133 金策の模索
翌日、底引き網漁に代わる金策を探すべく動き出した。
俺と琴子、涼子と燈花に分かれ、思いついたものを手当たり次第に試す。
他のメンバーは別の作業を進めていた。
麻衣は情報収集、由香里は魔物狩り、美咲は最高の料理番だ。
「せーの!」
「どりゃー! わお、川とは思えぬ漁獲量ですとも!」
俺と琴子は川でできる金策を試していた。
ネットの情報を参考に、色々な漁で魚群を潰していく。
「うーん……」
「収入は微妙でしたかな?」
「そうだなぁ。悪くはないが、ちょっとな……」
川の漁には何かしらの欠点が必ずある。
稼げても危険だったり、楽だけれど稼げなかったり。
安全に稼げるが何かと面倒臭いというものもあった。
改めて感じる。
海での底引き網漁は本当に優れていたな、と。
楽に稼げて、その上、安全性も高い。
「ちょっと休憩するか」
「了解ですとも!」
俺達は適当な場所にキャンプ用の椅子を召喚して座った。
足下の小石を目の前の川に向かって投げる。
「なぁ琴子、一つ質問してもいいか?」
「一つと言わず二つや三つでもいいですとも!」
こちらに向かってニィと笑う琴子。
「ありがたいが今回は一つだ」
俺は琴子の格好を見てから尋ねた。
「そのウインドブレーカー、暑くないのか?」
今日の琴子は制服の上からウインドブレーカーを羽織っている。
ウインドブレーカーの見た目はこれといった特徴のないもの。
しかし、彼女はどうにもそれが気に入っているようだ。
「ふっふっふ、暑くないどころか涼しいのですよ風斗さん!」
「涼しい? 流石にそれはないだろー!」
今日は非常に暑い。
日本より涼しいこの島でも立っているだけで汗が滲み出る。
そんな時期にウインドブレーカーを着るなど正気の沙汰とは思えなかった。
「実はこのウインドブレーカー、適温状態を維持する機能付きなのです」
「適温状態を維持?」
「百聞は一見にしかず! 試してみれば分かりますとも!」
「それもそうか」
ということで、俺も買ってみることにした。
〈ショップ〉を開いて膨大な衣類の中から探す。
「適温を維持する機能……あったあった、これだな」
そのような謳い文句の衣類は思ったよりたくさんあった。
ウインドブレーカーだけでなく、シャツ等にも同じ機能の物がある。
「思ったより高いな」
「機能付きなので仕方ないですとも!」
ただの服は基本的に数千ptで買える。
高級感のあるアウターですら数万ptだ。
ところが、適温機能が付くと桁が1つ増える。
琴子のウインドブレーカーは10万ptもした。
「俺は肌着で試してみよう」
その場でサッと着替える。
琴子に裸を見られても気にならなかった。
「おお!」
着た瞬間に感動した。
冷房の効いた部屋にいるかの如き涼しさだ。
かといって寒すぎない。
まさに適温。機能名に偽りなし。
これほど便利な服があるとは知らなかった。
「すごいですよね!? すごいですとも!」
「ああ、これはすごい! さっそく皆に教えないと!」
俺はギルド用のグループチャットで報告した。
適温維持機能の付いた服がすごい、と。
すると――。
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麻衣:え、今さら?w
涼子:知らなかったのか漆田少年!
由香里:風斗、今まで普通の服を着ていたの?
燈花:残念っすね、風斗!
美咲:風斗君……どんまいです!
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なんと女性陣は誰もが知っていた。
もちろん琴子のウインドブレーカーに適温維持機能が付いていることも。
「なんで俺だけが……」
俺はガクッと項垂れた。
◇
結局、川での漁は最後までパッとしなかった。
仕方ないので魔物がいる草原で狩りをすることに。
「琴子って色々な武器を持っていたんだな」
「ダンジョンを攻略するためですとも!」
そう言ってスリングショットでカエル型の魔物を屠る琴子。
さらに忍び寄っていたヘビ型に短剣を突き刺す。
長らくソロで過ごしていただけあり動きが洗練されている。
「ま、こんなところか」
「狩りはいい運動になる反面、疲れますかな!」
「だなぁ、稼ぎはいいんだけどね」
ポイント効率だけを考えた場合、現状では魔物狩りが一番いい。
「やっぱり総合的に優れているのは底引き網漁だな」
それが俺達の結論だった。
「でも、色々な手段を試せたのは良かったのではないですかな!?」
「まぁな。何かあって底引き網漁が使えなっても困ることはなくなった」
画期的な金策は見つからなかったが、結果は上々と言える。
「そろそろ日が暮れるし戻りますかな!」
「オーケー。でもその前に涼子たちの状況を確認しておこう。もしかしたら何か閃いているかもしれない」
スマホを取り出し、ギルド用のグループチャットで話す。
文字を打つのが面倒なので音声通話にした。
「そっちの首尾はどうだ?」
『おー! いいところに! 聞いてくれたまえ漆田少年!』
『ちょっとずるいっすよ涼子! 私が見つけたのに!』
どうやら何か発見したようだ。
『仕方ないなぁ! では譲ってあげよう!』
『どもども! 風斗、面白いダンジョンを発見したっすよ!』
「おいおい、今日は新たな金策を探すって話だろ」
『それがすごいっすよ! なんと攻略報酬は一人500万!』
「500万!?」
「とんでもない額ですよ!」と食いつく琴子。
『ただ攻略するのに5日を要するみたいっす!』
「1日100万の稼ぎか。それでも悪くないな」
『そっすよね! 風斗ならそう言うと思ったっす!』
「それにしても、そんな高額報酬のダンジョンなんてあったか?」
現在、ダンジョンの攻略は多くのギルドで行われている。
情報交換も活発だ。
しかし、報酬500万のダンジョンなど聞いたことがなかった。
『きっと新しいダンジョンっすよ!』
「なるほど、それなら高額報酬もありえるか」
ダンジョンの数は減ったり増えたりする。
これはダンジョンの攻略が盛んになったことで判明した。
新たに増えたダンジョンには二種類存在する。
報酬から内容まで使い回しているものと、全くの新種。
後者に関しては報酬が良くなる傾向にあった。
『最低でも5人以上じゃないと参加できないし、明日は皆でダンジョン攻略に行こうっすよ!』
「皆でダンジョン攻略っていうと、〈テレポート〉のもらえる高難度ダンジョンを思い出すな」
「あのダンジョンは何から何まで個性的でした! 挑んだグループによって内容が異なるダンジョンなんてあそこだけですとも!」
『風斗ー、明日はダンジョンの攻略に行くってことでいいっすよね?』
「特に予定もないしそれでいいだろう。皆が承諾すればだが」
『じゃあサバイバルダンジョンの座標をチャットに貼っておくっす!』
「了解」
通話が終わる。
それから1分もしない内に座標が届いた。
拠点から20分ほどの距離だ。
「サバイバルダンジョンって言っていたよな? 何だそれ?」
琴子が「さぁ?」と首を傾げる。
「ダンジョンハンターの琴子が知らないなら燈花の造語か」
「どんな内容なのか今から楽しみですとも!」
「報酬が高額すぎて不安もあるけどな。とりあえず明日もダンジョンが残っていることを祈って戻るとしよう」
臨戦態勢の魔物を無視して、俺達は〈テレポート〉を使った。
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