136 告白の嵐
タブレットに表示されている時刻が11時40分になった。
残り20分でサバイバルダンジョンの無人島に転移する。
既に全てのグループが持ち込むアイテムを選択し終えていた。
麻衣や涼子は見えない壁越しに他所のグループと話している。
美咲と由香里は俺の傍で大人しくしていた。
「琴子ー、私はトラっすよー! ガオー! どうするっすか!? 絶体絶命っすよー!」
「風斗さんが倒してくれるので大丈夫ですともー!」
「ぶぶー! 倒すのは由香里っすよ! 風斗は私らと一緒に『ひぃぃ』ってビビっているっすよ絶対!」
燈花と琴子は愉快気に話している。
「おいおい、俺だって戦えるぞ。最近はジムで鍛えて筋肉がついた」
「でも相手はトラっすよ? 素手がパンチで倒すなんて無理っすよ?」
「うっ……! そう言われるとたしかに為す術がないな……!」
「大丈夫、私が風斗を守るから」
俺の服の袖を軽く引っ張り、「任せて」と微笑む由香里。
(頼もしいけど、できれば俺が守る側でいたいなぁ)
とは思うものの、言える程の自信はなかった。
「夏目!」
男子の声が聞こえた。
皆が思わず話を止めるほどの大声で。
夏目とは麻衣のことだ。
声を張り上げたのは二年の坂本だ。
同じクラスになったことはないが名前は知っていた。
茶髪で、いつ見てもヘアバンドをしている。
「サッカー部のモテ男」の異名を持っているが恋愛経験は不明だ。
少なくとも俺は、坂本の彼女を見たことがない。
「こっちに来てくれ」
「こっちにって、ギルドのお誘い?」
「違う、壁まで近づいてきてくれ」
「別にいいけど、どうしたの?」
麻衣が坂本に近づいていく。
見えない壁のせいで数メートルの距離が残った。
「前から気になっていたんだけど、夏目と漆田って付き合っているの?」
「ううん、違うよ。私と風斗はそういう関係じゃない」
麻衣が振り返り、「だよね?」と俺を見る。
本当のことなので、俺は「そうだな」と頷いた。
坂本の顔に安堵の色が浮かぶ。
「なら今はフリーか」
「今は……というかずっとフリーだけどね」
坂本は「よかった」と呟き、真剣な目で麻衣を見る。
「俺、ずっと夏目のことが好きだったんだ」
「えっ」
驚く麻衣。
一瞬の間を置いてから場がざわついた。
「ウチのグループがこのダンジョンで1位になったら俺と付き合ってくれ」
頭を下げる坂本。
彼と同じグループの五十嵐が「いいぞー!」と叫ぶ。
それに呼応して他の連中もヒューヒューと口笛で盛り上げる。
「断りづらぁ……」
麻衣は困惑した様子でため息をつく。
「お願いだよ、夏目。俺にチャンスをくれ!」
「はぁ……。じゃあ、1位になったら前向きに検討してあげる」
「いいのか!?」
頭を上げる坂本。
俺も「いいのかよ」と呟いた。
「別にいいよ。どうせ私達が1位になるから」
麻衣の目には自信が漲っていた。
私達が負けるはずないという絶対的な自信が。
「そういうことなら俺は小野崎だ!」
と、坂本を押し飛ばしたのは、リーダーの五十嵐。
彼は両手をメガホンに見立てて涼子に言う。
「小野崎ー! ウチが1位になったら俺の女になってくれ!」
「私には漆田少年がいるが……その心意気に免じて受けよう!」
涼子はグイッと親指を立たせて快諾。
五十嵐が「っしゃあああああああ!」と吠える。
「俺もだ! 牛塚! 1位になったら俺と付き合ってくれ!」
「成海! 俺と一緒にダンジョンで愛を深めよう!」
「弓場! いや、由香里! お前が好きだ!」
坂本と五十嵐の告白が呼び水となって妙な展開になる。
ウチの女性陣に対し、他所からの告白が無数に飛び交った。
「俺だって夏目のことが好きだったんだ! 夏目! 俺と付き合ってくれ!」
「1位になれたら考えるって。誰が相手でもそう答えるよ」
一人の女子につき複数人の男子が言い寄っている。
美咲にいたっては生徒だけでなく四十過ぎの教師からも告白されていた。
そして――。
「漆田先輩、私達のグループが1位になったら付き合ってください!」
「私もお願いします! 先輩の英雄的活動がずっとカッコイイと思っていました!」
なんと俺まで告白された。
相手は女子限定グループの連中だ。
7人組だが、その内の3人に告白されてしまった。
「じゃ、じゃあ、そっちが1位になったら検討するよ」
告白してきた女子連中がきゃーきゃー騒ぐ。
12時を目前にして、場がお祭りムードに染まった。
「どうしてこんな展開になっちまったんだ……」
苦笑いを浮かべている俺。
「負けられませんね、風斗君」と美咲。
「ああ、本当にな」
他所に1位を取られると、誰かしらが告白を受けることになる。
「私達を守るためにも頑張ってね、リーダー!」
麻衣が胸を小突いてきた。
「もちろんだ。1位を取って他の奴等に分からせるぞ!」
「「「おおー!」」」
絶対に負けられない戦いが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。