110 楽勝過ぎるミッション

 扉の向こうは真っ暗な通路になっていた。

 並んで歩ける幅がないので、俺達は一列になって進んだ。


 ほどなくして突き当たりに到着。

 またしても扉があった。


「ここから先がミッションか」


「きっとそうですよ!」と琴子。


「軽くクリアして帰ろうぜ!」


 勢いよく扉を開ける。

 視界に広がったのは――。


「外廊下か」


 巨大な城に沿う形に設置された石造りの廊下だ。

 これまでと違って大人が2~3人並べる広さがある。

 緩やかな曲線を描くように伸びていて終着点が見えない。


「「きゃっ」」


 突風が吹き、琴子と美咲のスカートを捲り上げた。

 最後尾の由香里は被害を受けずに済む。

 素晴らしきかなパンティーが目を喜ばせてくれた。


「ありがとう、風の神」


「風斗さん、今なんと!?」


「ん? 風もそうだが、高さもやばいなって」


 腰の高さにある手すりから見下ろす。

 眼下には森が広がっていて地面が見えない。

 その森ですら離れすぎてボヤけている。


「「「グァアアアアア!」」」


 上空の何もない空間から魔物が現れた。

 大きな翼を生やした人型の悪魔で、鋭い爪と牙が特徴的。

 ガーゴイルだ。


『次のエリアへ到達せよ』


 どこからともなく声が響く。

 機械音声ではなく渋いおっさんの声だった。


「今のはミッション内容か?」


「そうですとも!」


「魔物の殲滅が目的ではないようだし、必要最低限だけ倒して進もう」


 飛行タイプのガーゴイルを殲滅するのは難しい。

 深追いすると外に落ちてしまう。


「フシャアアアアア!」


「風斗は私が守る」


 迫ってきた敵を由香里が射抜く。

 顔面に命中すると即死だった。


「グァァ! ギィイイイ!」


 即死を免れた敵が突っ込んでくる。

 全くもって脅威ではない。


「ふんっ!」


 一刀両断にする。

 ノーマルタイプの徘徊者よりもあっさり斬れた。


「お見事です! 私の出番がありませんよ!」


 と言いつつ、きっちり五秒間隔で弓兵を召喚する琴子。

 弓兵はそれほど強くないが、最低限の仕事はこなしていた。


「本当に出番がないのは私ですね」


 ペコリと頭を下げる美咲。

 敵のことより着慣れない制服が気になっている様子。

 しきりにスカートを確認していた。


「足下がスースーするのか?」


 敵を倒しながら尋ねる。


「はい……。スカートは好きですが、これは……」


 美咲のスカートは丈が短い。

 Bチームの女性陣にそそのかされたからだ。

 由香里と琴子が長めなので尚更に短く見えた。


(俺は短いほうがいいと思うが……)


 チラりと美咲を見る。

 風が吹くまでもなくパンティーが見えそうだ。

 太ももにいたっては完全に見えている。


(もう少し長いほうがいいかもなぁ)


