126 麻衣の告白

 明日、俺達は手島の要請に応えてゲートの生成に協力する。

 上手くいけば島から脱出できる見込みだ。

 つまり、今日がこの島で送る最後の夜になるかもしれない。


 いや、「かもしれない」ではない。

 俺達は信じている。

 今日がこの島で過ごす最後の夜になると。


 その夜を俺は――麻衣と二人で過ごしていた。


 並んで城壁の上を歩いている。

 真っ暗闇の中で停止している機械弓兵が不気味だ。


「この島に来て約一ヶ月ですっかり賑やかになったよね」


 麻衣は白銀の髪を掻き上げながら夜空を見る。

 綺麗な星空だ。


「最初は二人だったもんな」


 これまでの日々がダイジェスト形式で脳内に流れる。

 半ば強引に美咲が加入し、いきなり由香里がやってきて、栗原の暴走で死にかけたところを燈花に助けられた。

 城の前に涼子が立っていたこと、ダンジョンの手前で琴子と出会ったこと。


 全てを鮮明に思い出せる。

 この島で過ごした一日一日が濃密だった。


「この島じゃ私らが主役だったよね! 風斗は英雄様だし!」


「他所の奴等に都合良く利用されているからな」と苦笑い。


「いいじゃん、皆に感謝されて嫌な気はしないでしょ?」


「まぁな」


 日本に戻った後のことを考える。

 退屈な日々が待っているようにしか思えなかった。

 一足早く受験勉強に耽るか、新しい趣味でも見つけないとな。


「ねね、風斗」


 突然、麻衣が腕を絡めてきた。


「なんだ?


「今の内に言っておこうと思ってさ」


「何を?」


「日本に戻ったら付き合おうよ」


「え、付き合う?」


「そそ、恋人として!」


 恥ずかしそうに笑う麻衣。


「おいおい、戻ったら付き合うとか死亡フラグかよ」


「違うって! 真面目にさ! 付き合おうよ」


「まさかの告白だな……」


 麻衣は「でしょ」と言い、さらに続けた。


「私さ、恋愛感情ってのがよく分からないんだよね。風斗のことは仲間としても異性としても好きだけど、恋愛感情としての好きなのかは分からない」


「なのに告白したのか」


「なのにっていうか、だから告白したの」


「どういうことだ?」


「恋に恋するほどじゃないけど、多くのJKと同じで私も恋愛や青春を謳歌したいと思うの。だからといって、相手は誰でもいいってわけじゃない。よく知らない人と恋人ごっこをしても意味ないじゃん」


「まぁな」


「そんなことを考えたらさ、相手は風斗しかいないと思ったわけ」


「なるほど。俺も恋愛感情ってよく分からないな」


「だから一緒に恋愛感情を知ろう! 最初は今みたいな関係で、徐々に恋人らしいことを試してみる……みたいな? ま、既に恋人っぽいこともしたけどさ」


 俺はすぐに答えられなかった。

 どう返すか悩む。

 結果、思っていることを素直に言った。


「気持ちは嬉しいけど、今は二つ返事でOKとは言えないな」


「私じゃダメってこと?」


「いや、そうじゃなくて――」


「なら他の女子との関係があるからだ?」


「そうだ。付き合うとなったら麻衣以外の女子とは今まで通りにいかなくなってしまう。例えば当たり前のように行っている涼子との混浴とかな」


「あはは、風斗はモテモテだからなぁ!」


「モテモテとは違うだろー」


「違うの?」


「どちらかといえば男として見られていない感じだと思っている。女子高に紛れ込んだ男子みたいな」


「あー、それはあるかも! 言い得て妙だね」


 麻衣は腕を解き、俺の前に回り込んだ。

 手を後ろで組んでニッと笑う。


「とりあえず検討しといてよ! 今すぐに答えを求めているわけじゃないからさ! いい返事ができるようになったら教えて!」


「はは、悪い返事しかできない時は黙ってろってか?」


「その通り!」


 俺は「はいよ」と笑った。


「変な話をしてごめんね。とりあえず明日は成功させよう!」


「おう! まぁ、成功するかどうかは手島にかかっているんだけどな」


「たしかに!」


「見つけたぞ! 漆田少年!」


 話していると涼子が駆け寄ってきた。

 どうやら俺を捜していたようだ。


「どうかしたのか?」


「どうもこうもない! お風呂の時間だぞ!」


 涼子はその場で服を脱ぎ始めた。

 外だというのに躊躇がない。


「おいおい、こんなところで脱いだら風邪を引くぞ」


「へーきへーき! ニーハイはそのままにしておくから!」


「だったら多少は暖かいな」


「その通り!」


「いや、そうじゃないでしょ! 何してんの涼子!?」


 突っ込んだのは麻衣だ。


「何って服を脱いでいるのだよ!」


「見りゃ分かるよ!」


「だったらどうして質問したのだい?」


「それは……いや、だっておかしいじゃん! 外だよ!?」


「大丈夫大丈夫! 漆田少年もそう思うだろ?」


「まぁこれだけ暗いと見られることもないか」


 ということで俺も服を脱ぎ始めた。


「風斗まで脱ぐなし! ていうか風斗は違うでしょ流石に!」


「普段ならそうだけど、今日はこの島で過ごす最後の夜になるからな。日本でこんなことをしたら捕まるし今しかできないことだぞ」


「いいことを言うな漆田少年! その通りだ! ほら、麻衣タローも脱げ脱げ! お姉さんや漆田少年と一緒に魅惑の洗い合おう!」


 強引に麻衣の服を脱がそうとする涼子。


「やだよ! 一緒にしないでよこの変態ども! 私は常識人なんだよぉお!」


 麻衣は駆け足で階段を下り、そのまま城に向かって逃げていく。


「やれやれ、麻衣タローは照れ屋だなぁ!」


「たぶんあれが正常だと思うけどな……」


「でも正常より異常のほうが楽しいぞ少年!」


「分からなくもない」


「では行こうか少年! いざ大浴場へ!」


「おう!」


 俺と涼子は麻衣を追いかけた。裸で。


(こんな馬鹿なことができるのも今日で最後か)


 そう思うと、なんだか寂しくなった。

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