116 第七章 エピローグ

「おい、何やってんだ。今の段階で負けるのがどれだけまずいか分かるだろ」


 純白の空間で、クロードは声を荒らげずに怒っていた。


「そうは言ってもめちゃくちゃ強かったですよ。クロードさんも見たでしょ、あの連携。漆田風斗のギルドだけ異常ですって」


 部下の男は、自分に非はないと反論する。


「それは否定できんな……」


「漆田風斗は特異個体なんですよ。別に負けてもいいじゃないですか。上だって気にしませんよ」


「地球に関してはそういうわけにもいかない。なんたって数十億という人間がいるからな。漆田風斗と同等以上の素質を秘めた人間が数え切れないほどいると考えるのが自然だ。故に彼が特異個体であろうと敗北は認められない」


「そうは言ってもどうするんですか? 自分ですら無理だったんですよ」


「まぁ……そうだな」


「今の条件で漆田風斗のギルドを抑えるならアリィを戻すしかないと思います。でも、ここでアリィを戻したら他の者に示しがつきませんよ」


 クロードは「分かっている」と言い、一瞬だけ黙考した。


「仕方ない、アリィの謹慎を解いて復帰させよう。ここで苦戦しているのがバレるのはまずい。反対派に付け入る隙を与えるくらいなら部下の顰蹙ひんしゆくくらいいくらでも買ってやるさ」


「ではアリィを呼びます」


「そうしてくれ。俺は日替わりアンケートのおかげで有効なデータが得られそうだと上に報告する。あと、お前が漆田風斗のギルドに負けた件は油断したことが敗因だと言っておくぞ」


「分かりました」


 部下の男は両腕をだらりと垂らし、その場で目を瞑る。


「おい、地球人の技術を使え」


「地球人の技術って、わざわざ歩いて呼びにいけってことですか?」


「それが規則だからな」


「スマホを使っちゃダメなんですか? あれも地球の技術だし大丈夫ですよね?」


「規則には引っかからないが使えないぞ。アリィはスマートフォンを持っていないからな」


「ちぇ、分かりましたよ」


 男は気怠そうなため息をつき、小走りで部屋を出て行った。

 しかし、その数分後――。


「クロードさん! 大変ですよ!」


 ――血相を変えて戻ってきた。


「どうしたんだ?」


「アリィがいません! 部屋にも、どこにも!」


「なんだと!? どうしてだ!?」


「分かりませんよ! 〈交信〉を使っていいですか?」


「ああ、この件に関しては問題ない! 使え!」


「分かりました」


 部下の男は目を瞑り、大きく息を吐いた。


「ダメです! 反応がありません! 拒絶されました!」


「拒絶だと!? 何がどうなっているんだ……」


「やっぱり反対派の仕業ですかね?」


「そうに違いないが、それにしてもこれは……」


「明らかに流れが悪いですよねー」


「ああ、本当にな。漆田風斗が手に負えなくなりつつある中でアリィが失踪。さらには過去の被験者が島に侵入しようとしている。このままだと昔の二の舞になるぞ……」


 計画にほころびが生じている。

 クロードは誰が見ても分かるほど狼狽えていた。

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