196 最後の作戦
「バルゴリウムを囮に使う? どういうことだ?」
手島の眉間に皺が寄る。
彼だけでなく、その場の全員が困惑していた。
ウシ君やタロウも頭上に疑問符を浮かべて首を傾げている。
「手島さんらには言っていなかったけど、ここにいる水島愛理や港でくつろいでいるクロードって本物じゃないんだ」
「というと?」
「本物は異世界――つまり自分たちの国にいて、遠隔操作で動かしている。で、今の愛理やクロードの姿を異世界人は『換装体』と呼んでいるんだ」
俺が「だよな?」と確認したところ、愛理はコクリと頷いた。
「話が逸れて悪いんだけど、換装体の操作ってどんな感じなの? ゲームみたいにコントローラーを使う?」
興味津々の麻衣。
「地球でいうところのフルダイブ型のVRゲームみたいな感じ。ヘッドマウントディスプレイを頭に装着して操作するけど、その間、本体はベッドで寝ている」
愛理の答えに、麻衣が「なるほど!」と納得。
「あのー、フルダイブ型のVRって何ですかー?」
里奈が挙手する。
これには麻衣が答えた。
「最新のゲーム! 脳とデバイスをリンクさせることによって、視覚や聴覚だけじゃなくて全ての感覚をゲーム内に落とし込めるの! だから匂いや手触りなんかも分かる!」
「難しいー! 説明内容は分かるのにイメージできないよー!」
「じゃあこう言えば分かるかな? 頭にカポッてヘルメットみたいなのを装着してベッドに寝て遊ぶゲーム! 発売当初はお漏らししたり膀胱炎になったりする人が多発して問題にもなった!」
「あー、手島さんがたまにやってるやつだー! なるほどなるほど、あれがフルダイブ型のVRゲームっていうんだー!」
手島は「ふん」と顔を逸らした。
心なしか恥ずかしそうだ。
「で、風斗は本体のクロードを動かせなくしようというわけね! 奴がバルゴリウムに気を取られている隙に!」
麻衣が妙なドヤ顔で言う。
「いや、それはできない。クロードの本体に物理的な危害を加えると、その時点で奴等の計画は成功扱いとして打ち切りになり、異世界人が日本に攻め込んでくるからな。帰還はできるが、異世界人の野望を阻止することはできない」
「妨害するのは禁止なわけかー。……って、じゃあ愛理が仲間にいるのってまずいんじゃないの? それも計画の妨害になるんじゃ?」
「本当はそうなんだけどクロードが容認している。私の妨害があった上でクリアしたほうが箔が付くからって」
「なら遠慮なく妨害できるんじゃないの?」
「それはできない。クロードの言う『私の妨害』というのは、彼の行った不正な設定変更を修正することだけ。具体的に言うと、クロードは意図的に徘徊者の数を増やしたり、逆に全くいなくしたりしていたから、そういう不正を元通りにただした」
「夏目さんの推測が違うのであれば、漆田君の言う『バルゴリウムを囮にする』とはどういう意味だ? クロード本体に手を出せない以上、換装体に関する情報は不要だったようにも感じるが」
手島が逸れた話を戻した。
「ところが必要だったんだな、これが」
俺は怪しげな笑みを浮かべると、閃いた策を説明した。
「どういうことかというと――」
ペラペラ、ペラペラ。
大して長い話でもないためすぐに終わる。
「――とまぁこんな感じ。リスクはかなり高いけど、反応器が青く光ることに期待して物を買いまくるよりは現実的じゃないか?」
俺は皆の顔を見た。
誰もが驚きのあまりきょとんとしている。
「いやぁ、そうだけど……」
「どうした麻衣?」
「相変わらずとんでもないことを閃くなーって! やっぱり風斗はそうでなくちゃ!」
麻衣の顔がパッと明るくなる。
「私は風斗君の作戦に賛成です! 賭ける価値があります!」
美咲がニコッと微笑む。
それを皮切りに他の女性陣も続々と賛成票を投じる。
「ウチのメンバーはわりと乗り気みたいだけど、手島さんらはどうかな?」
真剣な表情で手島を見る。
この作戦には彼らの協力も必要不可欠だ。
「我々も君の作戦に従おう」
「なら決まりだ!」
俺は手を叩いた。
「話には聞いていたが、やはり大した男だ。きっとあの島での藤堂も、今の漆田君みたいな感じだったのだろうな」
そう呟き、手島は小さく笑った。
◇
先ほどの戦いで発動した〈聖域Lv.3〉が切れるまで残り数分。
俺たちは作戦の詳細を詰め、決行の時を待っていた。
「愛理、ポータルはすぐに作れるよな?」
「大丈夫」
「オーケー」
今回の作戦ではチームを三つに分ける。
リーダーは俺と手島、それと愛理だ。
手島のチームにはポータルで研究所に行ってもらう。
メンバーは武藤と重村、あと涼子、ジロウ、彩音だ。
愛理は単独のチーム。
ポータルを作る他、独自の任務に取り組んでもらう。
残りは全て俺のチームであり戦闘担当だ。
〈無敵〉を使ってクロードに攻撃を仕掛ける。
といっても、全員で突っ込むわけではない。
琴子、由香里、麻衣、里奈には甲板から援護射撃をしてもらう。
我がチームの目的は勝つことではなく時間稼ぎ。
クロードを引き付けて足止めすることに意味がある。
その間に手島たちがバルゴリウムを調達してゲートの生成を行う。
――というのが第一計画だ。
失敗する前提の計画だが、成功する可能性もある。
成功した場合は、ゲートを通って皆で日本に帰還する。
その時点で作戦終了、俺たちの勝ちだ。
残念ながら失敗した場合は第二計画に移行する。
俺の閃いた策というのがこれだ。
「あと2分でスキルの効果が切れますともー!」
琴子が告げる。
作戦開始の合図は〈聖域Lv.3〉の効果が切れた時だ。
「涼子、彩音、死ぬなよ」
「大丈夫! 栗原の分までお姉さんが頑張るのだ!」
「……と、意気込む涼子を盾にして生き延びるから私も大丈夫よ」
涼子が「なぬー!」と吠える。
そんな彼女を見て俺たちは笑った。
「これからも笑えるように頑張ろう」
「「「おう!」」」
皆が拳を突き上げる。
「漆田少年も健闘を祈る!」
「はいよ」
手島チームをレストランフロアに残して移動を開始。
スロープを下ろす準備に取りかかる。
「お? 覚悟を決めたか」
クロードが立ち上がる。
武器を召喚してやる気満々だ。
「残り10秒でスキルの効果が切れますとも! 10……9……」
琴子のカウントダウンが始まる。
「3……2……1……」
そして――。
「風斗、〈無敵Lv.3〉を使ったっす!」
燈花が報告すると同時に、美咲は手に持っていた酒瓶を空にした。
顔色が変わり、目つきに鋭さが増し、大きなゲップを繰り出す。
「うおおおおお! パワーがみなぎってきたぞぉおお!」
吠える美咲。
覚醒モードに突入だ。
「燈花! 美咲! 行くぞ! ラストバトルだ!」
クロードや大量の徘徊者がいる港に向かって、俺たちは突っ込んだ。
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