106 大事な話
ダンジョンの攻略が終わると森に戻った。
戻り方は自動的に転移するまで待機するか、コクーンで直ちに飛ぶかの二択。
今回は前者だ。
時間経過に身を委ねて駄弁っていた。
「いかがでしたかな? 初のダンジョン攻略は!」
琴子が尋ねてきた。
小さな体を左右に振って嬉しそうだ。
「報酬がメインなんだな、という印象を受けた」
「私もです」と美咲。
「ほほう! 報酬以外はご不満でしたかな!?」
「そうでもないけど、ちょっとポイントの獲得量がな」
「ですねー」
「えええ! あれだけ稼いで物足りないのですか!?」
「いやぁ、流石に少なすぎる」
ダンジョンの敵を倒すことで討伐報酬を獲得した。
――が、三人合わせてもたった45万ptぽっちだ。
「一人約15万ですよ!? 過去最高ですよこの稼ぎ!」
「琴子にとってはそうかもしれないが、俺達にとってはこの一週間の中で最低と断言できる少なさだからな」
「なんですとー!」
「でも報酬はありがたかったですよね」
「うむ」
「すると風斗さんと美咲さんはダンジョンがお気に召したわけですかな?」
「ああ、今後も挑戦したいな」
「私も色々なダンジョンに行ってみたいと思いました!」
「素晴らしい! またご一緒しましょう! 面白いダンジョン、たくさん知っていますよ!」
ダンジョンは何度も攻略することが可能だ。
しかし、二度目以降の攻略報酬はポイントになる。
報酬にはレベル補正が掛からないので微妙な額だ。
そうした事情から、ダンジョンは金策の対象にはなり得ないと思う。
ただし、初回攻略報酬を狙って各地のダンジョンを巡るのは有りだ。
「では拠点に戻るとしよう、案内するよ」
「ありがとうございます!」
琴子をギルドに加えて三人で帰還した。
◇
今日の夕食はダンジョンの話で盛り上がった。
特に食いついたのは、ゲームが大好きな麻衣と燈花だ。
「思考調査めっちゃ面白そうじゃん!」
「私もやってみたいっす! 話している最中にボブのカウボーイハットを奪ってみたいっす!」
「ダメですよー! NPCに手を出したら攻撃と見なされて失格になります!」
「えー、帽子をちょっと借りるだけでもダメっすか!?」
「たぶん厳しいと思いますよ!」
「Xはケチっすねー!」
その後もダンジョンに関する質問が飛び交う。
琴子は嬉しそうに答えつつ、隙を見て料理を食べて歓喜する。
「美咲さんの料理すごく美味しいです! もう舌が肥えて〈ショップ〉の食べ物じゃやっていけません! それに何だか力も漲ってきます!」
「ありがとうございます。力が漲ってくるのはアビリティの効果ですね」
「まさに料理のプロですね!」
話が落ち着いたのもあって、琴子は無心で料理を堪能している。
「そうそう! 風斗、レベル50になったっすよー!」
「おお! アビリティを習得できるじゃないか」
「そうなんっすよー! 何か必要なアビリティあるっすか?」
「んー、特にないかな」
「なら〈ペット強化③〉を覚えるっす!」
「タロウたちがますます強くなるのか、やべーな」
燈花の傍で食事中のタロウが「ブゥ!」と鳴いた。
高い音なので喜んでいるようだ。
ジロウも「ウホホイ!」と両手で胸を叩く。
ドラミングと呼ばれる行動だ。
「風斗、私もアビリティを習得できるよ」
由香里だ。
彼女のレベルは39から41に上がっていた。
「由香里は何か覚えたいアビリティあるのか?」
「料理関係が覚えたい。〈料理強化〉とか」
「なら遠慮なく取ってくれ」
「分かった」
由香里はスマホを取り出し、さっそくアビリティを習得。
それから美咲に言った。
「今度また料理を教えてください、美咲さん」
「はい、喜んで」
その後も楽しい食事の時間が進み――。
「「「ごちそうさまでした!」」」
今日の夕飯も大満足で終了。
「風斗さん! ご提案よろしいですかな!?」
琴子が右手を挙げて立ち上がった。
黒の三つ編みがさざ波のように小さく揺れた。
「おう、じゃんじゃん提案してくれ」
「それでは! 明日、皆でダンジョンに行きませんか!」
「行くぅー! 行く行く!」
真っ先に答えたのは麻衣だ。
「金銭的な余裕があるので行くのはかまわないが、全員で参加できるダンジョンなんて存在するのか?」
