170 新たなスキル
神社に戻った俺たちは、和室の広間で昼食をとった。
座椅子に座り、細長いテーブルを皆で囲む。
「いただきます!」
美咲の揚げた大葉の天ぷらを食べる。
サクサクした食感と大葉の風味がいい感じだ。
菜の花の天ぷらも美味い。
このイベント期間中にご馳走が食べられるとは思わなかった。
余談だが、材料は近隣のスーパーから調達してきたものだ。
「すげぇ! すげぇよ美咲ちゃん! 全てうめぇ!」
栗原は美咲の手料理に感動して涙を流していた。
見ていて気持ちのいい食べっぷりなので美咲も嬉しそうだ。
「エサ代は思ったよりどうにでもなりそうだな」
「リヴァイアサンが迫ってくるような気配もないものね」
右隣に座っている彩音が答えた。
背筋をピンとして、恐ろしくいい姿勢で料理を食べている。
制服より着物のほうが画になるだろうな、と思った。
「どうだパンサー、美味しいか? 先生がお前のために作ってくれたご馳走だぞぉ」
隅の席では、毒嶋がパンサーと楽しそうに過ごしている。
数時間前の彼からは想像もつかないレベルの溺愛ぶりだ。
ここまで毒嶋が変わったのには理由がある。
ポイント稼ぎの戦闘で幾度となくパンサーが活躍していたからだ。
短刀を持って突っ立っているだけの主に変わって頑張っていた。
毒嶋を守った回数も数え切れない。
パンサーがいなければ、毒嶋は負傷していただろう。
下手すると死んでいたかもしれない。
また、パンサーはこの中で唯一、毒嶋に好意を抱いている。
今の毒嶋にとって、なによりも大切な存在であることは確実だ。
「クゥン」
毒嶋の溺愛に応えるように甘い声で鳴くパンサー。
最初の頃より表情が柔らかくなっているように感じた。
「だいぶ散り散りになったなー」
食事が終わると、俺はスマホで〈地図〉を確認した。
学校の周囲に潜伏する者、東北まで逃げる者、人によって様々だ。
「宮城県のまで逃げている方々は、私たちと同じく自動車を使ったのでしょうか」
美咲も自分のスマホを見る。
愛犬のジョーイが横から覗き込んでいた。
「きっとそうだろう。ここじゃ無免許運転で捕まることもないし」
「教師が運転している可能性だってあるっすよー!」と燈花。
「なんにせよ無事だったらいいが……」
グループチャットを開いたところで言葉が止まる。
リヴァイアサンの暴れる様子を捉えた動画がUPされていたのだ。
無人の民家を水のレーザーで破壊しまくっている。
「こいつら人間がいなくてもおかまいなしかよ」
「隠れる場所をなくそうとしているのかしら」と彩音。
「漆田風斗、話を変えてもいい?」
いつの間にか後ろにいた愛理が、ちょこんと俺の膝に座る。
左隣にいる由香里が鬼の形相で睨んでいるけれど、愛理は気にしていない。
「かまわないけど、何の話をしたいんだ?」
「ポイントが貯まったから、スキルの使用を検討したほうがいいと思う」
「スキル?」
「〈ショップ〉にある」
「マジで? あったか?」
そう思って確かめると――。
「マジだ!」
本当にスキルが売られていた。
「このエセ日本に転移してすぐの頃はなかったっすよね!?」
驚く燈花。
俺や美咲が頷いた。
「でも今はある。あるのだから利用するべきじゃない?」
愛理は無表情で言う。
「それもそうだな」
俺は売られているスキルを確認した。
「初めて見るものばかりだな」
いくつかのスキルに目を向けてみる。
=========================================
【索敵】
自身の周囲○キロメートルの敵を地図に表示(24時00分まで有効)
Lv.1:3 / Lv.2:5 / Lv.3:10
【聖域】
○時間、自身及び周囲の人間・動物は敵の攻撃を無効化する
ただし、効果時間中は敵にダメージを与えられなくなる
Lv.1:1 / Lv.2:2 / Lv.3:3
=========================================
スキルにはレベルがあって、最高は3のようだ。
レベルが上がるごとに説明文の○部分――時間や範囲――が伸びる。
「この〈聖域〉ってスキル、こっちからの攻撃も無効化されるんすね」
燈花の言葉に、「それはたぶん……」と琴子が答えた。
「〈無敵〉との差別化を図るためだと思いますとも!」
琴子が言った〈無敵〉というスキルも、効果は〈聖域〉と似ている。
違いは〈聖域〉にある但し書きがないこと。
〈無敵〉の場合は一方的に敵の攻撃を無効化できるわけだ。
