105 思考調査
「さぁ邪魔者は消えた。不倫について話してもらおうかボブ!」
「ジョナサン……! お前……!」
ジョナサンとボブが再登場し、何食わぬ顔で話を再開する。
どうやらボブはジョナサンの妻キャスリーンと不倫しているようだ。
意味不明だが、琴子は真剣な顔で二人の会話を聞いている。
「NPCの会話って何か意味あるの?」
「ありますとも! おそらく次のミッションは『思考調査』ですよ!」
「思考調査?」
「とにかく集中です!」
きつい口調で言われたので「分かった」と口をつぐむ。
「たしかに俺は不倫している。相手はキャスリーンで間違いない」
ボブはあっさり不倫を認めた。
しかし、彼の言葉には続きがあった。
「だがな! それはお前が悪いんだぜぇ! ジョナサン!」
「なんだと? 俺が悪いってどういうことだ!」
「元はと言えばお前が俺のピーチと不倫したのがきっかけだろうが!」
「お前、どうしてそれを……!」
驚愕するジョナサン。
なんとこの男、ボブの妻と不倫していたのだ。
「お前がピーチとよろしくしなけりゃ、俺だってキャスリーンに手を出していねぇんだよ! 全てはお前が悪い! お前が先に手を出したんだ!」
反転攻勢に打って出るボブ。
しかし、ジョナサンは怯まなかった。
「俺がピーチに手を出したのはお前の親が原因だ、ボブ」
「ウチのママとパパがどうしたっていうんだ」
「お前のパパが俺のママに手を出してんだよ!」
「なんだと!?」
「最初のきっかけはお前だ!」
「それを言うならお前のパパだってウチのママに手を出しているだろ!」
二人の言い合いはひたすらこの調子だった。
両親も互いに不倫し合い、さらには祖父母の代にも及ぶ。
それも過ぎるとさらに曾祖父母、高祖父母と進んでいく。
「なぁ、本当にこんな会話が大事なのか?」
改めて疑問を呈した時だった。
『ミッション2! ジョナサンとボブ、悪いのはどちらか。話し合って決めよ!』
新たなミッションが発令される。
同時にボブとジョナサンが消えた。
「やっぱり思考調査だったー!」
琴子は「だと思ったのですよぉ!」とドヤ顔。
俺と美咲は今ひとつ理解できずにいた。
「思考調査っていったい何なんだ?」
「そのままですとも! 先程の二人の会話を聞いてどちらが悪いかを決めるんです! 決めたらスマホで入力します!」
「正解はあるのか?」
「どちらでも正解です! ボブを選んでも! ジョナサンを選んでも!」
「なんだそりゃ」
俺はスマホを取り出した。
〈ミッション〉から専用の回答欄を開く。
驚くことに選んだ理由を記載する必要があった。
「どっちを選んでも正解なら何でもいいだろう」
ということで名前の短いボブを悪者にする。
理由の欄には「なんとなく」と書いた。
「これで完了っと」
「待ってください! ダメですよそれ!」
琴子が慌てて止めてきた。
「なんでダメなんだ?」
「真面目に考えないと失敗になるんです!」
「マジか」
「マジですとも! ふざけた理由だとどちらを選んでも不正解です! あと、どちらが悪いかを問われているので『どちらも悪い』と答えても不正解になります!」
「それで真剣に話を聞いていたのか」
「そうですとも! あとあと、ミッション内容に『話し合って決めろ』とあるので、三人で話し合って決めましょう!」
「分かった」
年季の入った木製のテーブルを囲む俺達。
「風斗さんはボブとジョナサンのどちらが悪いと思いますかな?」
「二人の内、相手の妻に手を出したのってどっちだっけ?」
「ジョナサンです」と美咲が答えた。
「ジョナサンがボブの妻ピーチに手を出して、その報復としてボブはジョナサンの妻キャスリンに手を出しました。しかし、ジョナサンがピーチに手を出したのはボブの親が……といった具合に続いていきます!」
