191 ラスボス
「クロード!? 異世界人のボスが直々に出てきたのか!?」
驚く俺に対し、愛理は微かに強張った顔で言った。
「厳密には今回の計画の最高責任者であってボスではない」
「なんだっていい! 倒すだけだろ!」
栗原が「うおおおおおおお!」と突っ込んでいく。
「待て栗原! 絶対に過去最強の敵だぞ!」
「知るかよ! やらなきゃやられるだけだろ!」
たしかにその通りだ。
ここで「見逃してくれねぇ?」と頼むなどあり得ない。
「それにこれはチャンスでもあんだろ!? 奴を倒せば終わりだ!」
さらに、栗原は「そうなんだろ!?」と続けた。
これは俺に対する言葉か、はたまた愛理に対するものか。
分からないが、答えたのは愛理だった。
「そう。クロードを倒せば計画は失敗扱いになる。だから最終日まで待たずともその時点で終了し、あなたたちは日本に帰還できる。でも、それは至難の業。クロードは唯一のレジェンドタイプだから」
「レジェンドタイプって何だ?」
俺が尋ねる。
「ゼネラルより上の存在。戦闘機やミサイルなど、地球のあらゆる兵器を正面から制圧するための戦闘力を有している」
「つまり愛理の剣士より上ってことか」
「上どころか桁が違う」
「マジかよ……」
「そんな敵に勝てるんすか!?」と燈花。
「可能性は低いがゼロではない。弱点自体はゼネラルと同じだから」
「なら兜の奥に潜む顔面に一発ぶち込めれば死ぬってことか」
「うん」
「勝算は大いにあるな――よし、皆も栗原に続け! 愛理、〈無敵〉を頼む!」
「分かった」
愛理が〈無敵Lv.3〉を発動。
それと同時に栗原が斧を振り下ろした。
「オラアアアアアアアアアア!」
「…………」
クロードは無言で武器を召喚。
ほぼ全てが刀剣で、左右に一つずつ盾もある。
その内、右の盾を使って栗原の斧を防いだ。
「栗原! お姉さんも加勢するぞ!」
「ラスボスを独り占めなんて許さないっすよー!」
涼子と燈花が側面から仕掛ける。
これまで戦ってきたゼネラルなら、この時点で優位に立てた。
しかし、レジェンドタイプはそうもいかない。
「わお! こりゃ迂闊に迫れない!」
「タロウ、避けるっす!」
「ブゥウウウウウウウウ!」
死角を突こうとした涼子と燈花に刀や槍の嵐がお見舞いされる。
武器を投げるというのは、これまでのゼネラルにはなかった動きだ。
予想外の攻撃に二人はたじろぎ攻撃の手が緩む。
無敵なので避ける必要がない――というのは素人の意見だ。
避けないと吹き飛ばされて攻撃に支障が出る。
だから無敵時間中でも可能な限り攻撃を防御・回避することが望ましい。
「全て避けきった! 今が好機!」
「いや殆ど弾いていたっすけどね! 全然避けきれていなかったっすよ!」
燈花のツッコミを無視して突撃していく涼子。
だがその頃には既に、クロードは新たな武器を召喚していた。
「アイツ……! 俺たちのバリスタ戦術みたいな真似を……!」
「でも大丈夫。今は〈無敵〉の効果時間中だからダメージは受けない」
たしかにその通りではあるのだが――。
「ええい、思うように進めんではないか!」
マシンガンの如き勢いで投げつけられる武器によって、涼子は進めないでいた。
「微力ながら助太刀しますともー!」
「私も最後くらいは前線を張らせてもらわないとね」
琴子と彩音も加わってクロードを包囲する。
さらに由香里がしばしば矢で仕留めようとしていた。
「漆田風斗、私たちも」
「おうよ!」
俺と愛理も突っ込む。
周囲にザコがいないこともあって戦力を集中する。
「風斗君、私も!」
「いや、美咲はそのまま待機だ! ペットを頼む!」
美咲にはウシ君に騎乗した状態で下がっていてもらう。
コロクも一緒だ。
(クソッ、包囲しても弱点が正面にしかないと辛いな)
クロードは捌ききれずにいるが、だからといって状況は変わらない。
結局、クロードが警戒するのは栗原と由香里、涼子くらいなものだ。
その三人さえ意識しておけば、顔に攻撃を受けることはない。
「その盾うぜぇんだよ!」
栗原が何度目かも分からぬ攻撃を繰り出す。
縦にも横にも振るっているが、その全てが盾で防がれている。
それでも栗原は諦めないでいたところ――。
「一つ問う」
「「「――!」」」
突如、クロードが栗原に話しかけた。
「貴様は何のために戦っている?」
「何のためにだぁ!?」
「ここにいる者たちを犯して殺すのではなかったのか?」
「更生したんだよ俺は!」
クロードが「ふん」と呟く。
表情は見えないが、馬鹿にしたような笑いであることは確実だ。
「更生だと? あの女のためにか?」
クロードの顔が僅かに動いた。
栗原に向いていたであろう視線が美咲に向く。
「だったら悪いかよ!」
「哀れだな」
「なんだと!?」
「あの女が好意を寄せている相手は、お前ではなく漆田風斗だ。お前がどれだけ想おうが、あの女がお前を愛することはない。お前がどれだけ活躍しようが、あの女がお前に心を開くことはない。お前にできるのは、夜な夜なあの女のことを考え、涙で枕を濡らしながら自慰に耽るだけだ。お前は誰よりも強い負け犬なのだよ」
畳みかけるクロード。
「ウガアアアアアアアアアアアア!」
それに対して栗原は吠えた。
「分かってんだよ! そんなことは! それでも俺は美咲ちゃんが好きなんだ! 異世界人が地球人に知った口きいてんじゃねぇ!」
栗原がかつてない鋭い一撃を放つ。
その攻撃はクロードの盾で弾かれることなく――。
「ヌォオオ!? なんだと!?」
――奴の20本ほどある左腕を全てぶった切った。
「すげぇっすよ栗原!」
「栗原、お姉さんの分まで決めてやれ!」
「うおおおおおおおおおおおお!」
栗原は体を回転させ、間髪を入れずにもう一振り。
今度はクロードの右腕を全て潰した。
「鎧ごとだと!? そうか、その斧はジークの……!」
「地球人を舐めんじゃねぇぞこらぁあああああああ!」
トドメの一撃は横一閃だ。
栗原の斧がクロードの首を刎ねた。
〈無敵〉の効果時間が切れると同時のフィニッシュだ。
「「すごい……」」
愛理と由香里が全く同じ反応をしている。
「やっぱりお前はすげーよ栗原!」
俺も衝撃を受けていた。
怒りによってパワーアップした彼の強さに。
「何がレジェンドタイプだ! 油断しやがって! ざまぁみろ!」
両腕と頭部を失ったまま固まっているクロードに唾を吐く栗原。
それから振り返り、美咲に向かって左手を挙げて微笑む。
「やったぜ美咲ちゃん、これで――」
その時、予想だにしないことが起こった。
「ガハッ!」
突然、栗原が大量の血を吐いたのだ。
誰もが状況を理解できず固まった。
「どういうことだ……?」
俺の視線が栗原の胴体に向く。
胸の辺りから剣が飛び出していた。
刃は彼の血で赤黒く染まっている。
栗原は背中から貫かれたのだ。
刃を目で追っていくと――。
「なんでまだ生きているんだよ!」
――クロードの足があった。
彼を背後から刺した剣は、その足から伸びていたのだ。
「なんで……?」
愛理も愕然としている。
そんな中、クロードの頭と両腕が再生された。
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