088 新仕様の徘徊者戦③

「皆、聞いてくれ」


 俺は瞬時に状況を整理し、作戦を考えた。


「後方の敵に戦力を集中して突破する」


「前の敵はどうするっすか?」


「由香里のロボを囮に使おう」


 ロボは今も懸命に戦っている。

 耐久度がかなり高いようで、ボロボロになっても動いていた。


「流れとしてはタロウの〈ライノストライク〉で敵を蹴散らし、その後ろにトラックで続く。門をくぐったら〈コール〉でロボを回収して閉門。これでいこう」


「その後は?」


「閉門まで無事に進んだら説明する」


「了解!」


「急いでトラックに乗り込むぞ!」


 美咲がエンジンを掛けている間に、俺達は荷台に乗り込む。


「風斗君、出しても大丈夫ですか?」


「いいぞ! 燈花、頼む」


「ほいさ! タロウ、やっちゃって!」


「ブゥ!」


 タロウが後方の敵に突っ込んでいく。

 攻防一体の〈ライノストライク〉で雑魚を蹴散らした。


「今だ!」


 トラックがブォォォンと唸りを上げて動き始める。


「頑張るんだぞ、ロボ! これはお姉さんからのせんべつだ!」


 涼子がロボに向かってロケランを放つ。

 この支援攻撃でロボの周囲にいる徘徊者が吹き飛んだ。

 とはいえ、通常攻撃なので威力は限られている。


「ここで〈ドッカンバズーカ〉が欲しかったぜ」


「無い物ねだりはよせ漆田少年!」


 作戦通りトラックが門を通過。

 美咲は城の傍で車を停めると〈コール〉でロボを回収。

 傷だらけで今にも爆発しそうなロボが目の前に現れた。


「よくがんばったね、ありがとう」


 由香里がロボを撫でる。

 ロボは由香里に向かってコクコクと頷いた。

 しかしそこで体力が尽きたようで機能を停止する。

 壊れたロボットは次の徘徊者戦まで蘇らない。


「風斗、門を閉めたよ!」


「サンキュー麻衣!」


「ここからどうする?」


「麻衣、美咲、由香里の三人は城門の上から機械弓兵と一緒に攻撃だ。残りは門の内側にいる敵を掃除するぞ」


「「「了解!」」」


 話している間にも徘徊者が迫ってくる。

 防壁が出現するまで安住の地はない。


「ここが正念場だ! 粘るぞ!」


 皆でトラックを降りて戦う。


「お前らもついてこい!」


 ウシ君とジョーイに言う。

 どちらも素直に従った。


「風斗、ウシ君たちはここに待機させて!」


 麻衣が城壁の階段前に〈ガンナーフォートレス〉を発動。

 徘徊者を防ぐ半透明のシールドで守ろうという考えだ。


「そういう使い方もあるのか、賢いな。よし、お前たちは待機していろ」


「モー!」「ワンッ!」


「やっちゃうっすよー、タロウ! コロク!」


「ブゥ!」「チチチッ!」


 久々の騎乗スタイルを見せる燈花。

 彼女の肩にはコロクがしがみついていた。


「ルーシー、空から皆の安全を確認してね」


「キィー!」


 由香里とルーシーのコンビも健在だ。


「燈花、東門から北門に向かってくれ! 俺と涼子は西門から向かう!」


 燈花は「了解っす!」と東門へ進む。


「行くぞ、涼子」


「ご指名とあらばお姉さんはどこまでついていくよ!」


「頼もしいぜ」


 〈命ある影〉を発動。

 2体の分身とともに、俺と涼子は西門を目指す。


「由香里、美咲、私達も頑張るよ!」


「はい!」


「ロボの分まで頑張る」


 麻衣たちは階段を駆け上がっていった。


 ◇


 次から次に襲ってくる敵を斬り伏せていく。

 門がボトルネックになっているようで、敵の数は思ったより少ない。

 それでも常に数十体を相手にしているので気が抜けなかった。


「漆田少年、私な、この戦いが終わったら結婚するんだ」


「そうか、なら負けられないな。頑張るぞ」


「こら! 死亡フラグとか何とか言う場面だろー! せめて嫉妬しろ!」


 俺は「ははは」と笑いながら徘徊者を真っ二つにする。


「涼子との付き合い方が少しずつ分かってきたよ」


「それはいけないなぁ、実にいけない」


「どうしてだ?」


「お姉さんにどぎまぎしている漆田少年が見たいのだ!」


「なんと迷惑な」


「それこそ我が信条!」