「なら悪いのはジョナサンだろう」
「でも親やその上の代に遡っていくと、先に手を出したのはボブのご先祖様になりますよ? ジョナサンからすれば親の仇討ちみたいなものではないですかな!?」
「親やその上の代のことまで考え出したらきりがない。ご先祖様の業も背負う必要があるとなったら、ほぼ全ての人間が誰かしらに報復されちまうぜ」
「私も風斗君と同意見です。どこかで区切る必要があると思います。そしてその区切りは当事者同士、つまりボブとジョナサンの代が適切かと」
「そう考えると、先に手を出したのはジョナサンになる。だから俺はジョナサンが悪いと思うぜ」
「私もです」
俺と美咲はジョナサンが悪いという考えで一致。
一方、琴子は――。
「私も同意見ですとも! 理由も全く同じです!」
俺達と同意見だった。
「なら悪いのはジョナサンということでいいか」
「はい!」
「ですです!」
俺達はジョナサンを悪として回答。
理由も先程の話し合いで決まったものにした。
『ミッション2、クリア!』
あっさり突破できた。
「たぶん次が最終ミッションですよ!」
準備タイムに入るなり琴子が言う。
「どうして分かるんだ?」
「経験則です! 今までどれだけ長いミッションでも第3ラウンドが最終でしたので!」
「なるほど。特に疲れていないしサクッと始めるか」
「念のために罠を仕掛けておきますので少々お待ちを!」
「また戦闘をする可能性があるわけだな」
「はい! 今回の場合だと悪者認定されたジョナサンが逆上して襲ってくる……という設定ですかな!」
罠の設置が終わって次のミッションを始める。
これまでと違い、今度は初っ端から機械音声が響いた。
『最終ミッション! 怒れるジョナサン軍を殲滅せよ!』
琴子の読み通りだ。
「「「グォオオオオオオオオオオオオ!」」」
大量の魔物が酒場に突っ込んできた。
壁を突き破って四方八方から襲ってくる。
「うひゃー! なんですかこの数! 過去最大級の難易度!」
琴子は嬉しそうな顔で悲鳴を上げる。
「ようやくちょっとは楽しめそうだぜ」
俺はサブスキル〈挑発〉を発動。
敵の狙いを俺に集中させる。
「美咲、ぶちかましてやれ!」
「お任せください!」
美咲はロッドを掲げた。
ドガァァァン!
上空より降り注いだ隕石が酒場をすり抜けて俺に直撃。
爆発を起こして周囲の魔物を灰にした。
「やってくれるじゃぁねえかー!」
ザコが消滅するとボスが登場。
二刀流スタイルのジョナサンだ。
カウボーイハットの代わりに海賊帽子を被っている。
もはやカウボーイ要素が何も残っていなかった。
「勝負だ! ボブの仲間たち!」
「ああ、やってやろうじゃねぇか!」
「風斗さん気をつけてください! ボスはただならぬ強さで――」
「くらいやがれ! 〈斬撃波〉!」
「グオォオオオオオオオオ……!」
ジョナサンはメインスキル〈斬撃波〉で瞬殺だった。
胴体を横にスパッと斬られて死亡。
ゲームならここから第二形態・最終形態と続く。
進化するたびに見た目が魔物ぽくなっていくものだ。
しかし――。
『最終ミッション、クリア!』
現実はあっさり終了した。
「これで終わりか、あっけないな」
「風斗君、もう報酬が入っていますよ!」
「本当だ! サブスキルのセット枠が増えているぞ!」
俺と美咲は報酬に大興奮。
その時、琴子は――。
「あれだけの敵を軽々と! しかもボスまで瞬殺とは! 凄すぎです!」
――えらく驚いていた。
ザコを軽く蹴散らしただけなのに大袈裟な奴だ。
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