115 鎌使い

 本日の徘徊者戦――。

 俺達は南門を出たところで待機していた。

 いつも通りに。


「今日はどのメインスキルにしよっかなー!」


 戦闘開始5分前だというのに、麻衣はクラススキルの選択中だ。


「無難に〈バレットストーム〉でいいんじゃないか?」


「えー、だって優秀過ぎるもんあのスキル!」


「そのわりに全く使っていないようだが」


「もっと癖の強いやつを使いこなしたほうがカッコイイじゃん!」


「カッコイイかどうかより強いかどうかで判断したほうがいいだろ……」


「ちぇー、風斗はつまらない男だねぇ! 分かったよ! 今日のメインスキルは〈バレットストーム〉にする!」


 麻衣がスマホをポチッとタップ。

 俺は視線を琴子に向けた。


「アーチャー以外の戦闘兵を召喚できるメインスキルってある?」


「いくつかありますよー! どういったものをお探しですかな?」


「CTはわりと短めで近接戦タイプ。攻撃力よりも防御力の高そうなものがいい」


「なら〈ガードナー召喚〉などいかがですかな? ガードナーとは盾を持った兵士のことでCTは20秒です!」


「1分に3体か。悪くないな。今日はそれで頼む」


「了解です!」


「ガードナーよりアーチャーのほうがよくない?」


 麻衣が尋ねてきた。


「ザコを狩るにはそうだが、ゼネラル戦では話が変わってくると思う」


「あー、あのピンクの剣士?」


「昨日は量産型だったが、今日はオリジナルが来るかもしれない」


「私達以外の拠点は昨日もゼネラルタイプが出ていたようだしね」


「うむ」


 アーチャーの矢は間違いなくゼネラルに通用しない。

 涼子のロケランですら防がれるのだから。


「で、ガードナーはゼネラルと戦う時にどう使うの?」


「全方位からタックルさせて敵の動きを封じるのさ。1時間で180体になるから、何体か殺されたところで問題ない」


「なるほど! 私達は身動きの取れない敵に攻撃するわけだ!」


「倒せるかは分からないが、とりあえず攻撃を当てることができるだろう」


「なんか燃えてきたー!」


 ――と、ここで徘徊者戦が始まった。


「ゼネラルが出てくるまでいつも通りにいこう。CTの長いスキルは可能な限り温存するように」


「「「了解!」」」


 押し寄せる敵の群れに突っ込む俺と涼子。


「我々は日進月歩で成長しているな、漆田少年!」


「そうだな」


 レベルだけではない。

 戦闘技術や仲間との連携も成長している。


「敵だって強くなっているはずなのに、前より楽に感じるねー!」


 麻衣が「うりゃー!」と夜空に向かってライフルをぶっ放す。

 放った弾丸が10倍に増えて雨のように降り注ぐ。

 アサルトライフルのメインスキル〈バレットストーム〉だ。


「「「グォオオオオオオオオ……」」」


 大勢の徘徊者が一掃される。

 威力・範囲ともに申し分ない。

 さらにCTも5分と短め。


「本当に優秀なスキルだな、〈バレットストーム〉」


「その分みんな使ってるからねー、没個性の量産型だよこれじゃあ!」


「気にするな、アサルトライフルの時点で没個性の量産型だ」


 アサルトライフルは最も人気の高いクラス武器だ。

 おそらく全体の3~4割が使用している。

 そして、その大半が〈バレットストーム〉を設定していた。


「そうっすよー!」


 燈花が隣を駆け抜けていく。

 今日はサイのタロウに乗って戦うようだ。

 それに合わせてスキルも〈ライノストライク〉を設定していた。


「〈ペットヘイスト〉が掛かったタロウの暴走は止められないな」


「ウホッ!」


 遅れて加勢するのはゴリラのジロウ。

 無慈悲の拳で徘徊者を殴り潰している。


「さっき麻衣も言っていたが前より楽に感じるな」


 敵は日に日に強化されている。

 動きが鋭くなっているし種類も増えていた。

 バリスタ兵の数もいつの間にか100体を超えている。

 それでも全く苦にならなかった。


「お?」


 周辺の敵が消えた。

 一瞬にして場を静寂が包み込む。


 ゼネラルが、来る――。


「タロウ、Uターンっすよー!」


「ぶぅ!」


 素早く陣形を整える俺達。

 燈花はタロウから下りて後方へ。

 入れ替わりで盾を持った兵士が目の前に並ぶ。

 琴子の召喚したガードナーだ。


「結構な数だな。時間から逆算すると約100体ってところか」


「ですともー!」


「涼子、ゼネラルはどこだ?」


「まだ〈ゼネラル探知〉を覚えていないぞ漆田少年!」


「ダンジョンじゃ経験値が足りなかったか」


「うむ! だが問題なかろう! 見よ少年! 出てきたぞ!」


 涼子がロケランの砲口を前方に向ける。

 暗闇の向こうから一体の人型徘徊者が現れた。


「おいおい、ピンク髪の剣士じゃねぇぞ」


 今回のゼネラルは鎌使いだ。

 全長約3メートルの巨人で、背丈に合った巨大な鎌を持っている。

 シルエットは死神だが、他のゼネラルと同じく甲冑を纏っていた。

 暗闇と同化する漆黒のマントをなびかせていて強そうだ。


「今までの奴よりやばそうっすよー!」


「風斗、新種のゼネラルだけどどうするの?」と麻衣。


「無茶はできん。今回は様子見でいこう。琴子、ガードナーを下げてくれ。撤退する時の囮に回したい」


「了解ですとも!」


