111 最終ミッション

 当然ながら麻衣たちBチームも余裕で第2ミッションを通過した。

 むしろ俺達よりも余裕で、涼子のロケラン一発で終わったそうだ。

 いくら涼子がメインスキルを使ったからって弱すぎるだろう。


 そんなわけで疲れ知らずの俺達。

 30分ほどの休憩でセーフエリアを出て次のミッションへ。


 ミッションエリアは円形のホールだ。

 白を基調としており、天井が高くて価格も高そうな空間。

 何も置いていないので広々としている。


「見てください風斗君!」


 美咲が指した先にBチームの面々がいた。

 向こうもこちらに気づいている。


 俺達は合流するべくエリアの中央に向かう。

 だが――。


「見えない壁があるぞ」


 ホールの中央にはチームを分断する見えない壁があった。

 そのせいか向こうの声が一切聞こえない。

 セーフエリアから出ているのでチャットも使えない。


 それをいいことに涼子がアホなことを始めた。

 なんとこちらに向いたまま服を脱ぎだしたのだ。

 豊満な胸を守るブラを投げ捨て、手ブラを披露する。


 麻衣が何やら言いながら涼子の後頭部を叩く。

 それを見た燈花が腹を抱えて笑っている。

 ご主人様が笑っているのでゴリラのジロウも上機嫌だ。


「何を言っているかは分からないがナイスだぞ! 涼子!」


 俺は親指をグッと上げた。


「昨日から思っていましたが、風斗さんってわりと変態ですよね……」


 背後から琴子の呆れる声が聞こえる。


「そういうところも素敵」


「風斗君は人間らしいところが魅力ですからね」


 由香里と美咲が謎のフォローをしてくれた。


「ところで、次のミッションはいつ始ま――」


『最終ミッション、イエス・ノーを攻略せよ!』


 俺の言葉を遮ってダンディな声が響く。

 同時に見えない壁が漆黒に染まり、Bチームの姿が消えた。


「イエス・ノーって何だ?」


 ダンジョン名人の琴子を見る。


「何でしょう? ワクワクしますよね? しますとも!」


 どうやら彼女も分からないようだ。


 ピロンッ。


 皆のスマホが一斉に鳴った。

 確認すると、〈ダンジョン〉が点滅していた。


「たぶんルールが書いていますよ!」


 という琴子の予想は的中した。

 〈ダンジョン〉を開くとイエス・ノーの説明文が表示されたのだ。


=======================================

【イエス・ノー】

 ■進め方

 ・最初に出題者を1名決める

 ・出題者のスマートフォンに成功条件とジャンルが表示される。

 ・出題者はジャンルに合致する問題を考えて出題する。

 ・回答者は自身のスマートフォンで「イエス」か「ノー」を回答する。

 ・回答の割合が成功条件と同じ場合は成功となる。

 ・三問連続で成功するとミッションクリアとなる。


 ■ルール

 ・出題者の変更はできない。

 ・成功条件と出題ジャンルは問題ごとに異なる。

 ・出題者は一人で問題を考えなくてはならない。

 ・出題者も回答者に含まれるため回答しなくてはならない。

 ・出題者はミッションが終わるまで成功条件を教えてはいけない。

 ・回答者は回答内容の相談をしてはいけない。

 ・回答者は自身の回答内容を他人に教えてはいけない。

 ・回答者は他人に回答内容を指示してはいけない

 ・回答者は自分の意志であれば嘘の回答をしてもよい。

=======================================


 読み終わった後、俺は言った。


「要するに誰か一人が出題者となって問題を出し、それを出題者も含めた四人で回答するわけだな」


「お恥ずかしながら理解が曖昧な部分があるので、練習問題をしてみませんか?」


 美咲が提案する。

 イエス・ノーには失敗し放題の練習問題があった。

 本番を始める前であれば何度でも試せるようだ。

 しかも問題が終わった後にルール違反がなかったか確認できる。

 練習なので問題のたびに出題者を変更することも可能だ。


「そうだな、試しにやってみよう」


「私が出題者をやってみてもいいですかな!?」


 ウキウキで挙手する琴子。

 俺は「いいだろう」と頷いた。


「では始めますねー!」


 〈ダンジョン〉で出題者登録を済ませ、琴子は練習問題を始めた。


「ふむふむ、なるほどなるほど……」


 ブツブツ呟きながらスマホを凝視する琴子

 おそらく成功条件と問題のジャンルを読んでいるのだろう。


「今回のジャンルは野球みたいです!」


「おいおい、ジャンルを言うのはルール違反じゃないのか?」


