109 一発勝負のダンジョン

 朝食後、俺達は噂のダンジョンに向かった。


 移動はレンタルのマイクロバスで行う。

 人間7人とゴリラ1頭の大所帯でもバスなら快適だ。


「そろそろ到着ですともー!」


 琴子の発言によって麻衣たち女性陣が起きる。

 目的のダンジョンは拠点から車で3時間半の距離にあった。

 かなり遠い。


「美咲、いつも運転してくれてありがとう」


「いえいえ、楽しんでいますのでお気になさらず」


 今回のダンジョンも森の中にあった。

 しかし、前回と違って明らかに異彩を放っている。


 樹齢数千年クラスの巨木が佇んでいるのだ。

 その木の周囲だけ他の木が生えていなかった。

 どう見てもご神木である。


「琴子は前にもここに来たことがあるわけだろ? こんな遠いところまでよく来られたよなー」


「逆ですよ風斗さん! 私のスタート地点はここのほうが近かったのです!」


「なるほど」


 ご神木に近づいて光の玉に触れる。


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【人数】4~10人

【目的】全てのミッションをクリアする

【報酬】???

【条件】なし

【備考】

・このダンジョンは1度しか挑戦できません

・誰か1人でもリタイアした時点で終了となります

・クラス武器及びクラススキルの使用が可能です

・ペットは1頭のみ持ち込むことができます

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 琴子の情報と相違ない。


「緊張してきたっすねー!」


 両手に拳を作る燈花。

 ゴリラのジロウが「ウホゥ!」とドラミング。


「統一感のある格好でチームぽいね!」と麻衣。


 全員が学生服を着ていた。

 何故か美咲も同じ格好だが浮いていない。


「コ、コスプレっぽくありませんか……? 私だけ……」


 恥ずかしそうにこちらを見る美咲。


「むしろ高校生にしか見えないよ」


「美咲って実は高校生なんじゃない?」


 麻衣の言葉に、俺達は声を上げて笑った。


「さて、ダンジョンの攻略を始めるとしようか」


 コクーンの〈ダンジョン〉を開いて参加登録を行う。


「準備はいいな? 転移開始だ!」


 一発勝負のダンジョン攻略が始まった。


 ◇


 今回の転移先は――。


「拠点に戻ってきたみたいっすねー!」


「俺達の部屋より二回りくらい大きいけどな」


 ――洋風の客室だった。

 お高そうな調度品が至る所に置いてある。

 壁には著名なフランス人の画家が描いた有名な絵画がずらり。


「今回はここで戦闘を行うのか?」


「いえ! これは【セーフエリア】ですねー!」


 メガネをクイッとする琴子。


「セーフエリアって?」


「安全地帯のことです! 移動型ダンジョンの場合、こうしてセーフエリアが設けられているのです! この中だと敵は襲ってきません!」


「移動型ダンジョン? なんか昨日の夕食時に聞いた単語だな」


「ダンジョンにはその場に留まるタイプと移動するタイプがあるんすよー!」


「燈花さんの言う通りです!」


「セーフエリアにいる間は準備タイムと同じ感覚で過ごせるわけか」


「そうですとも! そうですとも!」


「よく分かった」


「じゃ、チーム分けをしよー!」


 麻衣が手を叩いて注目を集める。

 彼女は部屋の奥に立っていた。

 傍に木の立て看板があり、左右には扉がある。


「チーム分けって何だ?」


「この看板に書いているよ、チームを分けろって」


「ほう」


 俺達は看板に目を通した。


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 ①チームをAとBの二つに分けてください。

 各チーム最低二人以上でなければ失格となります。


 ②Aチームは左の扉、Bチームは右の扉に進んでください。

 進むとミッションが始まります。

 ミッションの難易度はどちらの扉も同じです。

 両チームがミッションを攻略すると次に進めます。

 片方のチームがミッションに失敗すると、もう一方も失敗になります。


 ③ミッション中、相手チームに連絡することはできません。

 ただし、各ミッションの前にあるセーフエリアでは可能です。

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「戦力を分散して同じ難易度のミッションを進めるのか」


 悩ましい問題だ。

 単純に戦闘力だけでチームを分けていいか悩む。


 燈花曰く、ミッションには頭の良さを問うタイプも存在している。

 といっても学力的な意味ではなく、クイズやなぞなぞといった類だ。

 このダンジョンにそういうミッションがあるかは分からないが。


「クイズに自信がある人は?」


「はいはーい! 得意っすよー!」


「私も自信あるよー!」


「同じくです!」


 燈花、麻衣、琴子が手を挙げた。

 なぜかジロウも「ウホイ!」と挙手している。


「よし、ならAチームは俺と美咲、由香里と琴子の四人でいいな」


「私と燈花、涼子とジロウがBチームってことね?」と麻衣。


「戦闘力が同じくらいで、且つ頭を使うタイプのミッションにも対応できるよう意識した」


「漆田少年と違うチームなのは残念だが……まぁいいだろう! Bチームはお姉さんに任せておきたまえ!」


「頼もしいな涼子! だが、Bチームの指揮は麻衣に執ってもらうぜ!」


「なんだってー! お姉さんより麻衣タローのほうが頼れるというのか少年!」


「こう見えて誰よりも風斗に信頼されているのですよ私は!」


 ふははは、と高笑いを決める麻衣。


「麻衣は機転が利くし鋭い勘をしているからな。何かあっても閃きで乗り切ってくれるだろうと判断した」


「くぅー! おのれ麻衣タロー!」


 涼子は麻衣を押し倒し、ジャイアントスイングで投げ飛ばした。

 相変わらず滅茶苦茶な女だ。


「異論がないようならミッションを始めようと思うが……どうかな?」


「大丈夫っすよー!」


「私も問題ありません」


「風斗は私が守る」


「楽しみですねー! 楽しみですとも!」


「お姉さんもダイジョーブ!」


「私は涼子に投げ飛ばされて全身を強打したけど……たぶん問題なし!」


 異論は出なかった。


「オーケー、では次のセーフエリアで話そう! またな!」


 麻衣たちBチームに別れを告げ、俺は左の扉を開けた。

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