161 全校集会

 転移した先は学校だった。

 懐かしみを覚える、教室の中――。


「これは……」


 俺の机だ。

 中に入っている教科書も俺の物だった。

 もっと言えば机の側面にかかっている学生鞄も。


「やった! 日本だ! 日本に戻ったぞぉお!」


「馬鹿、説明に書いていたでしょ。ここは日本を模した場所だって」


 教室で生徒たちが話している。

 同じクラスの連中だ。


 だが、麻衣の姿はなかった。

 帰還の権利を行使したからだろう。


 他には17頭の動物がいる。

 その中にはウシ君も含まれていた。


 生徒と動物のコンボで窮屈さを感じる。

 酸素が薄いような気がした。


(仲間は!?)


 教室内を見回す。

 そして――。


「風斗君!」


 ――美咲と目が合った。

 ウチの担任教師である彼女もこの教室にいたのだ。

 もちろん、愛犬のジョーイも。


 ただ、他の仲間は見当たらない。


「皆さん自分のクラスに転移したのでしょうか?」


 美咲が近づいてくる。


「そうだろう。まずは由香里たちと合流し――」


 話している最中だった。


『えー! 皆さん! とりあえず体育館に集まりましょー!』


 教室上部のスピーカーから五十嵐の声がする。

 体育館に集合するのは名案だと思った。


「体育館に行こうぜ!」


「そうだな!」


 皆がぞろぞろと教室を出て行く。

 廊下には他のクラスの生徒もたくさんいた。


「私たちも体育館に?」と美咲。


「そうしよう」


 今は皆に合わせるほうがいいだろう。

 ということで、俺たちも教室をあとにした。


 ◇


 体育館に向かう間にスマホを調べておいた。

 それにより、コクーンが使えるようになったことを確認。

 相変わらず受信一辺倒ながらネットにも繋がっている。

 仲間とのグループチャットも可能だ。


「風斗ー! ここっすよー!」


「ようやく来たか漆田少年! 美咲も!」


 体育館に着くと、仲間たちは既に集まっていた。

 分かりやすく後ろの隅で固まっている。

 俺と美咲も合流したことで全員が揃った。


「風斗、〈ショップ〉は見たっすか? 万能薬とか売っていないっすよ」


「見たよ。イベントの通知文にも書いてあったが、マジでなくなっていたな」


 医薬品を中心に、たくさんのアイテムが買えなくなっていた。

 例えばウシ君の生乳を加工するのに使った機械などもそうだ。


「それにしても賑やかだな、この体育館は」


「動物がたくさんいるので多く見えますよね」と美咲。


 体育館は生徒と動物でごった返していた。

 大半の生徒がライオン等の強そうな動物を従えている。


「やっぱりここは本当の日本とは違うんだね」


 これは由香里の発言だ。


「震災前の状態だし、人も俺たち以外いないもんな」


「うん。すごく似ているけど違う。変な感じ」


 俺は頷きつつ、前方の壇に目を向ける。

 五十嵐がリズミカルな足取りで上がっていた。


「よーし! お前ら揃ったなー!」


 壇上でマイクを握る五十嵐。

 この状況を楽しんでいるようにすら見える。


「では俺から一つ言わせてもらう!」


 五十嵐は端のほうに立っている地味な教師を指した。


「増田先生! 皆を代表して指示をお願いしやす!」


「先生任せかよ五十嵐ィ! このハゲ!」


 誰かがヤジを飛ばし、場が爆笑に包まれた。


 五十嵐は「ハゲじゃねぇ!」と笑いながら返している。

 さすがは〈スポ軍〉を仕切っていた男だ。

 場を明るくするのが上手い。


 指名された増田は困惑しつつも壇上へ。

 五十嵐は増田にマイクを渡すと、大袈裟なお辞儀をして後ろに下がった。


「えーっと、こういう場は慣れていないんだけど……」


 増田は後頭部を掻きつつ、ゆっくりした口調で話し始めた。


「今回のイベントは、言うなれば防壁のない徘徊者戦だと僕は思う。それも時間制限や防壁のない過酷なもの」


 同感だ。

 俺も仲間に同じことを言っていた。


「だから計画的に、そして一致団結して動きたい。クリアするために皆で協力しよう」


「「「うおおおおおおおおおおおおおお!」」」


 皆が沸き上がる。

 涼子と燈花も「いぇあー!」と叫んでいた。


「まずは武器やバリケードになりそうな物の確保からだ。ポイントがなくて〈ショップ〉が使えない以上、現地で調達するしかない。同時にポイントを稼ぐ方法も探そう。これまでと同じなら物を作ることで稼げるはず」


「物を作ってもポイントは稼げないと思うなぁ」


 呟いたのは涼子だ。


「どうして分かるんだ?」


「ここへ転移してすぐに試したのだ!」


「マジか」


 相変わらず破天荒に見えてしっかりしている。

 俺はそこまで頭が回っていなかった。


「ならグルチャで皆に教えておくか?」


「んにゃ、もしかしたらお姉さんのうっかりミスかもしれないし黙っておこう! ものの数分で判明することだ! 先入観はよくない!」


 俺は「そうか」と笑った。


「今は13時30分だから……そうだな、18時にまたここで集まろう。それまでは自由行動ということで、周辺の探索など各自で考えて過ごそう」


 増田の指示に、多くの生徒が頷いた。

 こうして体育館での集会が終わり、皆が動き出す。


「とりあえず昼メシにしおうぜー」


「パチモンとはいえ久々の学校だから教室で食おうぜ」


「俺は食堂に行きてぇ」


 近くを歩く生徒たちのやり取りが聞こえる。

 五十嵐が盛り上げた甲斐もあって穏やかなものだ。


「ウチらはどうするっすか?」


 燈花が尋ねてくる。


「私は車が気になります。再現されているなら乗りたいですね」


「部室に行って弓を取ってきたい。あるか分からないけど」


 美咲と由香里が同時に言った。


「じゃあ皆のしたいことを一つずつ潰していこう。タロウとウシ君は階段がきついだろうから運動場でゆるっとしてもらうか」


「「「了解!」」」


 方針が決まり、俺たちも遅くながら動き出そうとする。

 しかし、体育館の出入口前にいる男を見て足が止まった。


「久しぶりだな、漆田」


 そう言って立ちはだかる男の名は。


「栗原!」


 ドレッドヘアが特徴的な筋骨隆々の大男。

 長らく音沙汰のなかった暴君こと栗原だ。

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