141 二日目の朝
昔の人が行っていたという害虫対策の蚊遣り火。
その効果は流石という他なくて、快適な夜を過ごすことができた。
そして夜が明け、サバイバルダンジョンの2日目――。
朝は昨日の残り物である猪肉を食べた。
脂身が甘くて美味いが、塩がないので薄く感じる。
「あースマホのない生活ってきっつい!」
木の串に突き刺した肉を頬張りながら叫ぶ麻衣。
彼女は誰よりもスマホの依存度が高いので大変そうだ。
「テレビがないのもきついっすー!」
隙あらばテレビを観ている燈花が吠える。
今の彼女なら大嫌いなニュース番組ですら楽しめそうだ。
「あ! スマホがないとTYPプロジェクト第二弾の状況が分からないじゃん! 私らが
「本当っすよ! まずいっすよ風斗!」
麻衣と燈花が血相を変えて言った。
俺は笑いながら「問題ないよ」と返す。
「実はこの島での5日は現実世界の5分なんだ。だからダンジョンを攻略して元の島に戻った時、日時は8月18日の昼ってわけだ」
「え! そうなの!?」
「そんなわけないだろ」
「違うんかい!」
「このダンジョンの参加者をグループチャットで募った時にも書いたんだけど、手島重工からTYPプロジェクト第二弾の実施日について発表があったんだ。それによれば24日以降になることは確定で、おそらく24日か25日になるとのことだ。23日以前は絶対にない」
「そうなんだ。思ったより時間がかかるんだね。生成器や増幅器はもう修理済みなんでしょ?」
「機械じゃなくてスケジュールの調整が大変らしい。自衛隊だか海上保安庁だか知らんがそういうのも動員するし、今や国家プロジェクトだからな」
「なるほどねぇ」
「燈花はともかく麻衣がそのことを知らないのには驚いたな」
麻衣は「いやぁ」と舌を出しながら頭を掻いた。
「風斗が頼もしいから丸投げでいいかなぁって」
「おいおい、しっかりしろよ情報担当」
「えへへ」
そんなこんなで朝食が終了した。
「今日はどうするかね漆田少年!」
「疲れない程度に動き回って薪や果物を調達しよう。あと、何かを作る時に備えて蔓を集めて紐にしておきたい」
「了解! 元気になったお姉さんがしゃかりきに働くよー!」
「いや、しゃかりきには働かないでくれ」
涼子が「えっ」と固まった。
「12時にスコアの測定がある。朝から頑張り過ぎて疲れられると悪影響が出かねない。だから測定が終わるまでは疲れないことを最優先に頼む。何なら作業をしないで駄弁っていてくれてかまわない」
俺達の目標は総合1位だ。
既に後塵を拝している以上、12時のスコア測定は厳しく攻めたい。
「じゃあ私は休憩するっす! たぶんみんなよりスコアが低いっすから!」
燈花がヘルスバンドを見せる。
スコアは69で、たしかに7人の中で最も低かった。
他は74~76で推移している。
「燈花、体調が悪いのか?」
「大丈夫! ただの生理っすよー!」
平然と言ってのける燈花。
流石に「ただの生理なら大したことねぇな!」とは返せない。
少し面食らったあと、俺は苦笑いで答えた。
「ま、まぁ、無理しないでくれ」
「大丈夫っすよ! 私、軽いほうっすから!」
「そうか……」
ウチの女性陣は俺を男扱いしていないな、と思う。
生理と言ったり裸を見せたりすることにためらいがない。
今でも恥ずかしがるのは美咲と由香里くらいなものだ。
「とりあえず疲労を最小限に抑えるため薪と蔓だけ集めようか」
「了解ですともー!」
琴子が自分のリュックから地図タブレットを取り出した。
それを使って安全なルートを考えようとするのだが――。
「なんだこれ?」
地図上に宝箱のアイコンが表示されていた。
アイコンは北東、北西、南東、南西の四カ所にそれぞれ一つずつある。
「きっとすごいお宝があるのですよ! 行きましょう風斗さん!」
大興奮の琴子。
ヘルススコアもグングン上がって80を超えた。
彼女ほどではないが、他のスコアも軒並み1~2点は上がっている。
「北西の宝箱はここから近いし行ってみるか」
「ひゃふー! 楽しみですともー!」
右手を突き上げて跳ねる琴子。
いよいよヘルスコアが90を超えた。
「涼子もついてきてもらえるか? 宝箱の場所にはシマヘビが出るみたいだから念のためにな」
「任せろ少年! 実はお姉さんな、ヘビの捌き方を熟知しているのだ!」
「マジで万能だな……」
ということで、俺は琴子と涼子を連れて宝箱アイコンの場所へ向かった。
◇
15分ほど歩いて目的地に到着。
俺達の寝床がある場所と大差ない森の中だ。
「これがアイコンの正体だな」
「やっぱりお宝ですともー!」
そこには大きな宝箱があった。
木製で、なかなか年季の入った見た目をしている。
さっそく開けてみると、中には空のペットボトルが入っていた。
容量は2Lと500mlで、どちらもちょうど人数分ある。
「これがお宝……? なんだか拍子抜けですかな?」
首を傾げる琴子。
「どう見ても空のペットボトルだもんな」
手に取っても変化しない。
ただ綺麗なだけの空のペットボトルだ。
「いいではないか! 水筒代わりになるぞ!」
「そういう風に使うわけか」
少し納得。
「サバイバル生活に無駄なものはない! 何だって使い方次第で化ける可能性を秘めているぞ少年!」
「参考になるよ」
俺達はペットボトルを持って帰ることにした。
空にしておいたリュックの中に放り込んだ。
作業が済んだらさっさと帰路に就く。
「思ったんだけどさ――」
歩き始めて間もなく、俺は涼子に言った。
「――2Lのペットボトルはシャワーに使えないか?」
「シャワー?」
「底のほうにいくつか穴を開けるんだよ。キャップを緩めている時だけ水が出るしいいんじゃないか」
これは小さな頃にテレビで知った災害時のテクニックだ。
「ペットボトルシャワー! たしかに名案だ! しかし少年! そんなことをする必要はあるのかい?」
「というと?」
「シャワーを浴びたかったら鍋の水を体に掛ければよくないだろうか! 片手鍋は手桶としても利用できる! まさに昨夜はそうしたではないか!」
「たしかに……。するとペットボトルシャワーは微妙か」
「貴重なペットボトルに傷をつけるほどではないとお姉さんは思う!」
「なるほどな」
涼子の言う通りだと思った。
◇
のらりくらりと過ごして12時を迎えた。
「――! 今なんかチクッとしなかったか?」
「したっす!」
「私だけじゃなかったんだ!」
左の手首に電流が走った。
おそらくそれが測定の合図だろう。
俺はリュックからスコアや順位の記載された紙を取り出す。
案の定、情報が更新されていた。
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