091 一点集中防衛
本日の徘徊者戦が始まろうとしていた――。
俺達は南門付近にいた。
城壁の上、機械弓兵の後ろで待機している。
ペットはルーシーとジロウが一緒だ。
タロウは階段を守り、ウシ君とジョーイはトラックの荷台で待機。
トラックは空堀が通用しなかった時の離脱用だ。
「ちゃんと昨日とは違うスキルをセットしたか?」
皆に確認する。
「もちろん! メインだけじゃなくてサブも別のに変えたよ!」
親指をグイッと立たせる麻衣。
「漆田少年が口を酸っぱくして言ったんだから当然だろう!」
と言いつつ、慌ててスマホをポチポチする涼子。
「涼子、変え忘れていたな?」
「と、思うじゃん? でも?」
「やっぱり変え忘れていたんだろ」
涼子は「グハッ!」とやられたフリをする。
それから「そんな時もある」と認めた。
「さて、戦闘開始だ」
2時になって徘徊者が攻めてきた。
おびただしい数のノーマルタイプが押し寄せてくる点は昨日と変わらない。
麻衣が取り付けたライトのおかげでよく見える。
「まずは門の上から迎撃しよう」
俺は弓兵の前に出て、敵に向かって刀を振る。
メインスキル〈斬撃波〉が発動した。
斬撃を飛ばすスキルで、射程は数十メートル。
貫通効果が備わっており、攻撃範囲にいる全ての敵を切り裂く。
「よしよし、いい感じだ」
突っ込んできた敵を何体か真っ二つにした。
CTが1分と短いことも考えると、使い勝手はなかなかいい。
近接戦専用の刀に遠距離攻撃という手段が加わるのもありがたい。
「風斗も貫通効果に目を付けたんだね」
「その言い方だと麻衣もか?」
麻衣は「まぁね」とスキルを発動。
彼女の持っているアサルトライフルが光り始めた。
「おりゃー!」
麻衣の銃撃によって徘徊者が蹴散らされていく。
銃弾には貫通効果が付与されていて、複数の徘徊者にダメージを与えた。
「私が選んだメインスキル〈徹甲弾〉は通常攻撃を強化するもの。火力が上がって貫通性能も付与される。地味だけど〈ガンナーフォートレス〉より使い勝手いいよ!」
「たしかに」
その後も仲間たちのスキルが炸裂する。
由香里のロボは両手を飛ばす〈ロケットパンチ〉で、これも貫通効果付き。
美咲は杖から稲妻を放つ〈ライトニング〉を使用。
稲妻には追尾効果が備わっており、必中に近い命中性能を誇る。
威力と射程は控え目だが、その代わりCTは1分なので使いやすい。
燈花はゴリラの必殺技〈フンガーボール〉をセットしていた。
これはウンコを投げまくるという驚異のスキルだ。
ウンコには貫通効果が備わっており、威力もそれなりにある。
見た目以外は完璧だ。
「いっけぇー! ジロウ!」
「ウホッ! ウホホッ! ウホーッ!」
クソみたいな勢いで糞を投げまくるジロウ。
サブスキル〈ペットヘイスト〉の効果で速度が向上していた。
「凄まじい光景だ……」
投げるたび新たなウンコを召喚する姿に衝撃を受ける。
そして、ひとしきり投げ終わった後に俺の頭を撫でてきて絶望した。
「最後はお姉さんのロケットランチャーだ!」
涼子は前に向かって引き金を引く。
当然ながら弾は真っ直ぐ飛ぶ――と思いきや。
クイッと下向きに軌道を変え、壁にくっついている敵に命中。
「なんだ今の曲がり方は!?」
「あれが涼子のメインスキル!?」
「チッチッチ、違いますよ麻衣タロー」
「麻衣タロー!?」
「今のはサブスキルなのだ!」
前に涼子が言っていた。
ロケットランチャーのサブスキルは通常攻撃の強化系のみ。
ということは――。
「今のは通常攻撃に追尾効果を付与するものか」
「正解! 流石は漆田少年、賢い!」
「ロケランは通常攻撃でも威力が高いからいい感じだな」
「お姉さんも同感なのだ!」
「次はメインスキルを見せてくれ」
「オッケー! 刮目せよ! これがお姉さんの〈トリプルアタック〉だ!」
涼子が「ドーン!」と言いながらスキルを発動。
ロケランから三つの弾が放たれた。
それらは斜め左右と前の三方向に飛び、敵の群れに突っ込む。
スキルなので追尾効果は備わっていない。
ドガァン!
派手な轟音が響く。
爆発に巻き込まれた数十体の徘徊者が消し炭と化した。
「見た感じ砲弾1つあたりの威力は通常攻撃と同じか」
「またまた正解、大正解! CTが1分と短いのが特徴だ!」
「なるほど」
これで全員のメインスキルを確認し終えた。
「そろそろ他の門を確認するか」
俺はスマホに入れた監視アプリを起動。
各門に設置したカメラの映像が表示された。
「どう?」
由香里が尋ねてきた。
「あまりにも完璧だ」
他の門を攻める徘徊者は可哀想になるほど酷い有様だった。
まずは先頭の集団が機械弓兵の矢に耐えながら土嚢に張り付く。
だが、積み上げられた土嚢は重いので力押しでは突破できない。
よじ登る必要があった。
それは後続の担当だ。
仲間の徘徊者を踏み台にして土嚢を越えていく。
弓兵の攻撃で死ぬことになってもおかまいなしだ。
激戦の末に登りきると、今度は空堀に転落。
重低音の咆哮を繰り出しながら土の壁を掻き毟る。
当然、そこにも矢の雨が降り注ぐ。
結果、敵は土嚢と空堀のコンボで完全に封殺されていた。
「こりゃ南門に専念できるな」
俺は燈花に指示してタロウを連れてきてもらう。
タロウが着いたら刀のサブスキル〈ホーリースロープ〉を発動。
城壁から地面に向かって伸びる光のスロープが設置された。
「後ろは気にしなくていい! いくぞ!」
スロープを使って城壁の外に下りる俺達。
待ち構える徘徊者の群れをスキルで一掃していく。
落ち着いたら南門を開けて撤退できるようにしておいた。
「敵に合わせてスキルをセットしただけあって昨日より快適だな」
危なげない戦いが進んでいく。
「漆田少年、南門にも空堀をこしらえていいかもしれんな!」
そう言って隣で薙刀を振るう涼子。
通常武器だと硬く感じる敵を軽やかに倒していた。
二人だけでギルドクエストを突破しただけのことはある。
「まぁ城門から伸びる道以外は空堀にしていいだろうな」
「門の前も空堀にしていいではないか。城から出る時は橋を架ければ問題なかろう!」
「簡単に言うけど、それってかなり難しいぞ。橋の作り方なんか知らないし、知っていたとしても安全な橋を作るのは無理だからな。徘徊者と違ってうっかり空堀に転落したら死ぬかもしれない」
「そこまで考えていたとは! 抜け目ないな漆田少年!」
時刻は2時50分。
「あと10分で防壁が発動する。そろそろ撤退の準備――ん?」
話している最中のことだ。
突如として周辺の徘徊者が姿を消した。
4時になった時のように1体すら残らず消えたのだ。
「漆田少年、これはいったい?」
「誰かがゼネラルを倒したのか?」
新仕様の徘徊者戦には追加ルールがある。
最寄りのゼネラルタイプを倒すと戦闘が終了するというものだ。
敵が消えたのはその条件を満たしたから。
――と思ったが、違っていた。
「漆田少年!」
涼子が前を指しながら叫ぶ。
「ああ、どうやらアイツの仕業みたいだな」
前方の暗闇から一体の徘徊者が近づいてくる。
姿はよく見えないが、人型であることはたしかだ。
そいつが何者なのかは、〈地図〉を見れば一目瞭然だった。
「ゼネラルだ!」
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