108 日替わりアンケート

 ぞろぞろと現れた約100体のゼネラル剣士。


「1体でさえヤベー奴が100体って何かの冗談かよ!?」


「漆田少年、これはさすがにまずいのでは!」


「ああ、絶望的だ! 撤退しよう!」


 相手のことはよく知っている。

 こちらが逃げに徹したら攻めてこない。

 ――はずだった。


「追いかけてくるぞ!」


 今までなら見逃してくれたのに、今日は追いかけてくる。


「「「グォオオオオオオオオオ!」」」


 側面から他の徘徊者も迫ってきた。


「え!? なんでザコがいるんだ!?」


 これも異常事態だ。

 今までゼネラルが現れたらザコは消えていた。


 しかし、この点についてはさほど驚かない。

 かつて倒した黒騎士タイプとの戦いでもザコがいたからだ。


「漆田少年、今日の私はアレが使えるぞ!」


 走りながらニヤリと笑う涼子。


「すまん、アレが何か分からないのだが」


「またまたぁ! 本当は分かっているくせに!」


「いや本当に分からないが……まぁいい、アレを使うぞ!」


 とりあえず涼子のアレとやらに賭けてみよう。

 出たとこ勝負だがどうにかなるだろう。

 いざとなれば〈魂の暴走〉でどうとでもなる。


「では私が合図したら敵に突っ込んでくれたまえ!」


「敵に突っ込む? まぁいいだろう」


「今だ! 突っ込め少年!」


「せめてカウントダウンをしろ!」


 俺は踵を返して敵に突っ込んだ。

 〈オートシールド〉の盾に守れているが、それでも緊張感が増す。


「照準を漆田少年に定めて……うりゃー!」


 涼子はロケランを再召喚し、俺に向かってメインスキルを発動。

 彼女の言うアレとは〈ドッカンバズーカ〉のことだった。


 ドガァアアアアアアアアン!


 強烈な爆音が轟き、俺の周囲が爆発に飲み込まれる。

 爆風によって砂煙が盛大に舞った。


「今の内に逃げるぞ少年!」


 涼子が砂煙に向かって叫ぶ。

 しかし、そこに俺はいない。


 俺がいるのは――美咲の隣。

 付近には涼子以外の女性陣もいた。


「涼子、俺はこっちだぞ! 走れ!」


「なっ……! 漆田少年、いつの間に!?」


「美咲が〈コール〉で引っ張ってくれたのさ」


「私だけ逃げ遅れている!? こりゃまずい!」


 涼子はロケランを捨ててこちらに走る。


「早く来るっすよー!」


 燈花が手招きする。

 俺達も早く早くと涼子を急かす。

 だが――。


「待て、涼子! 止まれ!」


「むぉ!? どうした漆田少年!」


「相手の様子がおかしいぞ」


 砂埃が落ち着いたことで分かった。

 ゼネラル剣士の数がごっそり減っている。


「もしかしてお姉さん、敵をやっつけちゃった感じ!?」


「たぶんそうだろう」


「すごっ! 涼子すごすぎっす!」


「すごいです! 涼子さん!」


 皆が「すごい」と褒めちぎる。

 涼子は両脇に手を当て、「ふはは!」と胸を張った。


「でもなんで倒せたの!? 今までノーダメだったのに!」


「さぁ、何でだろうな。数が増えたことで単体の性能が落ちたのか?」


 ピンク髪のゼネラル剣士は防御性能に秀でていた。

 何度となく戦ってきたが、俺達の攻撃はいつも通じなかった。

 防がれるか、もしくはかわされる。

 奇跡的に命中しても甲冑はピカピカのままだった。

 それは涼子の〈ドッカンバズーカ〉でも変わらない。


「今回は勝てるかも」


 由香里が呟いた。


「たしかに今回は勝てるかもしらん! 逃げずに戦ってみよう!」


「「「了解!」」」


 〈ドッカンバズーカ〉が通用したので作戦変更。

 俺達は残り数十体のゼネラル剣士と戦うことにした。


「念のためいつでも逃げられるようにしておけよ!」


 そう言い残して突撃。

 涼子とともにゼネラルの群れに近接戦を挑む。


「…………!」


 敵が何も言わずに斬りかかってきた。


「おいおい、なんだよこの攻撃」


 これまでに比べてあまりにもお粗末な太刀筋だ。

 俺ですら余裕で回避できた。


「うおりゃ!」


 死角から涼子が薙刀で攻撃。

 するとこれがあっさり命中して敵は死亡した。


「ありゃ!? 倒しちゃった!?」


 仕留めた涼子自身が驚いている。


「ブゥウウウウウ!」


 ガッシャーン!

