142 ミッション報酬

 測定結果を見た俺の口から、無意識に「おっ」という声が漏れた。


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 風斗:75

 麻衣:74

 美咲:76

 由香里:77

 燈花:70

 涼子:79

 琴子:79

 グループスコア:75

 本日の順位:3/8


 総合スコア:147

 総合順位:4/8

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 俺達のスコアは昨日より良かった。

 しかし、1位ではない。

 上に2グループいて、しかも片方は〈スポ軍〉だ。


 また、2グループが脱落していると判明した。

 脱落理由は分からない。

 きっと東側に行って肉食獣に襲われたのだろう。

 それかスマホのない生活が嫌になってリタイアしたか。


「グループスコアは小数点以下切り捨てっぽいな」


「私の生理がもう少し遅れていれば76点になっていたわけっすかぁ!」


「たしかにそうだが、そういうつもりで言ったわけではないよ」


「分かっているっすよ!」


「つかまた1位は〈スポ軍〉だしヤバいじゃん! 私、坂本と付き合うことになっちゃうよ!」


「お姉さんは五十嵐の女になってしまう!」


「困ったな……」


 今日に関していえば俺達が1位だと思った。

 他所のスコアがもっと下がると睨んでいたからだ。


 実際、〈スポ軍〉と2位の女子限定グループ以外は大幅に下がっている。

 俺達のすぐ下――4位ですら本日のグループスコアは71点だった。


 問題なのは〈スポ軍〉だ。

 昨日の88点に続いて今日も80点とダントツだ。

 総合スコアは168点となり、俺達とは21点の開きがある。

 残り3回の測定でその差を埋めなければ俺達の負けだ。

 正直言って絶望的である。


「ひとまずミッションの報酬を決めませんか?」


 美咲が一枚の紙を差し出した。

 報酬の詳細や受け取り方法が書いてある。


「そういえば今回のミッションは実質無条件だったな」


 今しがたの測定をもって初日のミッションを攻略していた。

 報酬は三択だ。


 一つ目は1日分の食糧。

 今日の0時まで好きな食糧が召喚可能になる。

 召喚した食糧は翌日に持ち越せないとのこと。


 二つ目は何でも切れるサバイバルナイフ。

 これは最初の持ち込みリストにあった物と同じだ。

 石や動物の骨すらも豆腐のように切れるらしい。


 最後は万能虫除けスプレー。

 これも最初の持ち込みリストにあった。

 使用すると最終日まで虫が寄りつかなくなるそうだ。


 報酬は念じることで召喚される仕組み。

 どの報酬を選ぶかの決定権はグループのリーダーにある。


「ぶっちゃけナイフと虫除けスプレーの二択だよな」


「まぁ食糧は不要だよねー。飲み物は川の水を煮沸すればいいし、食べ物は近くの果物でどうにかなるし」


 麻衣の言葉に俺達は頷いた。


「虫除けスプレーもいらなくないっすか? 蚊遣り火があれば快適に過ごせるっすよー」


「そうとも言い切れませんよ燈花!」


「本当っすか琴子!?」


 琴子は「はい」と頷き、メガネをクイッとした。


「ここから動かないのであれば蚊遣り火で十分ですが、他の場所でも活動するなら虫除けスプレーもありかと!」


「俺も琴子と同意見だ。虫除けスプレーがあれば、虫の多い場所でも安全に活動できるようになる」


「なるほどっすねー!」


「とはいえ何でも切れるナイフも捨てがたいぞ少年! 漆田少年が求めている立派な環境を作るのに貢献するのは必至!」


「それもそうなんだよな。どっちがいいかな?」


「ここはリーダーの直感に委ねるべきっしょ!」


 麻衣が頭の後ろで手を組んだ。


「そうですね。私も風斗君にお任せしたいです」


「風斗の決定なら従う」


 女性陣が次々に押しつけてくる。


「ここはサバイバル経験の豊富な涼子に……」


「ノンノン! 漆田少年が決めるのだ!」


 女性陣が大きく頷いた。


「マジかよ」


 今のところ俺は大して役に立てていない。

 ペットボトルシャワーのアイデアも実力不足を物語っていた。

 そんな俺に報酬を決めさせるとは……。


「皆がそう言うなら俺が決めるけど、あとで文句を言うなよ!」


「それは約束できないなぁ!」と笑う麻衣。


「おい」


「うそうそ、何も言わないから! ほら、直感でパパッと選びな!」


「分かったよ」


 俺は目を瞑り、ナイフと虫除けスプレーを思い浮かべた。

 それらを使って活動する自分の姿を妄想する。

 妄想の中の俺は仲間達に頼られるすごい奴だ。

 というのはさておき――。


「これだ!」


 報酬が決まった。

 クラススキルの発動と同じ要領で念じる。

 すると、目の前に報酬が現れた。


「おー、漆田少年はそっちを選んだか!」


「攻めたねぇ風斗」


「そうか? 俺はコレのほうがいいと思ったんだけどな」


 選んだのは虫除けスプレーだ。


「てっきりナイフを選ぶと思ったっすよ」


 燈花が言うと、皆が「私も」と続く。


「もしかしてナイフが正解だったのか!?」


「正解か不正解かは風斗次第っしょ!」


「そうか」


 さっそく報酬のスプレーを使うことにした。

 完全に無臭なので本当に効いているのか分からない。

 ま、おいおい分かるだろう。


「さて、今日のミッションを確認したら作業開始だ」


 皆でミッション関連の紙を探す。


「あったよー!」


 麻衣のリュックに入っていた。


「すごいよ今度の報酬! 無限包帯だって!」


「それも持ち込みリストにあったな。どれだけ使ってもなくならない包帯だろ。何かと便利そうだ」


「だねー! そして肝心のミッションはー………………」


 麻衣の言葉が止まった。

 まるで電池の切れたおもちゃのように固まっている。


「どうした? 次のミッションは?」


「ライオンだって……」


「ライオンを倒すのか?」


「うん」


 麻衣が皆に紙を見せる。


『ミッション内容:オスライオンの成獣を討伐する』


 たしかにライオンの討伐だった。

 しかも成獣のオス――つまりふさふさのたてがみが特徴的なほう。

 初めてゼネラルを倒した時に活躍してくれた百獣の王だ。


「いや、ライオンを倒すとか無理だろ」


 あまりにも難易度が高すぎて笑ってしまった。

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