190 絶望の始まり

 昼休憩が終わると、俺たちは再び狩りに出ていた。

 所持金は全員が1000万を超えており、もはや余って仕方ない。

 それでも戦うのには二つの理由があった。


 一つは定期的にボスモンスターやゼネラルが襲来するからだ。

 奴等は俺たちの居場所を知っているのか真っ直ぐ向かってくる。

 倒さないと港を占領されてしまいかねない。


 仮に港を占領されると大変だ。

 船に引きこもっていると、船ごと攻撃されて沈没しかねない。

 降りるためのスロープを移動する際も脆弱さが目立つ。

 だから港を押さえられないようにする必要があった。


 二つ目は――。


「どけ栗原! あとは俺に任せろ!」


 大通りのど真ん中。

 俺は先頭に立ち、迫り来る徘徊者に銃弾の雨を降らせる。

 耳が麻痺しそうな程の音を奏でながら自動小銃アサルトライフルが敵を蹴散らす。

 反動で銃口がブレるものの、弾丸は問題なく徘徊者を捉えていた。


 ――これが理由だ。

 金が有り余って仕方ない俺たちは、最強の武器である銃火器を導入した。

 といっても、うっかり味方に当てたら大変なので使う場面は限られている。


「どうせゼネラルには通用しねぇのに」


 ふん、と小馬鹿にしたような笑みを浮かべる栗原。


「ゼネラルはお前が倒すから関係ないだろ?」


 銃が通用するのはザコ徘徊者とボスモンスターだけだ。

 ゼネラルには漆黒の鎧によって防がれてしまう。


 愛理曰く、ゼネラルも兜の隙間を縫って顔に当てれば効くらしい。

 ただ、実銃で動き回る敵の兜の隙間に命中させるなど不可能だ。

 うっかり栗原の背中を撃つ可能性のほうがはるかに高い。


「栗原もたまには銃を撃ってみたらどうだ? なかなか気持ちいいぞ」


「俺にはこの斧があるからいらねぇよ」


「そうかそうか」


 俺は新手の敵にもガンガン撃ち込む。


「そうやって銃で戦っているのを見ると麻衣を思い出す」


 由香里が隣に立った。

 俺は射撃の手を止めて彼女を見る。


「麻衣のクラス武器だったもんな、銃は」


「うん。元気にしているのかな?」


「そうあってほしいが……」


 麻衣のSNSは1週間ほど前から動きがない。

 涼子の親友こと宍戸里奈も同様だ。

 二人とも全く同じタイミングで更新しなくなった。


 1週間前といえば、震災関連のニュースがようやく落ち着いた頃だ。

 余裕がでてきたことで、手島重工に対するバッシングが激化した。


 テレビでも「TYPが引き起こした人工地震」と言われている。

 手島個人に対する殺害予告や手島重工に対する爆破予告も多発していた。

 それどころか、実際にそうした事件も起きている。

 手島重工の社員やその家族が、複数人の市民から暴行されて死んだのだ。


「気にしてもどうにもならないっすよ!」


「そうですとも、そうですとも! 目の前に集中ですぞ!」


 燈花と琴子も射撃を楽しむ。

 ただ、俺と違って命中精度はそれほど高くない。

 小さな体には反動が厳しいようだ。


「それもそうだな」


 頷いたあと、俺は右手を挙げた。


「今日はこんなもんだろう」


 撤収の合図を出す。

 しかし、そこにゼネラルがやってきた。


 愛理以外では初めてとなる二刀流だ。

 武器はトンファーで、ザコ徘徊者を大量に引き連れている。


「今日は体が鈍っていたから助かるぜ!」


 栗原が大斧を肩に担ぐ。


「じゃあいつも通りで」


 俺はそれだけ言うと銃を美咲に渡した。

 代わりに刀を受け取る。


「いくぜぇ! 漆田ァ!」


 栗原が突っ込んでいく。


「俺たちも続け!」


「「「了解!」」」


 作戦は栗原のワントップ。

 彼がゼネラルと戦い、俺たちはザコ掃除に徹する。

 ただし、栗原の動きについていける涼子のみ、状況に応じて栗原をサポート。

 俺、涼子、栗原の三人は〈強化Lv.3〉を使用しているため動きが機敏だ。


「そりゃ!」


 俺は徘徊者の群れに斬り込んだ。


「タロウ、GO!」


「ブゥウウウウウウウウウウウ!」


 隣をサイのタロウが駆け抜けていく。


「私たちも戦わないとね」


「うん」


 彩音が本物の薙刀で流麗にザコを捌く。

 愛理は巧みなステップを駆使しながら金槌で敵を叩いていた。


「栗原、苦戦しているようならお姉さんとジロウが――」


「いらねぇよ手伝いなんざ! うおおおおりゃああああああああ!」


 栗原の大斧が目にも留まらぬ速度で敵を襲う。


「フンッ!」


 ゼネラルはトンファーで防御――しきれなかった。


「ヌオ!?」


 栗原の斧はトンファーを砕き、さらにはゼネラルの胴体を真っ二つにした。

 そう、彼は漆黒の鎧の上から敵にダメージを与えることができるのだ。

 ゼネラルから奪った斧+〈強化〉で覚醒した栗原だからこその荒業である。


「いただき!」


 栗原の真後ろから涼子が突きを繰り出す。

 槍は栗原のドレッドヘアをかすめつつ、敵の兜の奥を貫いた。


「ヌォォ……」


 ゼネラルは死に、姿を消した。


「おい小野崎! 人の手柄を……」


「最後まで油断したらダメということだ栗原!」


 涼子は「がっはっは!」と豪快に笑う。

 それをジロウが「ウホホイ!」と拍手で祝った。


「お前なぁ……」


 呆れる栗原。


「さてザコも駆逐したし、今度こそ帰投で……って、ん?」


 太陽をバックに何かが迫ってきているのに気づいた。


「なんだ?」


 最初は大鷲おおわしだと思った。

 だが、近づいてくるにつれて鳥ではないと分かる。


 人型だ。

 大きな翼と数十本の腕を備えている。


「新手だぞ!」


 俺は未知の敵を指した。


「おいおい、またゼネラルかよ!」


「今度もお姉さんが仕留めてみせよう!」


「そうはさせねぇよ!」


 栗原と涼子が楽しげに話している。

 だが、いつもと違うタイプの敵に少なからず緊張していた。


「初めて見るな、腕が三本以上あるゼネラル」


「千手観音みたい」


 由香里と話していると、


「まさか……」


 と、愛理が呟いた。


「どうした?」


「腕が三本以上あるゼネラルなんて存在しない」


「存在しないって、現に近づいてきているぞ?」


「あれはゼネラルじゃない」


「つまりモンスターってことか?」


 愛理は首を振った。


「モンスターでもない」


「じゃあ一体……?」


 愛理は驚きの表情で答えた。


「あれは――クロードの換装体」

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