 タロウが横から突っ込んだ。

 吹き飛ばされた数体のゼネラルはこれまた死亡。


「ザコに毛が生えた程度の強さしかないぞ……」


「つまりザコってことだ! 漆田少年、これは勝てるぞ!」


「おうよ!」


 その後も大きな問題は起きなかった。

 見かけ倒しのゼネラル剣士を皆殺しにしていく。


「これでラストだ!」


 あっさり最後のゼネラルも倒した。

 他のザコと違って新手が補充されることはなかった。


「楽勝だったなぁ、漆田少年!」


「ああ、そうだな」


 時刻は2時50分。

 もうじき防壁が発生する。


「そろそろ撤退して門を閉じよう」


殿しんがりはアーチャーにお任せください!」


「頼もしいぜ! ナイスだ琴子!」


 琴子は南門の前に弓兵を集めていた。

 5秒間隔で召喚し続けていただけあって約600体もいる。

 単体性能は決して高くないが、数が多いので問題ない。


「やっぱり戦いは数っすね! 頼もしいっすよアーチャー!」


 弓兵のおかげで楽に撤退できた。

 いつも囮になって破壊されるロボも今回は無事だ。


「この後はどうするのですかな?」


 門が閉まると琴子が尋ねてきた。


「城に戻って自由に過ごすよ。スマホを使えばどこからでも外の様子が確認できるから」


「なんと!? そんなことが可能なのですか!?」


「麻衣が城壁にカメラを設置してくれたからね」


「おー! ハイテクですね! 流石はインフルエンサー!」


 麻衣は「ふふーん」とドヤ顔。

 そんなこんなで、俺達は城に戻った。


 ◇


 防壁の発生以降は平和だった。

 念のために待機していたが、何の問題もなく4時を迎える。

 徘徊者戦が終わったら〈履歴〉を確認した。


 今日倒したゼネラル剣士は量産型らしい。

 ゼネラルではなくエリートタイプだと判明した。

 そら弱いわけだ。


 今まで戦ってきた剣士がオリジナルなのだろう。

 あいつはゼネラルタイプで間違いない。

 異様な強さだし、なにより〈ゼネラル探知〉で検出されていた。


 俺たちは〈ゼネラル探知〉を覚えることにした。

 〈徘徊者特攻〉と違って全員で覚える必要はない。

 誰か一人、アビリティポイントに余裕のある者に取ってもらう。


 話し合いの結果、その一人は涼子に決まった。

 既に〈徘徊者特攻〉を覚えていて、もうすぐレベル40になるからだ。

 アビリティ制になったことでレベルがぐんぐん上がる。


 涼子のレベルは今日だけで34から38に上がっていた。

 この調子なら明日には〈ゼネラル探知〉を習得できるだろう。


 ◇


 8月12日、金曜日。

 転移31日目の今日、朝食の最中に全員のスマホが鳴った。

 Xからの通知だ。


『日替わりアンケート実装のお知らせ』


 内容はタイトルの通りだ。

 コクーンに〈アンケート〉という項目が追加された。

 そこから毎日1回、アンケートに答えることができる。


 アンケートは記述式で、数分もあれば回答できるらしい。

 協力するかどうかは任意だが、おそらくみんな協力するだろう。

 報酬として10万ポイント貰えるからだ。


 ただし、ふざけた回答の場合は報酬がカットされる。

 ふざけた回答の基準が分からないので真面目に答えるしかない。


「真面目な回答じゃないとダメってのはダンジョンの思考調査と同じだな」


「ですねー!」と琴子。


 俺達はさっそくアンケートに答えてみた。


=======================================

 あなたは以下の内どちらか一方のみ救えます。

 救われなかったほうは死にます。

 どちらを救いますか?

 A.数人の大事な家族

 B.1000万人の見ず知らずの人間

=======================================


「家族か知らない1000万人のどっちを救うかって問題だけど、みんなも同じ?」


「私もです」


「お姉さんもその問題だー!」


「私もっすー!」


 どうやら出題内容は同じようだ。


(こんなの答えは決まっているだろ)


 俺は悩むことなくAを選択。

 選択ボックスの下にある理由の記入欄をタップ。


=======================================

 大事な家族を見捨ててまで知らない奴等を助けようとは思わない。

=======================================


 入力が終わったら送信ボタンを押す。


『アンケートにご協力いただきありがとうございました』


 たった一問で終了した。

 通知文に書いていた通り10万ptが支払われる。


「こんな簡単な回答で10万も貰えるなんて最高っすねー!」


「たしかにそうだな。でも、Xの考えが全く読めないな」


「Xはいつも謎じゃないっすか!」


「そうなんだけどさ、不思議に感じないか? ダンジョンの思考調査もそうだが、Xは明らかに人間の考え方を知りたがっている」


「それの何が不思議なんすか?」


「知りたいなら勝手に知ればいいじゃないか。クラススキルなんて念じるだけで発動できるんだぜ? 集団転移やら何やらできるくらいだから、その気になれば俺達の思考なんてちゃちゃっと読み取れるんじゃないか?」


「言われてみればそうっすねー。でもでも、そこは何かあるんじゃないっすか? ちゃちゃっとは読み取れない何かが!」


「ま、何だっていいか」


「そっすよ! 考えたところで答えなんて出ないし! それよりこの後のことを考えようっすよ!」


「この後のこと? ああ、ダンジョンか」


「そうそう! 超難度のダンジョン! 今から楽しみっすよー!」


「たしかになぁ」


 俺達はまだ見ぬダンジョンに想いを馳せた。

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