 琴子の指示でガードナーが下がる。

 だが、それが済む前に敵が仕掛けてきた。

 ピンク髪の剣士と違って好戦的だ。


「防御重視で迎え撃つぞ!」


「「「了解!」」」


 俺はロボと一緒に左へ展開。

 同時に涼子はジロウを連れて右へ。


「タロウ、GO!」


「ブゥウウウウウウ!」


 タロウが正面から〈ライノストライク〉で仕掛けた。


「フンッ!」


 敵が鎌を振り上げる。


「させねぇよ! 遠距離攻撃だ!」


 俺の合図で女性陣が動く。

 美咲が〈ライトニング〉で牽制し、由香里が矢を放つ。

 麻衣も銃撃で援護した。


「ヌゥ……!」


 敵は防御に切り替えた。

 体の前で鎌を回転させて攻撃を弾いている。


「側面ががら空きだぜ!」


「ウホホォオオオオ!」


 俺とジロウが同時に突っ込む。

 敵は後方にステップし、ジロウに対して反撃の構え。


「甘い! 今日のお姉さんはコレが使えるのだ!」


 涼子がロケランの引き金を引く。

 すると、砲弾ではなくレーザーが発射された。

 爆発しない代わりに威力と弾速を高めたメインスキル〈ピカピカ光線〉だ。

 もちろん命名したのは涼子である。


「ヌンッ!」


 敵は涼子の攻撃を回避する。

 ――が、そこに追撃の砲弾が襲う。

 涼子が得意とするメインスキルと通常攻撃のコンボだ。


 ドガァァン!


 砲弾は敵に命中して爆発。

 最初からフェイントの予定だったジロウは後ろに跳んだ。


「いっけぇ! タロウ!」


「ブゥ!」


 本命のタロウが突っ込んだ。

 その結果――。


「グァ!」


 敵が吹き飛ばされた。


「わお! 当たったっすよ! タロウの攻撃!」


「マジかよ」


 命中したことに驚く俺達。

 ピンク髪の剣士なら余裕で防いでくるからだ。


「風斗君、もしかして今日の敵は……」


「ああ、今までの奴より弱い可能性があるぞ!」


「風斗、仕掛けよう」と由香里。


「そうだな。よし、仕留めにいくぞ!」


「「「おー!」」」


 作戦を変更して全力で叩きにかかる。


「攻め立てろ!」


 皆で連携して全方位から総攻撃。

 誰がフェイントで誰が本命なのかは決めていない。

 戦いの流れを見て判断するのが俺達の戦法だ。


「すごい連携……! すごすぎますよ皆さん!」


 琴子は撤退に備えている。

 残念ながら今回のゼネラル戦では出番がなかった。


「ヌゥ、ヌゥゥゥ……!」


 致命傷には至らないが、着実にゼネラルを追い詰めている。

 相手は防戦一方で反撃できないでいた。


「ここが勝負所だ!」


 俺は〈魂の暴走〉を発動。

 これによって3分間だけ超人的な力を得る。

 さらに〈オートシールド〉で防御を固めた。

 この状態の時だけはピンク髪の剣士とも互角に渡り合える。


「いくぜぇ!」


 窮地の敵に迫る。

 相手の周囲を走り回り、フェイントを織り交ぜた攻撃を繰り出した。

 そうやって隙が生まれるのを待つ。


「ヌッ……!」


 俺のスピードに翻弄されて敵がバランスを崩した。


「今だ!」


 フリーの左手で敵の甲冑に手を当て、そのまま押し倒す。

 そして――。


「もらったぁああああああ!」


 仰向けに倒れた敵の兜に刀を突き刺した。

 唯一守られていない目の部分に。

 しっかり、深々と。


「グォオオオオオ……!」


 敵は反撃しようとするが、その前に力尽きた。


「私達の勝利っすよー!」


「どんなもんだい徘徊者! お姉さんの力に恐れ入ったか!」


「風斗、かっこよかった」


「やりましたね、風斗君!」


「よっしゃー!」


 武器を捨てて皆でハイタッチ。


「それにしても、今回のゼネラルは大したことなかったな」


「だねー。ピンク髪の剣士とは大違い!」と麻衣。


「今回の相手なら今後も戦いたいっすねー! 休みになるし!」


「そういえばゼネラルを倒すと休みになるのだったな」


 話していると皆のスマホが鳴った。

 確認すると、まさに話していたことが書いてあった。


「今日の徘徊者戦は終わりで、明日と明後日は休みだってよ」


「本当にさっきの奴がゼネラルだったんだねー」


「そのようだ。強さは微妙だったのに、ポイントと経験値は莫大だな」


 討伐報酬で500万ポイントも獲得していた。

 さらにレベルも上がりまくりだ。

 我がギルド最高レベルの燈花ですら5も上がっている。

 琴子にいたっては34から43へ大幅アップ。


「明日って土曜日だよね? 徘徊者もいないし休みを満喫できるじゃん!」


 麻衣がスマホのカレンダーを見る。


「徘徊者が出ないなら外でキャンプできますよ! キャンプ!」


「おー! いいじゃんキャンプ! 名案だね!」


「面白そうっすねー!」


「ですよね! ちょうど今日、ダンジョンで話していたのです!」


「麻衣たちを待っている間にそんな話をしていたっけか」


「じゃあ明日の夜はキャンプで決定ですともー!」


「「「おー!」」」


「あ、でもその前に祝勝会をしよう! 今から!」


「では腕によりをかけてご馳走をお作りいたします!」


「手伝います、美咲さん」


 俺達は上機嫌で拠点に戻り、朝まで馬鹿騒ぎするのだった。

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