146 三日目の作業

 報酬の無限包帯を手に入れた。


「名前通りどれだけ使っても減らない便利な包帯だが……なんだか不気味だな」


 無限包帯は手で簡単に千切れる。

 ハサミを必要としないのはありがたかった。


「風斗ー、次のミッションは何っすかー?」


「明日の測定時にグループスコアが70点以上であることだってよ」


 歩きながら話す。

 涼しい鍾乳洞も長居すると寒く感じた。


「じゃあ実質無条件みたいなものっすね!」


「70点だからわりと難しそうだけどなぁ」


「報酬は何でしたかな?」と琴子。


「無限に使える香辛料セットだ」


 ひとえに香辛料といっても種類は豊富だ。

 その内、カレー粉をはじめとする主要どころが対象だった。

 俺の苦手なコリアンダーパウダーも含まれている。


「今回の報酬はちょっと微妙だね」


「麻衣もそう思ったか。俺もだ」


 香辛料は偉大だ。

 美咲が使えば臭い獣の肉も極上の料理に仕上がる。


 ただ、この島における俺達の主食は果物だ。

 果物にカレー粉をまぶして食おうとは思わない。


「報酬は気にしなくていいのかな」と由香里。


「意識する程ではないと思う。それより今後の活動についてだ」


 鍾乳洞を出たところで立ち止まり、地図タブレットを起動する。

 俺達の拠点から北上した地点にある草原を指した。


「この辺りに掘っ立て小屋を造ろうと思うのだがどうだろう」


「小屋!? 建築するの!?」


 目をぎょっとさせる麻衣。

 他もたまげていた。


「小屋と言ったが、実際は大きめの家になる。俺達7人が過ごせるサイズで考えているからな」


「建材はどうするのよ、建材は! 〈ショップ〉は使えないんだよ?」


「だから自力で調達する」


 ここでな、と言いながら竹林を指す。

 竹林は拠点の真西に20分ほど進んだところにある。


 警戒するべき動物はジャイアントパンダとヘラジカの二種のみ。

 どちらも大きくて強いが、自分から人を襲うことは滅多にない。

 他にも色々と生息しているが、それは気にしなくても大丈夫だろう。


「さっき手に入れたノコギリで竹を伐採するつもりね」


 舞の言葉に「その通り」と頷く。


「竹を骨組みにして、壁材や屋根材にはバナナの葉を使う」


「「「バナナ!?」」」


「一枚が大きいからな。包帯や粘土も駆使するし、最終日まで凌げる程度の家なら簡単に作れると思うぜ。材料が軽いから疲労も大したことないだろう」


「面白そうっす! 無人島で家造り! やりたいっす!」


 大はしゃぎの燈花。

 生理を忘れさせる元気ぶりだ。

 スコアもビビビッと上がっている。


「計画は分かったけど何で家を造るの? 別にハンモックでいいんじゃない? 家の中で寝たからって高温多湿がどうにかなるわけじゃないし」


 麻衣は気乗りしない様子。


「たしかに高温多湿はどうにもならない……が、ストレスは緩和されると思う。屋根をこしらえているとはいえ、今は屋外で寝ている状態だからな。人間のDNA的に寝る時は屋内、つまり家の中のほうが落ち着くと思うんだよ」


