099 救出作戦

 〈サイエンス〉との集合場所に着いたのは2時27分のこと。

 ゼネラルとの交渉で時間を取られたものの遅刻せずに済んだ。


 相手は既に待っていた。

 SUV2台とバス1台の編成で、メンバーは車の外に展開している。

 迫り来る徘徊者を処理していた。


「お待たせしてすみません、増田先生」


 俺は車から降りて駆け足で増田に近づく。

 思えば〈サイエンス〉の連中と会うのは今回が初めてだった。


「遅刻ではないから問題ないよ。では始めようか」


 増田がギルドメンバーに合図する。

 真剣な表情の生徒たちが車に乗り込んでいく。

 その後に教師が続いた。


「必ず成功させよう」


「はい!」


 俺もトラックに戻る。

 いよいよ作戦の時だ。


 増田の乗るSUVが先頭を走る。

 その後ろにバス、俺達のトラック、SUVと続く。


「美咲、拠点の前に着いたら――」


「万が一に備えて車から離れずに戦う、ですね」


「そうだ」


「お任せ下さい」


 いよいよ俺達の車列が〈ハッカーズ〉の拠点に到着。

 毒嶋たちは拠点の外で戦っていた。


「思った通り徘徊者戦は自分らでこなしているな」


 檻の奴等に戦わせている可能性はないと踏んでいた。

 反乱を起こされる恐れがあるからだ。


「なんだなんだ」


「いっぱいきたぞ」


「増田先生だ! 漆田もいるぞ!」


「俺達を懲らしめにきたんだ!」


 こちらに気づいて驚く連中。

 頭数で負けているのもあって早くもビビっている。

 その様子から察するに内通者はいないようだ。


「焦らなくていい! 拠点内に逃げ込むぞ! 徘徊者はあいつらが処理してくれるってことだろ! 俺達は高みの見物をすればいいんだよ!」


 ギルドマスターの毒嶋が言う。

 浮き足立っていたゴミどもが「それもそうだ」と落ち着く。

 俺達が車から降りるのと同じタイミングで拠点の中に逃げ込んだ。


「A班とB班は僕に続いて毒嶋君たちを捕まえるよ。残りは各班の教師に従って敵の処理を」


「「「はい!」」」


 増田が指示を出す。


「こっちも作戦通りに行くぞ。美咲、由香里、燈花、この場は任せた!」


「「「了解!」」」


 俺はクラス武器を左手に持ち替え、右手は拳を作った。

 大股で毒嶋へ近づいていく。


「はん、殴れるものなら殴ってみろ! ほーれ!」


 毒嶋がこちらに左の頬を向ける。

 防壁の内側にいると思って油断しているようだ。


「ああ、なら殴ってやるよ」


「えっ」


 俺は助走をつけた右ストレートをお見舞いした。

 俺や増田の予想通り、防壁がないので拳が届く。


「ブヘアッ!」


 毒嶋は盛大に吹き飛び、地面には彼の歯が何本か転がった。


「お、おい、どうなってんだよ!?」


「え、なんで!? 防壁は!?」


「馬鹿が! 今は防壁のない時間帯だろ!」


「じゃ、じゃあ、今は……! ヒィイイイイイイイイイイイイ!」


 〈ハッカーズ〉のゴミどもが拠点の奥に逃げ込む。

 毒嶋はその場に倒れていた。


「A班は敵の捕縛を。B班は檻を破壊して救出するんだ」


 増田が右手に手榴弾らしき物を持って奥へ向かう。

 俺が要請しておいたお手製の閃光手榴弾だろう。


「よぉ、毒嶋」


 俺は毒嶋を拘束した。

 後ろ手に組ませて手錠を掛ける。

 逃げないよう足枷もしておく。


「ゆ、許して、お願いだから……」


「話は後で聞く。麻衣、毒嶋が逃げないよう見張っていてくれ」


「任せて!」


「漆田少年、お姉さんはどうすればいい?」


「〈サイエンス〉と協力して皆の解放を頼む。敵の始末は俺に任せろ」


「了解!」


「一気に終わらせるぜ」


 俺はメインスキル〈魂の暴走〉を発動した。

 効果は3分間だけ超人的な力を得るというもの。

 なのにCTは2時間――間違いなく禁断のスキルだ。

 今回が初使用だったが、その効果はすぐに分かった。


「やばい、やばいぜ、これは……!」


 全身の力が漲ってくる。

 いや、それどころではなかった。


「えっ、風斗が消えた!?」


 軽く走っただけで他人からは消えたように見える。

 本気で走れば100mを1秒未満で走り抜けられそうだ。

 もちろんスピード以外も凄まじい。


「見つけたぜ」


 部屋に逃げ込もうとしている男子クズを発見。

 後ろから殴ると、そいつは面白いほど吹き飛んだ。

 顔面から壁に突き刺さる。


「おいおい、大丈夫か?」


 思わず心配になってしまう。

 慌てて壁から抜いて万能薬を飲ませてやった。

 そうしなければ死んでしまうほどの重傷だったのだ。

 相手がゴミでも可能な限り殺さないでおきたい。


「だず、だずげてくだざい、おねが――」


「うるせぇんだよ」


 背中を踏んで押さえつける。

 軽く踏んだつもりだったが、相手の背骨がバキバキに折れた。

 死なない程度の損傷なので万能薬は必要ないだろう。

 俺はすかさず縛り上げて拠点の外に連れ出した。


「人間の限界を超越した圧倒的な力……神にでもなった気分だな」


 その後も次々に敵を捕まえていく。


「漆田君、目を瞑って!」


 増田が閃光手榴弾を投げる。

 俺はあえて目を瞑らずに棒立ち。


 超人的な力は視界にも及んだ。

 自動的に明るさが調整されて最適なレベルを保っている。

 閃光手榴弾が全く眩しく感じなかった。


「うっかり殺さないよう手加減しないとなぁ」


 今の俺が本気を出すと、人間の頭蓋骨など軽く握りつぶせてしまう。

 その点は注意が必要だった。

 割れ物を扱うかの如く慎重に作戦を進めていく。


「これで最後だな」


 拠点に隠れていたゴミどもを全て捕まえた。

 それと同時に〈魂の暴走〉の効果時間が終了する。

 ちょうど3分で作業が終わったようだ。


「すげぇ……殆ど漆田が一人でやっちまったよ」


「なんだあの強さ。本当に人間か……?」


「やばすぎる……!」


 〈サイエンス〉の連中は驚きまくっていた。

 無理もない。

 連中は〈魂の暴走〉が3分限りのスキルだと知らないのだ。

 そもそもクラス武器に刀を選ぶ変人は俺しかいなかった


「漆田少年、こちらも無事にやり遂げたぞ!」


 涼子が大量の女子を連れてきた。

 男と違って拠点の奥で囚われていたようだ。

 涼子の配慮だと思うが、女子たちは服を着ていた。


 これで拠点の制圧及び解放が終了した。

 作戦成功だ。


「さて――」


 俺は毒嶋に近づいた。

 そして、地面に膝ついて俯く奴の髪を鷲掴みにする。

 半べそを掻いて小便をちびりそうな毒嶋の顔を強引に上げた。


「――話を聞かせてもらおうか、毒嶋」

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