103 ダンジョン

=======================================

【名 前】漆田 風斗

【レベル】41

【クラス】刀

【アビリティ】

・製作物管理

・魚群探知

・船大工

・ダンジョン探知

=======================================


「〈船大工〉ってのは船の購入・拡張費用が安くなる効果のことで――」


「それより〈ダンジョン探知〉でしょ! 注目する点は!」


 麻衣に言葉を遮られてしまう。

 彼女が指摘した〈ダンジョン探知〉こそ、俺が悩んだ末に習得したものだ。


「効果は名前の通り〈地図〉にダンジョンが表示されるものだ」


「ダンジョンって何すかー?」


「私も知らない。ダンジョンってなに?」


 燈花と由香里が首を傾げる。

 美咲と涼子も分かっていない様子。


「ダンジョン……なんか聞き覚えあるなぁ」


 麻衣は必死に思いだそうとしている。

 少し待ったが進展がなかったので教えた。


「この島にはダンジョンが存在しているんだよ。クエストみたいなものだ。詳しいことはよく分からないけど、受けると専用のフィールドに転移されるらしい」


「あー、なんかそんな話をグルチャで見たことあるかも!」


「だろ? 俺もこのアビリティを見つけるまで忘れていたよ」


 ダンジョンの話は転移初日に上がっていた。

 しかし、続報がなくてすっかり忘れていた。


「漆田少年はダンジョンを攻略しようと考えたわけだ!」


「できればそうだな。攻略せずともどんなものか把握しておきたい。もしかしたら漁より効率よく稼げるかもしれないし、日本に戻る手がかりが見つかる可能性もある」


 テーブルに置かれたスマホを手に取り〈地図〉を開く。


 ダンジョンは思ったよりもたくさんあった。

 この近くにも何件か点在している。


「ダンジョンの攻略に挑むのは明日以降として、今日はどんなものか偵察に行きたい。美咲、このあと車で運んでもらえるか?」


「お任せ下さい!」


「ありがとう。他の四人は適当に作業を頼む」


「私、漁をしたい」


 真っ先に由香里が挙手した。


「じゃ、私が同行するよー! 〈魚群探知〉と料理でサポートできるし!」


 ふふん、と誇らしげな麻衣。


「えー」と、眉間に皺を寄せる由香里。


「えーってなによ! えーって!」


「私は狩りに行くっす!」


「ならお姉さんも狩りだ! 由香里、ルーシーちゃんを私のサポートにつけてくれたまえ!」


「うん、いいよ」


 あっという間に皆の分担が決まり、本日の作業が始まった。


 ◇


 最寄りのダンジョンは車で約20分の距離にある。

 そこへ向かう道中、俺はグループチャットで皆の反応を確認していた。


「美咲、びっくりすることが分かったぜ」


「どうしたのですか?」


 美咲は前を向いたまま言った。


「ステータスの新しい仕様だが、他所では大絶賛の嵐だ」


「え、本当ですか?」


「びっくりするよな」


 美咲は「はい」と頷いた。


「アビリティの数が減るのにどうしてですか?」


「他所の連中にとってはメリットのほうが大きいんだ」


「といいますと?」


「ポイントの獲得効率が大幅に上がったことで喜んでいる。俺達は頭数が少ないから【戦士】と近いレベルのスキルが一つはあっただろ? 俺なら【漁師】で美咲なら【料理人】がそうだ」


「はい」


「でも、他所では【戦士】のレベルだけが飛び抜けていたんだ」


 他のギルドでは、俺達ほど金策に励んでいない。

 人数が多いので頑張る必要がないのだ。

 そのため俺達に比べてスキルレベルが低かった。


「すると、今回の仕様変更は私たちだけ残念な結果だったと……」


「そういうことになる。少数精鋭だからこそ割を食った」


「残念ですね」


「ま、ダンジョン次第だな。もしダンジョンが当たりなら、俺達だって今回の仕様変更を喜ぶ立場になる。仕様変更がなければ〈ダンジョン探知〉を使うことはなく、ダンジョンに行くこともなかったわけだし」


