部屋から出れずゴロゴロ過ごしていたので非常に元気だ。
「お大事にしてくださいね」
「ありがとうございました」
会計待ちのロビーでもう触りすぎて楽しさも薄くなってきたゲームを虚無顔で回しているとようやく終わったみたいでお母さんがこちらに歩いてきた。
「帰ろうか」
「早く帰ろう!」
窮屈で仕方なかった病院に何となく手を振りながら別れを告げて、車に乗り込む。
「検査結果はまた聞きに来ないとだけど、最近暑いし暫くおうちに居ようね」
「学校もおやすみ?」
「とりあえずね。行き帰りの間に倒れちゃったら困るから、課題はお母さんが貰ってきてるから」
「はーい」
お母さんもお父さんも優しいのか厳しいのかよくわからない。病気がちになってから2人とも私に負担をかけることをとても怖がってるからやりたいことはやらせてくれるけどお勉強とか無理にさせないしなんなら休めと取り上げられることもある。最近は私も加減がわかってきてたつもりだったのだが、つもりだけだったみたい。椅子から立ち上がる時にとんでもないたちくらみを受けてそのままふらーっと。いつもの症状ではあるけどいつもより立ち上がれなくて、先生に担がれて保健室まで送られて仕事中だったはずの母がしばらくして私を引取りに来て、次の日には病院行きが決まった。
それを見てた友人からは心配のメッセージが来たが、また学校で会おうと曖昧な返事をした。
『お大事に、また学校で会おうね』
そんなやり取りが最後のメッセージを開いて、閉じた。退院したと言おうと思ったけど学校に行ける訳じゃないし見舞いに来て欲しい訳でもない。心配されるのにもちょっとうんざりだ。普通とは程遠いから。
たった1日いなかっただけなのに家に着くと安心感が私を襲った。
「ただいま」
「おかえりなさい。よく頑張ったね」
お母さんが私をハグしてくれる。暖かくて、安心して思わず泣きそうになるが耐えた。
「お母さんお仕事がまだ残ってるから戻るね。家にはいるから困ったら声掛けて。それでこれが学校からの預かりものね」
「ありがとう」
お母さんは少し膨らんだ紙袋をくれた。チラッと中身を除くとテスト期間に向けた課題とテスト範囲や日程が書かれている紙が1番上に見えた。そういえば、そんな季節か。仕事に戻る前の母に声をかける。
「お母さん、テストは受けに行きたいな」
「あらそう……?無理しないと約束するなら行ってもいいけど、約束できる?」
「もちろん、無理はしません」
「ならいいでしょう。とにかくそれを一通り見てゆっくり過ごすのよ」
お母さんは私の頭をぽんぽんとして仕事部屋に入っていった。リビングに残された私は何となくテレビをつけて一通りチャンネルを回してみたけど、3時にもならない中途半端な昼下がりには面白そうなテレビは何も無かった。
暇だ。
無駄にふかふかなソファに沈んでみるが、なんのやる気も起きない。思ったより疲れているらしい。
(貰った書類の整理しなきゃ……)
視界がスーッと細まってドアの開く音で目が覚めた。ちょっとびっくりした。
「ただいまー」
「おかえり」
「お姉ちゃんだ!おかえり!」
かわいい小さな私の弟は私に駆け寄って抱きついた。私も頭を撫でて応える。
「大丈夫なの?」
「とりあえずはね。入院しないといけないほど何かが悪いことはないから大丈夫だよ」
果たしてまだ10歳の弟がどこまで理解出来るかはわからないけど、大丈夫なことはわかってくれたみたい。
「お姉ちゃん遊べる?」
「うーん、ちょっとやる事やったら遊べるかも」
「じゃあ僕外で遊んでくるから帰ってきたらお姉ちゃん遊んでね!」
「多分大丈夫。気をつけて行ってらっしゃい」
「いってきまーす」
弟はお母さんに挨拶すらせずにランドセルをポイッと投げ捨てて必要なものを抱えて出ていった。スマホで時刻を確認すると3時半を示している。寝てたのはほんの1時間くらいみたい。弟に言った通り封筒の中身を確認することにした。封筒の中にはプリントの課題やお知らせなんかもごちゃごちゃになっているから自分のものとお母さんに渡すもので仕分ける。授業で使ったらしいプリントを数枚見てみたが、教科書とは関係なさそうなことをやっていてやり方がピンとこない。こういうプリントは授業を聞いていないとわからないやつだから困っちゃう。出来そうなものと出来ない奴と関係ないものなどで仕分けをして、その中からお母さんに見ておいて欲しいものはテーブルの上に置いとく。自分の奴は部屋に持っていく。締切は来月のテスト前までなのでまだ1ヶ月近くあるのだが、それとは別に締切が来週に差し迫っているものを見つけたから。
部屋の机に座ってソレを目の前に頭をひねる。幼い頃見た荒唐無稽な夢からは覚めてしまったし、願っても叶わないことも味わってしまったから。今更『七夕に願う願い事』なんて聞かれても困ってしまう。そもそも織姫と彦星は引き離されて幸せじゃなくなったのにどうして願えば叶うという習慣になったのか。ちょっと屁理屈だけどそれくらい他人に叶えて欲しいことなどなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます