092 涼子の奇策
こちらに向かって悠然と歩いてくる1体のゼネラル。
距離が近づくにつれて、その姿が鮮明になっていく。
前に倒したゼネラルとは違っていた。
背丈は前回の奴よりも低く、俺と同じくらい。
かなりの細身で、左右の手に刀を持っている。
共通しているのは全身を覆う甲冑だけだ。
「女……なのか?」
ゼネラルの兜からピンクの長い髪が出ている。
「漆田少年、どうするんだい? 相手は戦う気のようだぞ」
涼子は薙刀を構えながらゼネラルを睨む。
「戦ってみたいが、いかんせん城から離れすぎて見えづらいな」
「私にお任せ下さい」
美咲がサブスキルを発動。
上空に召喚された光の玉が周囲を照らす。
「これならいけるな――よし、戦うぞ! ただし厳しそうなら即撤退だ!」
挨拶代わりに〈斬撃波〉を放つ。
「…………」
ゼネラルは何も言わずに左の刀を振り、迫り来る斬撃を斬り捨てた。
「タロウ、ジロウ、GO!」
「ブゥ!」「ウホーッ!」
タロウが突っ込み、ジロウが〈フンガーボール〉で援護。
ゼネラルはタロウとウンコを軽やかに回避。
さらにUターンしようとするタロウへ向かって突っ込む。
カウンターの一振りでタロウを斬るつもりのようだ。
「させない」
由香里がすかさずカバー。
ロボの〈ロケットパンチ〉と矢が敵の背中を襲う。
完璧なタイミングだ。
しかし、この攻撃も対処された。
「ヌッ」
ゼネラルはピタッと急停止。
振り返り、二本の刀で攻撃を捌いた。
人間には絶対に不可能な動きだ。
「うりゃあああああ!」
「私達だって負けていません!」
麻衣が側面から銃撃。
反対側から美咲が〈ライトニング〉を放つ。
正面からはジロウの投げたウンコが迫る。
さらにUターンを終えたタロウも突っ込む。
(四方からの攻撃! これは回避も防御もできない!)
仕留められなくてもダメージは与えられる。
誰もがそう思った。
だが――。
「おいおい……マジかよ……」
この完璧な連携をもってしてもノーダメージだった。
「嘘ぉ!? たしかに命中したよね!?」
麻衣が俺の横に立つ。
「あ、ああ、しっかり当たってたよ」
先程の攻撃、展開は思惑通りだった。
敵はジロウのウンコを右の刀で捌き、横に跳んでタロウの突進を回避。
しかしライフルの弾丸と稲妻はどうにもできずに命中。
にもかかわらず、ピカピカの甲冑には傷一つついていなかった。
「すんごい強さ! 漆田少年ら、よく勝てたね! 前に戦った時!」
うひゃあ、と興奮する涼子。
俺は「いや」と苦笑いで答えた。
「前に戦った奴よりも格段に強いよ、アイツ」
「なんですと! 漆田少年、何か対策を!」
「とりあえず前に倒した奴と同じで目を狙おう」
甲冑が守っていない唯一の箇所が眼部だ。
前回はそこに刀を突き刺すことで辛くも勝利した。
「幸いにもザコはいない。散らばって攻め続けるぞ!」
「「「了解!」」」
俺、涼子、タロウ、ロボで近接戦を仕掛け、残りは後方から援護。
ヒットアンドアウェイを心がけ、深く踏み込まないように徹した。
今回は倒せなくてもいい。
俺達の攻略法は常に様子見から始まる。
そう、今日は本番ではない。
本腰を入れて倒しにかかるのは明日以降。
「しっかし本当に硬いな。貫通効果もコイツには無効かよ」
何度目かの〈斬撃波〉が敵の背中を捉えた。
だが、敵はまるで動じていない。
「でも可能な限り防いでくるよね」
麻衣が敵の周囲をグルグルと走りながら銃を撃つ。
「効いていないように見えて効いているのでしょうか?」
美咲はロッドの通常攻撃で牽制を続ける。
「どうだろうな……」
ゼネラルと戦い始めてから20分が経過した。
かつてない長期戦なのに、大した発見には至っていない。
とりあえず敵の防御力が異常に高いのは確実だ。
甲冑の装甲は当然として、反射神経や回避能力も秀でている。
全方位から同時に攻めない限り、死角を突いても軽々と防がれてしまう。
「とりあえず目に一発ぶち込みたいが……難しそうだな」
「でも、この調子だと負けることもないっすよ!」
「まぁ今のところはな」
今回のゼネラルは消極的だ。
戦い方はカウンターの一辺倒で自分からは仕掛けてこない。
相手が積極的に攻めてくるタイプだったら、俺達は敗走しているだろう。
鎧の装甲が凄まじいからごり押しされたら為す術がない。
「なんにせよ時間の無駄だな、これ以上は」
「漆田少年、撤退するのかい?」
「おう」
防壁は既に発生している。
大した成果が得られない以上、戦闘を継続してもリスクしかない。
「じゃあ撤退の前に一つ試させてもらえないかな?」
「試す?」
「お姉さん、あの敵を倒せるかもしれない」
「なんだと!?」
涼子は自信に満ちている様子。