 麻衣は「なるほどね」と納得。

 彼女の隣にいる燈花は「DNA的って何すか」と笑っていた。


「言いたいことは伝わっているから細かいことは突っ込むな! この島で大事なのはスコアを1点でも上げることだろ? そう考えたら家造りは悪くないアイデアだと思う」


「お姉さんは漆田少年に賛成だなー!」


「私も楽しそうだから賛成っす!」


 涼子と琴子が賛成票を投じる。


「風斗の説明を聞いて私も賛成ー!」と麻衣が手を挙げる。


 これで決まりだな。

 と思った時、由香里が言った。


「私も賛成だけど、竹林に行くならウサギを狩らしてほしい。野ウサギが生息しているから」


「食事を強化するわけか。果物に加えて肉まで食えたらますますスコアが上がるな」


「うん」


「名案だ。流石だぜ由香里!」


「ふふ」


 決定だ。


「これから家を造ろう! 竹林に行くぞー!」


「「「おー!」」」


 ◇


 竹林は思ったよりも賑やかな場所だった。

 ジャイアントパンダやヘラジカは少ないが、他の動物がたくさんいる。

 イグアナにアリクイ、ウォンバットにハリネズミなどなど。

 そこに鳥や昆虫まで加わるので把握しきれない。


「由香里は野ウサギを狩るとして、俺を含む残り6人は役割を分担しないとな。ノコギリは3つあるから竹の伐採係は3人だ。やりたい人ー?」


「やりたいっすー!」


 真っ先に燈花が手を挙げた。


「危険な任務だからお姉さんが担当しよう!」


 涼子が続く。


「他にはいないようだからラストは俺だな。あとの3人は伐採した竹を草原まで運んでくれ」


 役割が決まったら作業開始だ。

 折りたたみ式のノコギリを展開して適当な竹にギコギコする。


(なるほど、ただのノコギリではないというわけか)


 想像の10倍くらい切れ味がいい。

 大した力を込めなくても簡単に切れる。


「これ伐採組のほうが楽じゃないっすかー!」


「メェェェェェ!」


「なんだ今の高音は……って、燈花、後ろ後ろ!」


「後ろ? ああ、この子っすか。仲良くなったっす!」


 燈花は早くもジャイアントパンダと打ち解けていた。

 パンダは彼女に体をスリスリしたり、作業を手伝ったりしている。


「屋根にバナナの葉を使うって面白いよね。茅葺き屋根から着想を得たのかな?」


「ありえますね」


「茅葺き屋根といえば、縄文時代の竪穴式住居って実は茅葺き屋根じゃなかったらしいね! 美咲、知ってた?」


「詳しくはありませんが、そういう話を聞いたことはあります。本当は茅葺きではなく土葺きが主流だったとかなんとか」


「そうそう!」


「でも分かりませんよ麻衣さん。実はやっぱり茅葺き屋根が主流だったのかもしれません」


「えー!」


 麻衣と美咲は話しながら竹を運んでいく。

 一緒に行動している琴子は聞くことに徹していた。


 ◇


 のんびり作業をすること数時間――。


「よーし、夜までに間に合ったな!」


 俺達の新居が完成した。

 竹の伐採が楽だったので想定より広くしている。

 労力を抑えるため建物の高さは可能な限り低くした。


「中は広々としているねー!」


「風斗や由香里は天井に頭が当たりそうっすねー!」


 さっそく家の中に入った。

 床面積は大人10人が腕を伸ばして寝転べる程度。

 想定より広いとはいえ、全員で入ると窮屈感は否めない。


「バナナもたくさん収穫できて一石二鳥だったねー!」と麻衣。


「それも見越していたからな。バナナの葉をチョイスしたのには、ついでに本体も収穫できるからだったのだ」


「本当に?」


「ウソ。俺がそこまで考えているわけないだろー!」


「だよねー!」


 壁際に大量のバナナが積まれている。

 明日は食料調達に時間を割かなくて済みそうだ。


「待て待て諸君、まだ真の完成とは呼べないぞー!」


 涼子は余った竹筒で家の周囲に溝を掘っている。


「何をしているんだ?」


「排水用の水路を引いているのだ! キャンプの基本だぞ少年!」


「なるほど、そのままだと雨が降った時に水が流れ込んでくるもんな」


「いかにも!」


「勉強になるなぁ」


「お姉さんが博識でよかったな! がっはっは!」


「本当にその通りだから何も言えねぇ」


 そんなこんなで涼子が水路を引き、俺達の拠点は真の完成を迎えた。

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