193 再会
「麻衣!? それに……」
俺の視線が、麻衣の背後に向く。
「手島!」
なんと手島祐治の姿があった。
その他にも三人いる。
「おいおい、呼び捨てか」
「あ、すみません、つい反射的に……」
他の連中にも目を向ける。
手島の傍に立っているのは、栗原と似た体格の大男。
ともすると栗原より筋肉量が多いかもしれない。
立っているだけで小便をちびってしまいそうな迫力がある。
一方、もう一人の男は頼もしさの欠片もない。
目元が隠れるほどの長い黒髪に、体つきも華奢なものだ。
背筋もやや猫背で、なんだか暗い印象を受けた。
年齢はどちらも手島と大差ないように見える。
20代前半といったところだ。
そして最後の一人は――。
「おお! 我が親友の里奈ではないか!」
「涼子ー! ちゃんと生きていてえらい!」
――麻衣と同じく帰還の権利を行使した宍戸里奈だった。
「麻衣、これは一体……。まさかクロードの作った幻か!?」
「違うって! クロードが誰か分からないけど!」
麻衣は軽い調子で笑い、さらに続けた。
「手島さんが新しいゲート生成器を完成させてね、それで侵入したの!」
「新しい生成器!?」
「やはり君は何も知らずにアレを渡してきたのだな」
と、俺を見る手島。
「アレって……こっそり渡したスマホのこと?」
「そうだ」
「スマホって何すか!?」
首を傾げる燈花たち。
事情を知る愛理だけは無表情で立っていた。
「アレのおかげで生成器を小型化……厳密には増幅器が不要になった。こうして少人数で島に侵入できたのはそのためだ」
その発言によって、俺はふと思った。
「手島さんたちはどうやってここに来たんだ……ですか?」
慌てて敬語に修正する。
手島は「普段の口調でいい」と言ってから答えた。
「どうやってというのはどういうことかな? 先ほど説明した通り我々は生成器を使ってゲートから来たわけだが?」
「いやそうなんだけど、どう言えばいいのかな。麻衣が帰還してから始まった最終イベントで、俺たちは日本を模したフィールドに転移した。それなのにあっさり来られたのはどうしてかなって」
手島は「あー」と理解した。
「その答えならスマホの地図アプリをたしかめたらいい」
「地図アプリ?」
「ガラパゴ……いや、コクーンの〈地図〉じゃなくて、スマホに最初から搭載されている地図アプリのことだ。ゴーグルマップとかヤホーマップみたいな」
言われた通りにゴーグルマップを開く。
すると――。
「座標が島の時と同じだ!」
俺たちの居場所は駿河湾の辺りから変わっていなかった。
だが、コクーンの〈地図〉だと茨城県の港が現在地になっている。
「君たちは別の全く異なる場所に転移したと思っているが、実際は島が変容したということだ」
「そうだったのか……」
言われるまで気づかなかった。
「だから私たちも驚いたんだよね。ゲートから侵入して島に向かっていたらさ、予想だにしない景色が広がっていたから!」
そう言うと、麻衣は彩音と愛理に自己紹介を始めた。
ペコペコと頭を下げつつ握手を交わしている。
「事情は分かったけど、ここにいるのはどうしてだ? それに海にだって敵がいるはず。襲われなかったのか?」
麻衣に尋ねたが、答えたのは手島だった。
「どうして襲われなかったかは我々にも分からないが、この船に転移者がいることは分かっていた。我々には探知機があるからな」
「探知機?」
「これだ」
手島が懐からトランシーバーのような機器を取り出した。
ディスプレイ付きで、ソナーらしき映像が映っている。
それを見ると、近くに赤い点が8つ表示されていた。
俺たちを指しているのだろう。
「この探知機もあの謎スマホによって作ることができたのか……!」
「いや、これは前からあった。そこのバカ女や藤堂という男のおかげで作れたものだ」
手島の言う「バカ女」とは里奈のことだ。
「バカじゃないですよー! バカじゃ! ねー? まーくん!」
里奈は気にする様子もなく、大男の腕に抱きつく。
まーくんと呼ばれた大男は困惑した様子。
「藤堂大地の指輪を使ったの?」
尋ねたのは愛理だ。
「そうだが、どうして知っている?」
「彼女は異世界人なんだ。俺たちの味方をしているけど」
「なるほど」
驚くかなと思いきや、手島は平然としていた。
麻衣や他の三人にしてもそうだ。
どうやら愛理の存在を想定していた模様。
「藤堂大地の指輪によく気づいたね」
愛理の言葉に、「まぁな」と短く返す手島。
「あのー、藤堂大地の指輪って?」
俺たちには何を言っているのかさっぱりだった。
「俺やそこにいる武藤や重村もそうだが、俺たち鳴動高校集団失踪事件の被害者が日本に帰還した時、島に関連する物は全て消えたんだ。藤堂大地や俺が脱出に使った船も消えたし、脱出の際に身に着けていた服などもいつの間にか消えていた」
「でも藤堂さんの指輪だけ消えなかったと?」
「藤堂だけでなく、彼と一緒に脱出したメンバーが身に着けていた指輪だけは消えなかった。そこに着目した俺は、藤堂に指輪の一つを譲ってもらい、TYP理論を構築するに至ったわけだ」
「その指輪って、もしかして質素なシルバーのやつ?」
「そうだが……どうして知っている?」
手島が怪訝そうに俺を見る。
「藤堂さんと一緒に脱出したという女性のSNSで見た記憶があって」
栗原歩美というモデルのことだ。
俺たちの仲間である栗原と同じ苗字だが、これといった関係はない。
歩美は職業柄、高級感のある服やアクセサリーを身に着けている。
そんな中、一つだけどう見ても安物が混じっていた。
それが例の指輪にボロボロの革紐を通しただけのネックレスだ。
「なるほど、よく見ているものだ」
感心する手島。
「話を少し戻して漆田風斗の質問に答えると、手島祐治たちが襲われなかったのは〈マーカー〉がついていないからだと思う。海の敵は〈マーカー〉に反応する仕様だから」
愛理が答える。
「すると、麻衣たちは敵にバレることなく海を移動できるわけか」
「そんなのどうだっていいじゃないっすか!」
燈花が手をパンッと叩いた。
「ここに手島さんが来たってことは、ここから戻ることも可能ってことっすよね!?」
愛理が「その通り」と頷いた。
「あとは手島祐治が再びゲートを生成して皆で脱出するだけ。それで異世界人の計画は失敗に終わる」
「「「おお!」」」
思わず声を上げる俺たち。
しかし、手島の表情は冴えなかった。
「残念ながらそれはできないんだ」
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