「大丈夫ですよー! ダメなのは成功条件を教えることです!」


 説明文を読み返すと、たしかにジャンルについては書いていなかった。


「野球か。さて、どんな問題が来るかな」


「んー! そうですねぇ……」


 琴子は右の人差し指を鼻先に当てて考え込む。

 そのまま固まること数分――。


「考えました!」


「ようやくか」


「いきますよ! 問題!」


 俺達は真剣な面持ちで琴子を見る。


「私は北鉄レイダーズより南原ベルリンズのほうが好き!」


「それが問題か?」


「はいですとも! スマホでご回答お願いします!」


「オーケー」


 〈ダンジョン〉の回答画面を開く。

 イエスかノーを選択するだけの簡素な作りになっていた。


(流石にみんな無言だな)


 迂闊に口を開くとルール違反になりかねない。

 回答内容の相談がルールで禁止されているからだ。


(正直どっちのチームも興味ない……つーか知らないんだよなぁ)


 とりあえず「イエス」と回答した。

 送信ボタンを押し、「終わったぜ」と告げる。


「私も回答しました」


「私も」


 美咲と由香里が報告する。

 さいごに琴子が「私もです!」と手を挙げた。


「これで全員が回答したな。このあとはどうなるんだ?」


「特に変化ないですが……」


 そんな話をしている時だった。

 俺達のスマホにピコッと何やら表示された。


『イエス・ノー、失敗』


 その下に理由が書いてある。

 どうやら回答の割合が成功条件と合わなかったようだ。

『誰がどちらに投票したのか』や『成功条件』の記載はない。


「琴子、成功条件を教えてくれ」


 と言いつつ、ルール違反があったかの確認ボタンを押す。


『ルールの違反はありませんでした』


 とりあえず先程と同じようにやれば問題ないようだ。


「成功条件ですが、イエスとノーがそれぞれ2人ずつでした!」


「なるほど。ちなみに俺はイエスに入れたぜ」


「私もイエスに入れました」


「私もイエスに入れちゃいました!」


「私も」


「なるほど、イエスが4人だったわけか」


 たしかに成功条件と合っていない。


「残念ですが私は出題者に向いていませんねー!」


 琴子がお手上げのポーズ。


「そうだな。出題者は琴子以外から決める必要がある」


「そうなの? なんで?」と由香里。


「琴子は仲間になって日が浅いから俺達の回答が読めないんだ」


「ですです!」


「あ、そっか」


 出題者は成功条件に合うよう問題を考えなくてはならない。

 そのためには仲間のことを熟知しておく必要がある。


「私も出題者になるのは無理。問題を考える自信がない」


 由香里が言うと、美咲が「私もです」と続いた。


「ここは風斗さんしかいないですね!」


「え、俺が出題者? マジで?」


 女性陣が強く頷く。


「マジかよ。俺、アホだぞ?」


「そんなことありませんよ。それに風斗君は誰よりも皆のことを見ていますから。最も向いていると思いますよ」


「俺は美咲が適任だと思うけどなぁ」


 美咲が「いえ」と首を振る。

 短い言葉だったが、有無を言わせない力強さがあった。


「仕方ないなぁ。失敗しても文句は言うなよ!」


 ということで、出題者は俺に決定。


「風斗さん、練習問題をしますか?」


「いや、流れは把握したし大丈夫だ。それより回答方針を決めよう」


「回答方針? 風斗さんが右手を挙げたらイエスに入れるとかですかな?」


「それはダメだ。ルール違反になる」


「きっとバレませんよ! 口を開かなければ!」


 琴子の口調は自信に満ちていた。

 これまでにも小さなズルをしてきたのだろう。


「そうかもしれないが、危険な橋は渡れない」


「すると……どうすれば!?」


「素直に回答することにしよう。成功条件を深読みするのではなく、自分がイエスと思ったらイエス、ノーと思ったらノーに入れるわけだ」


「どちらとも言えないというか、よく分からない場合はどうすればいいですかな? 実はさっきの野球の問題、私、さっぱり分からなかったんですよー! 野球に興味ないので!」


「なるべく悩まず回答できるような問題を考えるが、もしもイエスでもノーでもないような問題だった場合はイエスに入れてくれ」


「分かりました!」


「美咲と由香里もそれでかまわないか?」


「大丈夫です」


「私もいけるよ、風斗」


「よし、では始めるとしよう」


 出題者を俺に設定し、イエス・ノーの本番を開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る