171 大斧使いのジーク
昼休憩が終わり、午後の狩りを始めた。
作戦は午前と変わらずヒットアンドアウェイだ。
〈地図〉とルーシーの索敵能力を駆使して敵の場所をコントロールする。
戦闘場所に選ぶのは決まって大通りだ。
撤退のことも考えて傍に路地があるところにする。
「いけ! パンサー!」
「ガルァ!」
今回の主な目的は毒嶋のポイント稼ぎだ。
ペットであるヒョウのパンサーが徘徊者を蹴散らしていく。
彼自身が持っている立派な短刀は、今まで一度も振るわれていない。
ノーマル徘徊者が背を向けていようと怖くて攻撃できないようだ。
そんな有様でよく今まで生きてこられたものだと思う。
「グォオオオオオオオオオオオ!」
路地から数体の徘徊者が突っ込んできた。
狙われたのは最後尾にいる毒嶋だ。
「わぁああ! 助けろパンサー! 早く!」
「ガルゥ!?」
パンサーは最前線で戦っているため間に合わない。
しかし、他がカバーするので問題なかった。
後方に控えていた彩音が木製の薙刀で敵を真っ二つにする。
「あ、ごめん、1体倒し損ねた」
徘徊者は彩音の横をすり抜けて毒嶋に向かう。
――が、到達する前に頭を射抜かれて死んだ。
「大丈夫、私もいるから」
由香里だ。
彼女も後方で全体を見回してサポートに徹している。
「ふぅ……! 助かった!」
「ガルゥ」
遅れてパンサーが毒嶋のもとに到着。
「だ、大丈夫だ、なんとかなった。お前はポイントを稼ぐんだ」
「ガルゥ!」
パンサーが戦闘を再開する中、毒嶋は額の汗を拭ってホッと一息。
「タロウ任せの私が言うことじゃないっすけどー、もうちょっとどうにかしたほうがいいっすよ毒嶋!」
燈花が呆れ顔で言った。
「そ、そんなこと言われても仕方ないだろ! 俺みたいなオタクは力より脳みそを使う作業で役に立つんだ! 適材適所ってやつだ!」
「でもウチの頭脳担当って風斗じゃないっすか。毒嶋が頭を使う場面って全くないっすよ?」
毒嶋は「ぐぬぬ」と唸った後、ハッとした顔で琴子を指した。
「ほら! あの一年! 名前を忘れたけどあの子だって戦っていないよ! 高原先生だってそうだ! 俺だけじゃないって! 足手まといは!」
見苦しく喚く毒嶋。
ここで美咲の名前を出したのはマズかった。
「おい、お前、いま美咲ちゃんのこと足手まといって言ったな?」
栗原が戦闘を放棄して毒嶋に詰め寄る。
〈強化Lv.1〉でブースト中の俺よりも俊敏な動きだ。
「ひぃぃぃぃ! そんなつもりじゃないって! 落ち着いてくれ、俺はただ、男女平等が大事だと説いているだけで……」
栗原に胸ぐらを掴まれて、毒嶋の顔面が青くなる。
(殴るのか? 栗原)
俺たちは戦いながら様子を窺う。
毒嶋を殴りたくなる気持ちは分かるが、殴ると栗原の評価も落ちる。
そういう局面だったが――。
「ふざけたこと言ってねぇでお前も戦えよ。せめて自分の身は自分で守れや」
栗原は舌打ちすると手を離した。
転移前の彼なら一発は殴っていただろう。
島での彼なら十発は殴っていたに違いない。
(頑張っているな、栗原)
少しずつだが、俺は栗原のことを信じ始めていた。
「それで毒嶋、ポイントはどうなんだ?」
俺に尋ねられると、毒嶋は慌ててスマホを確認した。
「貯まった! 200万以上ある! これで明日のエサ代は大丈夫だ!」
「こっちも大丈夫っすよー! 明日どころか明後日のエサ代もあるっす!」
燈花がグイッと右の親指を立てる。
「なら残りの敵を倒したら撤退しよう」
「「「了解!」」」
俺たちは戦闘のペースを上げた。
パンサーに気を配らなくていいので遠慮なく暴れられる。
それによってあっという間に敵を殲滅する――はずだった。
「おい! 漆田!」
最初に気づいたのは栗原だ。
俺は「ん?」と、彼の視線の先――遥か前方に目を向ける。
そして次の瞬間、声を上げた。
「何か迫ってきているぞ!」
とてつもないスピードで突っ込んできている。
真っ黒の集団で何かは分からないが、敵であることは間違いない。
「迎撃準備だ!」
傍の徘徊者を倒しきったが、謎の集団が突っ込んでくるので撤退は後回し。
「あれは……」
距離が近づくにつれて正体が分かった。
「ライオンの群れだ!」
厳密にはライオンを模した徘徊者だ。
オス特有のたてがみを有しているが、顔はライオンと全く違う。
骨が剥き出しになっていて禍々しい。
それが計20頭ほど、一糸乱れぬ動きで走っている。
さらに――。
「ゼネラルもいるぞ!」
真ん中のライオンにはゼネラルタイプが騎乗していた。
漆黒の鎧を纏い、大きな斧を担いでいる人型の徘徊者だ。
「ジーク……!」
「ん? どうした愛理?」
「ううん、何も、独り言」
「そうか」
「想定できてはいたけれど、まさかリヴァイアサン以外のボスが出てくるとはね。どうするの? 漆田君」
彩音がポジションを前線に移す。
「相手は明らかに俺たちより速い。振り切るのは難しいから戦おう」
「漆田、俺も〈強化〉を使うぞ!」
栗原が確認してくる。
俺は迷わず「頼む」と答えた。
「ペットを飼っていないから気兼ねなくいけるぜ!」
そう言って栗原は〈強化Lv.3〉を使用。
ただでさえ最強のスペックを誇る男の身体能力が3倍になった。
「漆田少年、お姉さんも〈強化〉するか!?」
「私もいけるわよ」と彩音。
「いや、二人は待ってくれ。他のスキルを使いたくなるかもしれない。ただ、指示する余裕はないだろうから状況に合わせて各自の判断で使ってくれ!」
「「了解!」」
いよいよ敵が100メートル圏内まで到達。
「栗原はボスを頼む! 残りは取り巻きのライオン討伐だ!」
「任せろ!」と、両手に持ったゴルフクラブを振る栗原。
「いくぞ皆! 迎撃開始だ!」
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