 太ももはチラチラ見えるほうがそそられる。

 そう思ったが、口に出すとヤバい奴なので黙っておいた。


「風斗、楽勝だね」


「由香里のおかげでな」


 このミッションのMVPは間違いなく由香里だ。

 ロボと弓の両方で大きく貢献している。

 殆どの敵を彼女が処理していた。


「あれがゴールだな」


 廊下の終着点が見えてきた。

 またもや扉だ。


「前回のダンジョンでも思ったのですが、ダンジョンってところどころ違和感がありませんか?」


 美咲が言った。


「というと?」


「例えばあの扉、建物の雰囲気に合っていない感じがします」


 ああ、と納得。


「それは俺も感じていたところだ。この建物はどう見ても洋風の古城なのに、さっきから扉だけ現代風で安っぽい」


「AIの描いたイラストみたいですよねー!」


 琴子が違和感の正体を的確に言い表した。


「まさにそれだ! AIイラストって感じ。パッと見は自然なんだけど、よくよく目を凝らすと違和感が目に付くんだ」


「そういった点も含めて私はダンジョンが好きなんですよねー!」


 話していると扉に到着。


「これで最初のミッションは終わりかな?」


 さっそく開けてみる。

 すると、琴子の召喚した弓兵が全て消えた。


 それはつまり――。


「ミッションクリアのようですね!」


 ――ということだ。

 メインスキルはミッション中しか使えない。


「由香里のおかげで楽勝だったな」


「頑張ったよ」と微笑む由香里。


 俺達は扉の向こうに進んだ。

 またしても真っ暗な通路が続き、それから大部屋に着く。


 部屋は俺達に合わせて作られていた。

 人数分のシングルベッドが並んでいてリビングもある。

 一角にはバーカウンターと小さなキッチン。

 他には浴室も備わっていた。


「とりあえずここで休憩だな。Bチームに連絡して状況を確認する」


「了解ですともー!」


 俺はソファに座ってスマホを取り出した。

 ギルド専用のグループチャットでこちらの状況を報告する。


『こっちも到着したよー!』


 すぐに麻衣から返事が届いた。

 彼女のアサルトライフルが大活躍だったそうだ。

 燈花が「ジロウも頑張った!」と補足している。

 その後はグループ通話で話を進めた。


「次のミッションはどうする? すぐに行くか? 休憩を挟む?」


『こっちは余裕だから任せるー!』


 たしかに麻衣の声は元気そのものだ。


「こっちも余裕だし次に進むか」


『了解! じゃ、また次のセーフエリアで!』


「はいよ」


 通話を切って美咲たちを集める。


「おや? スカートの丈が長くなったな」


「流石に短すぎだと思いまして……」


 なぜか「すみません」と謝る美咲。


「いや、いいと思うよ。今の長さのほうが!」


 お世辞ではなく本音だ。


「風斗、次も頑張ろ」


 ロボが無言のガッツポーズ。

 由香里の言葉に反応したようだ。


「次は由香里にばっかりいい格好をさせないぜ!」


「ふふ、楽しみ」


 俺は次のミッションに繋がる扉を開けた。

 するとまたしても真っ暗で狭い通路が――とはならなかった。


 今度の通路は明るくて広い。

 等間隔に吊されているシャンデリアがしっかり働いていた。

 また、床に赤い絨毯が敷いてあって足の負担が軽減されている。


 まるで宮殿や高級ホテルの廊下だ。


「今回は城内を歩かされるようだな」


「雰囲気がいいね」と由香里。


「まぁな。でも、この通路も違和感がある」


「そう? 私には分からないけど」


「周囲を見ても分からないか?」


「うん。正解を教えて」


「一本道ってことさ。これだけ広いと、普通は左右に扉の一つはある」


「あ、本当だ」


「ま、さっさとクリアしたい俺達にとってはありがたいけどね」


 扉がたくさんあるとしらみつぶしに開けていくことになる。

 ゲームならお宝があるかもと胸が躍るけれど、現実は面倒なだけだ。


「さっきと同じならこの先がミッションだな」


 終着点には両開きの大きな扉があった。

 現実ならこの先には謁見の間があるだろう。


「次はどんなミッションでしょうか」


「どう思う? 琴子」


「きっとボス戦ですよー! 思考調査って感じではないですから!」


「それは楽しみだな。室内の戦いなら思う存分に暴れられる」


 俺は右手で刀を持ち、左手で扉を開けた。

 向こうに広がっていたのはイメージ通りの広い空間。

 謁見の間というよりはただの大広間だ。

 言うなれば煌びやかな体育館といったところか。


「ギャーギャッギャッギャ!」


「ウンダァ!」


 前方に二体の敵が現れた。

 どちらも全長三メートルほどの人型。

 片方は牛頭人間ミノタウロスで、もう片方は阿修羅像だ。


「たった二体ってことはボスだな」


 と言った瞬間、アナウンスの声が響いた。


『敵を殲滅せよ!』


 案の定、次のミッションはボスの討伐だ。


「私の予想通りでしたねー!」


「流石だぜ琴子」


「風斗君、作戦はどうしますか?」


「弱そうなミノタウロスから仕留めて、その後に阿修羅だな」


「分かりました」


 俺はメインスキル〈命ある影〉を発動。

 口の悪い分身体が現れた。

 レベルが上がったので4体もいる。


「久しぶりだな! ボケナス!」


分身おれのほうが本体おまえより本体に相応しくねぇ?」


「そうだそうだ!」


「つーか早く戦わせろアホ!」


 数が増えて口の悪さも酷くなっていた。


「お前らの相手は阿修羅だ。足止めしてこい」


「うっせぇ!」


「指図すんじゃねー」


「死ねボケ!」


「ハゲ!」


 なんだかんだ言いながら突撃する分身ども。


「あいつらを黙らせる方法はないのか……」


「いいじゃないですか、私は好きですよ」


「口の悪い風斗もカッコイイかも」


「風斗さんの本性ってあんな感じなんですかねー!」


 驚くことに分身体は女性陣から好評だ。


「やれやれ」


 ため息をついたらミノタウロスとの戦闘を開始。

 結果――。


「ふぅ、話にならんな」


 ――瞬殺だった。


「ほんと風斗さんや皆さんの強さには驚きますよ!」


「俺達はもっと強い敵と戦い続けてきたからな」


 ゼネラル剣士のことだ

 もちろん量産型のザコではなくオリジナルのほう。

 あの華奢なピンク髪の剣士は本当に強かった。


「さて、阿修羅も仕留めて次に進む――って」


「ウンダァ……」


 阿修羅は分身体にやられていた。


「ダンジョンのボスって本当によえーな」


「風斗さんの分身が強すぎるだけですよー!」


「いやいや、俺自身はザコなんだからそれはないだろう」


 分身の強さは本体の能力とレベルで決まる。

 俺の能力はお世辞にも高いとは言いがたい。

 レベルの高さでカバーできたのだろう。


「とりあえず次に進もう。ボス戦はまだ続くかもしれない」


 そう言った次の瞬間――。


『ミッションクリア!』


 なんとザコに毛が生えた程度の敵を倒しただけで終わった。

 口の悪い分身どもが消え、広間の奥に扉が現れた。


「こんなに簡単でいいのか」


「余裕過ぎて不安」


「ですね」と美咲。


「いやー油断は禁物ですよ! 戦闘以外のミッションは激ムズかもですよ!」


「ありえる」


 ミッションには色々な種類がある。

 戦闘、思考調査、クイズ、エトセトラ……。

 頭脳系のミッションはどうなるか分からない。


「ま、ひとまずセーフエリアで休憩だな」


 ということで、俺達は先へ進むのだった。

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