「たしかに」


 改めて〈地図〉を確認。

 いよいよダンジョンがすぐ傍に迫っていた。


「見た感じただの森だな」


「ですねー……」


 周囲には背の高い木々が乱立しているだけだ。

 この島では見慣れ風景。


「ここから数百メートル先のようだが、これ以上は車だと進めないな」


「歩きますか」


「そうしよう」


 〈地図〉を頼りにダンジョンを目指す。


「この島の森って快適だけど不気味だよなぁ」


「風が吹かないと本当に静まり返っていますよね」


「そうそう。で、今は風が吹いていない」


 森の中は完全な静寂に包まれていた。

 ノイズキャンセリングヘッドホンを着けている時よりも静かだ。

 俺達が歩くたびに落ち葉を蹴散らす音が響いていた。


「そろそろ着くぞ」


 いよいよゴールが見えてきた。

 まるで代わり映えしないが、それでも目的地だと分かる。


 光の玉が浮かんでいたからだ。

 ギルドクエストの時にも同じような球体を見た。


「ん? 誰かいるぞ」


「本当ですね」


 光の玉の傍に女が立っていた。

 肩に掛かる黒の三つ編みで、背は美咲と同じくらい低い。

 ただし胸は美咲と違って小さく、顔付きからすると生徒だろう。

 迷彩柄のサファリハットを被り、メガネを掛けている。

 格好は上がウインドブレーカーで、下が深緑色のロングスカート。


 一見すると大人しそうな雰囲気を感じる。

 ――が、それは間違いで、絶対に豊かな個性を持っている。

 こんな場所に一人でいるなど相当な変わり者だ。


「うおおおおおお! 人! 人ではありませんかー!」


 女は俺達に気づくと叫んだ。


「しかも二人じゃないですか! なんという僥倖ぎようこうですかこれは!」


 駆け寄ってくる女。

 この時点で俺は確信した。

 絶対にこいつは変人だ。


「こんにちは! お二人は同じギルドに所属していますかな!?」


 物怖じすることなく尋ねてくる。


「あ、ああ。俺達は同じギルドだよ」


「やったああああ! その言葉を待っていました! ありがとうございます!」


 大喜びの女。

 俺と美咲は意味が分からず困惑している。


「私、一年のなることです! お気軽に琴子とお呼びください! ではダンジョンに行きましょう!」


 凄まじい勢いだ。


「待ってくれ。何がどうなっているんだ? 何で俺達が君と一緒にダンジョンへ行く必要がある? 落ち着いて教えてくれ」


「これは失礼しました! お二方は今日が初ダンジョンだったのですね! ではお答えいたしましょう!」


 と言った瞬間、琴子は「いや!」と首を振った。


「やっぱり見ていただきましょう! 百聞は一見にしかずです! ささ、あそこの球体に触れてダンジョンクエストを発生させてください!」


「ダンジョンクエスト……? まぁいい、触ってみるか」


 俺達は琴子に従って光の玉に触れた。

 するとスマホが鳴り、琴子の言う「ダンジョンクエスト」が表示された。


=======================================

【人数】2~3人

【目的】全てのミッションをクリアする

【報酬】サブスキルセット枠 +1

【条件】2つ以上のギルドで参加すること

【備考】

・クラス武器及びクラススキルの使用が可能です

・ペットの持ち込みはできません

=======================================


 どうして琴子が喜んでいたのか分かった。


「ダンジョンって細かい決まりがあるんだな」


「そうなんですよ、そうなんですとも! ここのダンジョンは最大三人までで、しかも複数のギルドが協力する必要があります! これはなかなかに難しい条件ですねー、はい!」


 見た目に反してハイテンションな琴子。


「その口ぶりからすると、琴子はダンジョンを攻略した経験があるのかな?」


「いかにも! この島に転移してから今日に至るまで、ほぼ毎日休むことなくダンジョンに通っています!」


「じゃあ転移初日にグルチャでダンジョンの話をしていたのも君か?」


「いかにもいかにも! 奥が深いですよダンジョンは!」


「ほう」


 と、ここで琴子が何やらハッとした。


「忘れていました! お二方のお名前をお教えいただけますかな?」


「俺は漆田風斗だ」


「ああ! あなたがかの有名な英雄殿! 先の救出劇も英雄に違わぬお手並みだったと聞いていますとも!」


「英雄なんて大したもんじゃないけどな」


「またまたご謙遜を! で、そちらの女性は!?」


「高原美咲です、よろしくお願いします」


「ほほぉ! 美咲さんは私と同じ一年ですか? それにしては見ない顔ですねー!」


 思わず吹き出す俺。

 美咲の格好が私服なので分からなかったようだ。


「えっと……これでも教師です」


「なんと! 本当ですか? 私と同い年、いや、年下にすら見えますよ!」


 美咲は「ありがとうございます」と微笑んだ。


「それで英雄殿!」


「英雄殿はやめろ」


「では風斗さん! 美咲先生! 私と一緒にダンジョンへ挑みましょう!」


 ちらりと美咲を見る。

 彼女は「任せます」と言いたげに頷いた。


「まぁ上限が三人で単一ギルドの参加ができない以上は仕方ないか。いいよ、一緒にダンジョンに挑もう」


「流石は英雄ど……風斗さん!」


 ということで、琴子と協力してダンジョンを攻略することに決定。


「先に教えてほしいのだが、ダンジョンは途中で棄権できるのか? 例えば攻略が厳しそうと判断した場合とかさ」


「可能ですとも! ダンジョンに入っている間、コクーンに〈ダンジョン〉というボタンが追加されます! そこから『リタイア』を選択すれば即座にダンジョンの外へ飛ばされます!」


「リタイアした場合、再挑戦は?」


「できますよー! 何度でもできますとも!」


「ペナルティとかも特になし?」


「ありません!」


「なら気軽に挑戦できるな」


「その通りです! トライアンドエラーの精神ですぞ!」


「オーケー」


「他に質問は!?」


「こちらは大丈夫だ。そっちからは何かないか?」


「特には……いえ、〈ステータス〉を見せてください!」


「かまわないが、どうしてだ?」


「今回のダンジョンではおそらく戦闘があります! クラス武器やクラススキルの使用が認められているので!」


「ということは、戦闘のないダンジョンも存在するのか」


「ありますとも! 詳しいことはダンジョン内で話すとして、これが私の〈ステータス〉です! どうぞ!」


 琴子がスマホの画面をこちらに向けた。


=======================================

【名 前】成海 琴子

【レベル】26

【クラス】タブレット

【アビリティ】

・製作物管理

・ダンジョン探知

=======================================


 俺達に比べてレベルが低い。

 他所ではこれが一般的な水準だろう。


「俺達はこんな感じだ」


 こちらの〈ステータス〉も見せる。

 案の定、琴子は「ぎょえー!」と驚いていた。


「噂に違わぬ強さ! これは頼もしいです!」


「役に立てばいいが、どうなるかな」


「では行きましょう! 直ちに行きましょう! 早く行きましょう! 楽しい楽しいダンジョン攻略の時間です!」


「本当にテンションが高いな……」


「人は見かけによらないものですね……」


 琴子に圧倒されっぱなしだ。

 些かの不安を抱きつつもダンジョンクエストを受ける。

 次の瞬間、俺達三人はダンジョンに転移した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る