「大丈夫です! ただ、ペットは1頭のみだったと思います!」
「ならジロウを同伴させるっす!」
「特に問題がないようなら行ってみるか。どんなダンジョンなんだ?」
「それが私も初挑戦なので分かりません! でも、絶対にかつてない難易度だと思いますよ! 他とは雰囲気が違うのです!」
「かつてないって言われても俺達は今日のダンジョンしか知らないからなぁ」
ちなみに、今日のダンジョンは琴子曰く「難しいほう」らしい。
あれほど簡単だったのに。
「他とは雰囲気が違うってどういうこと?」
尋ねたのは麻衣だ。
「なんと報酬が不明なのです!」
「不明だと?」
「何故か『???』になっています! しかも、他のダンジョンと違って一度しか挑戦できません! 成功しても失敗しても次はありません!」
「そう聞くと高難度に感じるな」
「私はこのダンジョンの報酬が『帰還の権利』の可能性もあると思っています!」
「「「――!」」」
ざわつく女性陣。
「流石にそれはないと思うけどな」
これは俺の意見だ。
もし帰還の権利だったら、Xは「?」で隠さないはず。
逆に全員のスマホに通知を出して挑ませるだろう。
ギルドクエストのように。
とはいえ、謎の報酬というのは気になるところだ。
「何だっていいっすよ! とりあえず明日はダンジョン攻略っす!」
燈花の言葉に、「だな」と頷いた。
「話はまとまったな! さぁ漆田少年、お風呂に入ろうぞ!」
「ああ、そうだな」
俺と涼子は席を立ち、大浴場へ向かおうとする。
「待って、私も行く」と由香里。
「お、由香里、今日こそ裸の付き合いに乱入するのかい? お姉さんは歓迎だぞ!」
「私は水着」
「くぅ! 由香里は恥ずかしがりだなぁ! 脱いだほうが漆田少年は喜ぶぞ!」
「だって恥ずかしい……」
「乙女だなぁ、由香里は! では今日も三人で楽しもうぞ!」
「何か当たり前のように話が進んでいるのですが、このギルドでは混浴が一般的なのですかな?」
琴子は「嘘でしょ」と言いたげな顔で驚いていた。
「いやいや、普通は男女で別だよ。でも涼子は変態で由香里は風斗が大好きだからね」
「すかしているけど麻衣だって風斗のことが大好きなんすよー!」
「う、うるさい! 茶化すなー!」
なっはっはと笑う燈花。
琴子も「なるほど」と笑みを浮かべた。
「風斗さんは人気者なわけですね! でも、女子の裸を見て何も思わないのですかな?」
「最初は色々と思うところがあったよ。でももう慣れたさ」
「やいやい! 話はもういいだろう! お姉さんは体がベトついていて辛いのだ! 漆田少年、早く行こう! さぁ!」
涼子が背後から抱きついてきて、そのまま食堂の外へ押す。
「あ、待って、風斗」
いよいよ食堂を出ようかというところで麻衣に呼び止められた。
「ん?」
「大事な話があるからお風呂の後は空けておいてもらえる?」
「お! ついに愛の告白っすか!」
「お姉さんは応援しているぞ麻衣タロー!」
ニヤニヤする燈花と涼子。
「それならよかったんだけど、真面目な話なんだよね」
麻衣は真剣な表情で言った。
それで燈花たちの顔から笑みが消える。
「今じゃなくても平気かい?」
尋ねたのは涼子だ。
麻衣が真剣なので彼女も真顔で話している。
「ううん、落ち着いてから話したいし後がいいかな」
「了解! では漆田少年、今日もお姉さんの体を隅々まで洗ってくれたまえ! それはもう舐め回すように全身くまなく洗ってくれたまえ! 丁寧に頼むよ!」
「いや自分で洗えよ!」
俺は振り返り、麻衣に「またあとで」と言って大浴場に向かった。
◇
入浴タイムが終わり、夜になった。
徘徊者戦に備えて大半が眠りについている。
『いつでもいいよ』
俺は麻衣に個別チャットを飛ばして部屋で待機。
横になると寝そうなので、部屋の中を意味も無く歩き回った。
数分後、扉がノックされた。
「遅くなってごめん」
麻衣だ。
「大丈夫だ。中で話すか?」
「うん」
麻衣を部屋に入れた。
滅多に使わない革張りのソファに座らせる。
俺自身は麻衣の向かいに置いたスツールに腰を下ろした。
「で、大事な話ってなんだ?」
「実は……」
麻衣は神妙な顔でスマホを取り出した。
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