168 今後の方針

 新たなエサ代は次の通り。


 ウシ君:5万

 コロク:5万

 ジョーイ:5万

 ルーシー:5万

 タロウ:100万

 ジロウ:50万

 パンサー:200万


 全体的に大幅高となっている。

 とはいえ、探知タイプや生産タイプは5万なので大したことない。


「あれ! ゴリラのジロウが5万じゃないのはおかしくないですかな!?」


 何やら言い出したのは琴子だ。


「どういうことだ?」


「ゴリラは探知タイプですとも!」


「そうだったのか」


 てっきり戦闘タイプだとばかり思っていた。


「いやー、ウチのジロウは戦闘タイプなんすよ」と燈花。


「どういうことですかな!?」


「一部の動物は購入時にタイプを変更できるみたいっす! それかこっそり追加された仕様なのかもしれないっす! 毒嶋のパンサーも戦闘タイプに変更したんじゃないっすか? エサ代がたっかいし!」


「俺のは探知戦闘タイプ」


「二つのタイプとかいけるんすか!?」


「詳しいことは分からないけど、ヒョウは大丈夫だった。そのせいでエサ代が跳ね上がってしまったよ」


 毒嶋がパンサーに「失敗したなぁお前」と呟く。

 パンサーは無表情だが、女性陣は眉間に皺を寄せていた。


「とにかく今後はエサ代をどうにか稼がないとな」


「ジョーイはエサ代が殆どかからないので、私のポイントをいくらか皆さんに分けますね」


 美咲がスマホを操作する。

 しかし、すぐに「あれ?」と固まった。


「どうしたの? 美咲ちゃん」


 栗原が心配そうに尋ねる。

 美咲は驚いた顔をしつつ答えた。


「今ってどうやってポイントを渡せばいいのでしょうか?」


「…………」


 栗原が沈黙する。

 拷問でも受けているかのような表情で。

 何か答えて美咲に頼れるところを見せたいのだろう。

 それができなくて歯痒い思いをしているのが分かる。


「ショップでどうにかならないか? 俺たちが適当に出品して、それを美咲が買えばポイントが移るはず」


 言ってから試してみたが、結果は無理だった。

 ショップで物を売ることができなくなっていたのだ。

 他にも何かないかと探してみる。

 しかし――。


「どうやら自力で稼ぐしかないようだな」


 それが結論だ。

 以前まで使えた複数の方法が全て使えなくなっていた。


「ポイントは自力で稼ぐ必要がある上に、今までと違って討伐でしか稼げないってことね」


 彩音がまとめた。


「今後はタロウ、ジロウ、パンサーのエサ代を稼ぎつつ、安全に過ごす方法を模索していく感じになるな」


「エサ代が無料なのっていつまでだっけ?」と由香里。


「明日の12時に徴収される分までだと思う。『最初の三日間のみ無料』という表現だったから、もしかしたら明後日までかもしれないが」


「念のため明日までの想定で動いたほうが良さそうだね」


「同感だ。今日はもう遅いし、狩りは明日行おう」


 いつの間にやら日が暮れている。

 今から「ひと狩り行こうぜ!」とはならなかった。


「待ってくれよ」


 栗原が右手を挙げた。


「ん? どうした?」


「ペットのエサ代を稼ぐために危険を冒すって言うのか? 万能薬や防壁がないのに」


「そのつもりだが、何か問題か?」


「まずいだろそれは。弓場のハヤブサがいれば戦闘を避けられそうだし、ハヤブサだけ維持してあとは諦めたほうがよくないか? そのほうが安全に最後まで過ごせる」


「それはダメです。ジョーイを見捨てることはできません」


 真っ先に美咲が反対した。


「私もっす!」


「お姉さんも預かった以上はジロウを飼い続ける義務がある!」


 ほぼ全ての女性が反対の意思を表明した。

 無反応だったのは琴子と愛理だけだ。

 二人は成り行きに身を任せるといった様子で静かに見守っている。


「そ、そうは言うけどさ美咲ちゃん、学校で見ただろ? リヴァイアサンが数体いたのを。下手に動くとあんな感じでボスを引き付けるかもしれない。毎度毎度バスで逃げ切れる保証なんかないんだ。だから隠れていたほうが安全だよ」


 栗原が必死に説得を試みる。

 もちろん美咲は「じゃあペットは見捨てましょう!」とは言わない。

 顔を横に振るだけだった。


「なぁ漆田、俺、間違っていないだろ? クリアした時にペットが消える可能性だってあるんだし、下手に維持しようとするのは間違いだって!」


 栗原が俺に振ってきた。


「非情だが合理的だと思うよ。生き残ることだけを考えるならその選択が正解だろう」


「だろ!? じゃあ――」


「だが、それじゃダメなんだ」


「どうしてだよ」


「俺たちにとって、ペットは仲間であって道具ではない。だから可能な限りエサ代を稼ぐ方向で取り組む」


「それで皆が危険になってもいいのかよ」


「俺たちはかまわないと思っている」


 女性陣が頷いた。

 琴子も「うんうん」と同意している。


「そんなの絶対におかしいって」


「分かっているさ。だが、それが俺たちのやり方なんだ。嫌なら抜けてくれ」


「なっ……!」


 俺は毒嶋、彩音、愛理に目を向ける。


「これは栗原だけに言っているんじゃない。他の三人もだ。無理して俺たちに従う必要はない。納得いかないなら遠慮なく抜けてくれ。今なら敵も少ないし、わりと安全に逃げられる」


「私は残らせてもらうわ。漆田君の方針に反対じゃないし。それに、皆から『英雄』って呼ばれる人がどんな風に引っ張ってくれるのかも興味あるから」


 そう言うと、彩音は髪を掻き上げた。

 フェロモンの匂いがプンプン漂っている。


「私も漆田風斗たちと一緒に動く」


 愛理はそれだけ言うと、再び口を閉ざした。


「俺も同意見だ。抜けるなんてとんでもない。むしろずっと一緒にいさせてほしい。あ、パンサーのエサ代なら気にしなくていいよ。皆と違って何の愛着もないから! エサ代が払えなくて消えたとしても気にしない! 今のところ何の役にも立ってないし!」


 ガハハと笑う毒嶋。

 意識していないのだろうけれど、彼の発言はペットを軽視している。

 案の定、女性陣は不快そうな顔をしていた。

 栗原ですらドン引きしている。


「俺だって抜けはしねぇよ。でも、ペットを維持する方向でいくなら、しっかり作戦を考えてくれよ。俺はそれに従うからさ」


 栗原の視線が美咲に向く。


(本当に美咲のことが好きなんだな)


 その想いが報われる日はきっと来ない。

 栗原自身もそのことは分かっているはずだ。

 それでも諦めきれないのだろう。


 愛は凄い。

 同時に怖いとも思った。


 今はただ、栗原の愛が憎悪に変わらないよう祈るだけだ。

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