その代わり、効果時間は〈聖域〉に比べて格段に短い。
Lv.1だと1分しかなく、最大レベルでも3分だ。
「それだけじゃない。今回は使用のたびにポイントを支払う必要がある」
これは愛理の発言だ。
彼女は俺のスマホに表示されている赤色の注意書きを指した。
そこには「スキルは使用するたびにポイントを消費します」と書いてある。
ポイントの消費額はスキルの種類やレベルによって異なる。
先ほど話題に上がった〈聖域〉や〈無敵〉は、Lv.1でも30万ptを使う。
Lv.3になると100万もする。
一方、〈索敵〉はレベルによるが3~10万とお安い。
「〈聖域〉とか〈無敵〉の価格設定っておかしくないっすか?」
「というと?」
「だってLv.1を3回発動するほうがLv.3を1回発動するより安いじゃないっすか! 効果時間は同じなのに!」
燈花は「私の計算、合ってるっすよね?」と涼子を見る。
しかし、涼子はジロウとの腕相撲に夢中で聞いていなかった。
代わりに俺が答える。
「たしかにLv.1を3回発動するほうが安くつくが、残念ながらそれはできない」
「どうしてっすか?」
「スキルの使用は1日に1度しか使えないからだ」
「マジっすか!?」
「赤色の注意書きにそう書いてあるぞ」
「うわ! ほんとっす!」
スキルの使用回数は24時00分にリセットされるそうだ。
「ところで、この“1日に1度しか使えない”ってどういう意味だ?」
俺は注意書きを見ながら呟いた。
「その言葉こそどういう意味かしら?」と彩音が笑う。
「全部のスキルをひっくるめて1日に1度限定なのか、各スキルを1日に1度限定なのかで大違いだろ?」
「そういうことね」
前者の場合、〈索敵〉を使うと〈聖域〉や〈無敵〉は翌日まで使えなくなる。
ただし、後者の場合であれば〈索敵〉や〈聖域〉を各1回ずつ使える。
可能性は低いが、同じスキルでもレベルが違えば使えるのかもしれない。
注意書きの「スキルは1日1回のみ」だと、色々な受け取り方ができた。
「試してみたほうがよさそうだな」
俺は〈強化〉を使うことをした。
=========================================
【強化】
一時的に身体能力を○倍に強化する(24時00分まで有効)
Lv.1:1.5 / Lv.2:2 / Lv.3:3
=========================================
このスキルなら午後の狩りでも役に立つはずだ。
Lv.1の価格は5万ptなので、財政面でも負担にはならない。
「購入っと!」
俺は〈強化Lv.1〉を購入した。
次の瞬間、ショップに売られている全てのスキルが翌日まで購入不可になる。
「どうやら全てのスキルをひっくるめて1日に1度しか使えないみたいだな」
「すると挨拶代わりに〈強化〉を使う……というのは危険ですかな!?」
琴子の言葉に「だな」と頷く。
「それで効果はどうなんだ? 身体能力が1.5倍になった実感はあるのか?」
栗原が尋ねてきた。
「ああ、よく分かるぜ。島で美咲の料理を食った時の効果には劣るものの、明らかに力がみなぎってきている」
「本当か、すごいな」
体感で瞬時に分かるほど体が軽くなった。
「証明してやろう。栗原、俺と腕相撲で勝負だ! 今ならお前にだって負けないぜ!」
かつて麻衣と腕相撲をしてボロ負けした時のことを思い出す。
あの時は俺だけでなく彼女もパワーアップしていた。
しかし、今回は俺だけが〈強化〉を使っている。
いくら栗原が怪物で俺が軟弱モヤシ野郎だとはいえ、〈強化〉の力は絶大だ。
「無茶はよせ漆田。たしかにお前は切れ者だが、肉体的な強さじゃ俺の足下にも及ばない。たとえ〈強化〉でドーピングしたとしても結果は変わらないはずだ」
「ところがどっこい、現実は違うんだぜ。卓につきな、栗原」
「どうなっても知らないぞ」
「それはこっちのセリフだ」
テーブルに肘を立てて腕を組む。
「いくぜ、レディ……ゴーッ!!!!!!!!」
結果――。
「そんな……!」
――俺は瞬殺された。
「だから言ったろ……。元がヒョロヒョロ過ぎるんだよ」
「風斗ー! ダセェっす!」
「漆田少年! 男らしくないぞー!」
燈花と涼子がゲラゲラ笑いながらからかってくる。
俺はガクッと項垂れた。
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