俺だけでなく、その場にいる全員が驚いていた。
「どうやって倒すんだ!?」
「それは秘密だけど、漆田少年の刀が必要だ」
「他人のクラス武器は使えない仕様だぜ?」
「必要なのは普通の刀のほうだよ」
「通常武器の刀がいるのか? 別にかまわないが」
俺と涼子は後方に下がった。
涼子は薙刀を異次元に収納し、俺の刀を腰に装備。
何度か鞘から抜き差しを繰り返して扱いに慣れる。
「これでいいのか?」
「ばっちりだ! 敵の目に刀を刺してくるよ!」
「俺は側面から攻撃すればいいのか?」
「いんや大丈夫! 漆田少年は撤退の準備をするがいい!」
「えっ」
「お姉さんなら一騎打ちで刀を刺せるのだ!」
「一騎打ちって……俺だけじゃなく皆の援護も不要ってことか?」
「いかにも!」
「流石に無理だろ」
「ふっふっふ、まぁ見ていなさい!」
涼子は両手でロケランを持ち、敵に近づいていく。
「皆! あとはお姉さんに任せて撤退するんだ!」
当然ながら場がざわつき、誰もが動揺する。
皆は答えを求めて俺を見た。
「とりあえず涼子に任せて少しだけ下がろう」
いざとなったら助けられる距離を保つ。
俺達が陣形を変えている間、敵は何もしなかった。
左右の腕をぶらりと垂らしたままこちらを見つめている。
「ゼネラル徘徊者君、女同士の一騎打ちといこうじゃないか!」
敵に話しかける涼子。
性別不明の相手を女と断定している。
「…………」
案の定、敵は何も答えない。
「一騎打ちをするのだから名を名乗れ! 私は小野崎涼子!」
「…………」
困惑する俺達。
敵に感情があるなら敵も困惑しているだろう。
「名乗らないつもりか! それもいいだろう! では勝負だ!」
涼子がロケランの引き金に指を当てる。
それに反応して敵も刀を構えた。
「お姉さんの必殺技! その名も〈トリプルアタック〉だ!」
涼子のロケランから三つの砲弾が放たれる。
それらは真っ直ぐに敵を――捉えなかった。
涼子は敵の足下を狙ったのだ。
ドガアアアン!
強烈な爆音と共に砂煙が舞う。
それによって敵の姿が見えなくなった。
「まだまだぁ!」
間髪を入れずに追加の攻撃を行う涼子。
「あれ!? ロケランって10秒のCTがあるんじゃ!?」と麻衣。
「それは通常攻撃のCTだ。メインスキルは別だから連続で使えるのだろう」
「知らなかった!」
「俺もだ。だが、今はそれよりも――」
涼子の通常攻撃は天に向かって放たれていた。
砲弾は真っ直ぐ空を目指している。
と思った次の瞬間、クイッと軌道を変えた。
「追尾だ!」
涼子は「いかにも!」とニヤり。
すかさずロケランを捨てて刀を抜く。
砲弾の降下に合わせて砂煙の中へ突っ込んだ。
「メインスキルを煙幕に使い、通常攻撃で敵の位置を把握、刀が本命ってことか!」
思った以上に練られた作戦だ。
女性陣は「すごい……!」と感嘆している。
俺も衝撃のあまり口が半開きになっていた。
「チェストォオオオオオオオオオ!」
涼子が刀を伸ばす。
同時に急降下した砲弾が敵に命中して爆発。
砂煙がさらに激しくなる。
敵だけでなく涼子の姿も見えなくなった。
「決まったんじゃない!? これ!」
「涼子さん……!」
「すごい」
「涼子ーっ!」
俺は何も言えず、クラス武器の刀を持ったまま砂煙を睨む。
「どうだ? どうなった……?」
砂煙が消えていく。
シルエットが浮かび上がり、そして――。
「無念……!」
口から血を吐く涼子が見えた。
腹部に二本の刀を突き刺されている。
一方、彼女の刀は敵を捉えていなかった。
相手が腰を落として回避したのだ。
「なんで!? ロケランの弾が爆発した時は突っ立ってたはずでしょ!?」
「その後に姿勢を低くしたのだろう」
「そんなのってアリ!?」
「相手がやってみせたのだからナシとは言えないさ。それより涼子を助けるぞ!」
俺達は敵に向かって突っ込む。
「…………」
敵は涼子に刺さった刀を消した。
それによって涼子の体が地面に転がる。
次の瞬間、予想外のことが起きた。
なんと敵が撤退し始めたのだ。
こちらに背を向け、闇夜の向こうへ歩いていく。
「どういうことだ……?」
理解できずに固まる俺達。
「いい戦いだったぜ、ブラザー……!」
涼子は意味不明なことを言いながら万能薬を飲む。
「私ら見逃されたの?」と麻衣。
「理由は分からないがそうみたいだ」
ゼネラルが消えると、再びザコが湧き始めた。
「風斗君、大量の敵が!」
「撤退しよう」
俺達は駆け足で防壁内に逃げ込む。
その後は何の問題も起きず、無事に4時を迎えた。
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