134 サバイバルダンジョン

 翌日、俺達は燈花の見つけたダンジョンの攻略に動き出した。

 入口となる光の玉は森の中、林道のど真ん中にぷかぷか浮いていた。

 なるほど、〈ダンジョン探知〉のない燈花と涼子でも見つけられたわけだ。


「それにしてもこんな早くに来る必要あったのか」


「すぐに分かるっすよ!」


 現在の時刻は午前10時前。

 いつもなら「さぁ活動するぞ」と城を出る頃だ。

 今回は燈花に急かされて早めに動いていた。


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【人数】5~10人

【目的】5日間生き延びる

【報酬】1位500万pt、他150万

【条件】3グループ以上の参加

【備考】

・競争型のサバイバルダンジョンです

・開始時刻は「AM11:00」です

・ダンジョンを攻略するのに5日を要します

・誰か1人でもリタイアした時点で終了となります

・スマートフォンは使用できません

・クラス武器及びクラススキルは使用できません

・ペットの持ち込みはできません

・参加者のペットは安全な場所に隔離されます

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 光の玉に触れるとスマホにダンジョンの情報が表示された。

 サバイバルダンジョンとは燈花の造語ではなかったようだ。

 競争型という表記も気になるが、それよりも――。


「3グループ以上の参加が条件になっているじゃねぇか」


「うげっ! 見落としていたっす!」


「あちゃー! お姉さんも見ていなかったー!」


「おいおい」


「風斗ー、どうにかしてっす!」


「どうにかしてって言われてもなぁ」


 1グループ最低5人は必要で、俺達の人数は7人。

 3グループはおろか2グループに分けることすらできない。

 それにグループを分けたら報酬の旨味が減る。


 かといって他所のギルドに声を掛けるのも難しい。

 距離の問題があるから、「了解! 数分で行くぜ!」とはならない。


「おそらく! おそらくですが!」


 琴子が挙手した。

 俺達の視線が集まると、彼女はメガネをクイッとした。


「最初のグループがダンジョンクエストを受注すれば、他の方に通知が届くと思います!」


「でもここまで来るのに時間が……」


「通知を受けた者はその場から参加できますよ! おそらくですが!」


「本当か」


「ダンジョンハンターの勘がそう告げていますとも!」


「麻衣の勘と違って信用できるな」


「ちょっと! 私の勘だってよく当たるし!」


 ははは、と笑いながらギルドクエストを受けた。


「お、琴子の勘が当たったようだ」


 スマホに『全員にダンジョンの招待を送っています』と表示された。

 その下の説明文によると、招待を受ける側はその場から参加できるそうだ。


 案の定、グループチャットが騒然となった。

 皆、突然の招待に何が何やら分からず驚いている。


『俺もよく分からないんだけど』


 そう前置きしてから、俺は知っている範囲で説明した。

 あと、自分達だけでは始められないので参加してくれたら助かる、と。


 皆の反応は良好だった。

「面白そう」や「暇だから」と参加を表明する者が続出。


 ギルドの垣根を越えて参加できるのも好評だ。

 チャットを使ってグループメンバーを募っている者もいる。


「風斗、参加グループが追加されたよ」


 由香里が教えてくれた。

 あっという間に最低条件の3グループを突破。

 その後も順調にグループ数が増えていく。

 11時を迎えた時、グループ数は10に達していた。


『時間になりました。クエストを開始します』


 通知が出てまもなく、俺達は転移した。


 ◇


「なんだここ」


「真っ白すぎて頭がおかしくなりそうっす」


 転移先は純白の空間だった。

 扉などの類はなく、どこまでも白の世界が続いている。


「他のグループもいますね」


「そのようだが、声は聞こえないみたいだな」


「近づくのも無理っぽい」


 麻衣が見えない壁を小突いている。

 グループ単位で区切られているようだ。


「知っている顔は……」


 他所のメンバーを見ていく。


「〈スポ軍〉の五十嵐くらいだな」


「私はわりと分かるけどねー」と何故かドヤ顔の麻衣。


「グルチャでも感じていたけど、やっぱり男子の参加者が多いな」


 参加グループの大半が男子のみで構成されている。

 男女混合はウチ以外だと2組で、女子のみのグループは1組だけだ。

 残りの7組は全て男子だけということになる。


 グループの人数はまちまちだ。

 5人のところもあれば10人のところもある。

 平均すると7人かそこらだろう。


「風斗君、スマホがなくなっていますよ」


「なんだって!?」


 美咲に言われて気づいた。

 ポケットに入れておいたはずのスマホがない。


 どうやら他所のグループも気づいたようだ。

 誰もが慌てた様子でポケットをまさぐっている。


 ただ一人、琴子だけは冷静だった。


「そういう仕様なので問題ありませんとも!」


「仕様?」


「ダンジョンの説明に書いていたではありませんか! スマートフォンは使用できませんと! なのでスマホが一時的に消えたのです!」


「使用できないとはそういうことだったのか。スマホの使えないダンジョンは初めてだから知らなかったぜ」


「そういう事情ならスマホがないのはいいけど、時間が分からないのは不便だね。風斗、時計を召喚してよ!」


「無茶を言うなよ、麻衣」


「大丈夫っすよ! 風斗なら召喚できるっす!」


「そうだぞ漆田少年! 時計を出せ!」


 燈花と涼子が便乗する。


「やれやれ、そこまで言われちゃしょうがないなぁ!」


 暇なので調子を合わせることにした。

 俺は右腕をグルグル回したあと、手の平を前方の床に向ける。


「現れろ! 時計!」


「もっと呪文ぽいこと言いなよー!」


 麻衣が突っ込み、他の女性陣が笑う。

 だが、次の瞬間――。


「「「えっ」」」


 誰もが驚いた。

 なんと俺が手をかざした場所にタブレット端末が現れたのだ。

 さらに、全員の左手首にスマートウォッチらしき物が召喚された。


 スマートウォッチには謎の数値が表示されている。

 操作はできないようだ。


「風斗すごっ! そんな魔法使えるの!?」


「流石です風斗君」


「風斗、すごい」


「やる時はやる男だと思っていたよお姉さんは!」


「やばいっすねー風斗!」


「恐れ入りましたよ風斗さん! お見事ですとも!」


 大袈裟に褒め称える女性陣。

 俺は苦笑いで「そんなわけないだろ」と否定。


「他所のグループにも同じ物が召喚されているし偶然だよ。それより――」


 床に転がっているタブレットを拾う。


「――こいつを確認しようぜ」

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