132 ジムでの一幕
夕方、俺は一階で筋トレに励んでいた。
空き部屋に手を加えて、色々なトレーニングマシンを置いている。
ネットの説明を参考にそれらで体をいじめ抜いた。
島での生活において肉体の強さは重要だ。
魔物や徘徊者との戦い、果てには漁などの作業でも身体能力が問われる。
目標は栗原のようなムキムキボディだ。
奴の強さには男として惹かれるものがあった。
「そういえば栗原って元気にしているのかな」
ボソッと思ったことを呟く。
独り言のつもりだったが、その場にいた女子が反応した。
「きっと元気にしているだろう! あれでもお姉さんの友達だからな!」
涼子だ。
白のヘソ出しブラトップに黒のホットパンツという格好。
もちろん黒のニーハイも忘れていない。
「栗原とは連絡をとっていないのか?」
「んにゃー、全然! そういう仲じゃないのだ!」
「友達なのに!?」
「友達にも色々あるのだよ漆田少年」
「ほへぇ」
チラリと涼子を見る。
胸の谷間やヘソに汗が溜まっていた。
どういうわけか全裸の時よりもエロティックだ。
「どうした漆田少年。お姉さんの汗を舐めたいのかい?」
「舐めたくねぇよ! マジで舐めたくねぇ!」
いつもより激しく拒否してしまう。
微かに舐めたいと思ったのを隠すために。
「なっはっは! 漆田少年は分かりやすいなぁ!」
涼子はマシンに掛けてあったタオルで汗を拭いた。
そして近くのベンチに座り、〈ショップ〉でスポーツドリンクを購入。
きりがいいので俺も休憩することにした。
『政府がTYPプロジェクトを本格支援するための特別法案について――』
吊してあるテレビでは手島重工について報じていた。
先日のTYPプロジェクト第一弾以降、テレビはこの件で持ちきりだ。
どの局でも日に数時間はTYPプロジェクトの話をしている。
「TYPプロジェクトって、本当にふざけたネーミングセンスだよなぁ」
「しかし国民の反応はいい! お姉さんも気に入っている!」
「そこまで考えて名付けたとしたら手島は天才だな」
手島祐治パーフェクトプロジェクト、略してTYPプロジェクト。
酷い名前に反して内容はまとも且つ革新的で世界が注目している。
そのギャップと手島の容姿が、日本国民の心を鷲掴みにしていた。
政府もTYPプロジェクトの人気にあやかろうと必死だ。
総理大臣以下、国の重鎮が意味もなく視察と称して手島重工を訪問。
さらには政府が国を挙げてTYPプロジェクトを支援すると発表。
低迷していた支持率が奇跡のV字回復を始めている。
手島重工の株価も急上昇中だ。
世界中の投資家がこぞって同社の株を買い漁っている。
株価はあっさり上場来高値を更新したが、それだけでは留まらなかった。
時価総額ランキングで世界1位になったのだ。
それでも飽き足らず上昇の一途を辿っている。
『プロジェクト第二弾はいつ頃になると思いますか?』
『そう遠くないですよ。おそらく近い内に実施されると思います』
キャスターと専門家が聞き飽きたやり取りを始めた。
『それはどうしてでしょうか?』
『生成器と増幅器の修理が終わっているからです。政府の後押しもあるし、既にスケジュールの調整段階に入っていると考えるのが妥当です。これだけ国民が支持していると野党も反対できないので、TYPプロジェクトの障壁は何もありません』
『一部ではアメリカなどの大国による妨害が懸念されていますが、それについてはどうお考えでしょうか?』
『私は問題ないと考えています。例えば名前の出たアメリカですが、日米半導体協定をはじめとする過去の失敗で学んでいます。もし何かするとしても、それはTYPプロジェクトが成功したあとのことであって、途中で妨害することはないと思います』
話が終わると、再びTYPプロジェクトの説明に戻る。
「そろそろお姉さんの出番かな?」
「だろうな」
そわそわし始める涼子。
約2分後――。
『里奈ー! お姉さんもいるぞー!』
テレビから涼子の声が聞こえてきた。
俺達は「きたきた」と笑う。
TYPプロジェクトの説明では、先日の配信映像が使われる。
ゲートの向こうに俺達がいる証拠となるのが涼子の音声だ。
涼子は今、SNSで話題になっている。
一人称の「お姉さん」が独特過ぎて大ウケだ。
「お姉さんは人気者だなぁ! ふはは!」
「ネットでは陽気とか馬鹿っぽいと言われているぞ」
「ふふ、人気者の証さ」
「たしかにすごい勢いだもんなぁ。戻ったらインフルエンサーになれるかもしれないぜ」
「ははは! 残念ながらそれは無理だ!」
「そこは謙虚なのか。どうして無理なんだ?」
「お姉さんはこう見えて人見知りなのでな! コミュ障ともいう!」
「嘘つけ」と笑う俺。
「ほんとほんと! 本当だよ漆田少年!」
「涼子がコミュ障ならコミュ力のある奴なんていなくなるだろ」
「なっはっは!」
笑い流す涼子。
俺も釣られて笑ったあと話を変えた。
「なんにせよTYPプロジェクト第二弾が楽しみだな。テレビで専門家も言っていたが、そう遠くない内にあるだろう」
「もしかしたら平和ウィーク中に帰還できるかもしれない!?」
「あり得る話だ」
「えー、お姉さんはここで漆田少年とイチャイチャしていたいなぁ」
「イチャイチャしたいんじゃなくて全裸で過ごしたいだけだろ!」
「それもある!」
「やれやれ……。さて、そろそろ汗を流しに行くか。休み過ぎて体が冷えてしまったよ」
「その言葉を待っていた!」
何故か服を脱ぎ始める涼子。
「私も一緒。抜け駆けは許さないからね、涼子」
突如として登場する由香里。
俺は二人と一緒に大浴場に向かうのだった。
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