 涼子がロケランをぶっ放し、西門に辿り着いた。


「お前らイチャイチャしてんじゃねぇぞ!」


分身おれたちの身にもなれってんだバカ野郎!」


 再召喚した分身も口が悪い。

 ただ働きぶりは本体おれよりも優秀なので許すとしよう。


「それにしてもひでぇ有様だな……」


 徘徊者の猛攻によって破られた西門を眺める。

 門は強引にこじ開けられており、ぽっかりと穴が空いていた。

 そこから徘徊者が侵入している。

 おそらく北門と東門も同じような状況だろう。


「敵の侵入速度はそれほど速くないから、ここは分身に任せて大丈夫そうだな」


「私達は北門に向かうかい?」


「そうしよう」


 俺は分身どもに「分かったな?」と確認。


「チッ、しゃーねーなー」


「あー、俺も女と一緒がいいなぁ、やる気しねぇ」


 分身どもは不満そうにしつつも指示に従った。

 俺は「頼んだぞ」と言い残し、涼子と二人で北門へ。


「お、風斗ー! 遅かったっすねー!」


 北門の敵は燈花によって既に殲滅済みだった。

 別れる前と違ってタロウとコロクの姿が見当たらない。


「つーか、そっちがえらく早かったな」


「でしょー! やっちゃったんすよねぇ!」


「やっちゃったとは?」


「戦力の増強っすよ!」


 燈花が北門に手を向ける。

 そこには――。


「ウホッ! ウホホッ!」


 ――大きなゴリラがいた。

 侵入する徘徊者に拳を打ち付けている。


「ゴリラか。たしか餌代は……」


「100万っす! でも私ならスキルの効果で25万!」


「それでも結構な額だな」


 ゴリラの餌代は【戦闘】タイプの中でも高めだ。

 ただ、戦いを見る限り価格に見合った強さをしている。

 やはりペットは頼もしい。


「ゴリラ君の名前は決まっているのかい?」と涼子。


「ジロウっすよ!」


「タロウの次だからジロウかー!」


「そっすよ! いいでしょー!」


 涼子「うんうん」と笑顔で頷いている。


(なんでコロクはコロクって名前になったんだ?)


 些細なことが気になる俺。

 だが、その疑問を口に出すことはなかった。

 質問しようとした瞬間に防壁が発生したからだ。


「どうにか耐えきったっすねー!」


「あとは防壁の耐久度だが――」


 すかさず確認。


「――問題なさそうだな」


 徘徊者が強くなったのは対人だけのようだ。

 防壁に対する攻撃力はそれほど増えていなかった。

 今日に限って言えば、防壁が破られることはないだろう。


「残りの時間で門の内部にいる残党を掃除しよう」


「了解っす!」


「お姉さんは西門に戻るねー! 漆田少年の分身とイチャイチャしてくる!」


「俺は東門の状況を確認しつつ麻衣たちのところへ行くよ」


「ではまた後で! さらばだ漆田少年!」


「おう!」


 ◇


 東門ではタロウとコロクのコンビがのほほんと過ごしていた。

 付近の敵を駆逐し終えて暇そうだ。


「この場はもういい。他の場所にいる残党を狩りつつ燈花と合流してくれ」


「ブゥ!」


 指示を出したら南門へ向かい、城壁の階段を上って麻衣たちと合流。


「お、風斗! ちょうどいいところに!」


 麻衣は俺を見て声を弾ませた。


「どうかしたのか?」


「今から美咲がメインスキルのお披露目をするの!」


「そういえばロッドのメインスキルだけ見ていなかったな」


「CTが25分もあるので万が一に備えて温存していました」


「流石だぜ。涼子に聞かせてやりたいよ、そのセリフ」


「あはは。それで、スキルを使っても問題ありませんか?」


「おう! ぶっ放してやれ!」


「はい!」


 美咲がロッドを掲げる。

 空が一瞬ピカッと光った。


 隕石が降ってくる。

 城壁のすぐ外で蠢く敵に命中した。


 ドーンッ!


 隕石は着弾すると爆発した。

 爆発範囲はロケランの通常攻撃と一緒くらいか一回り大きい。

 威力は申し分なくて、爆発に巻き込まれた雑魚は漏れなく死んだ。


「こんな感じです。いかがでしょうか」


「いいじゃないか! スキル名は〈メテオ〉か?」


「正解です」


 〈ドッカンバズーカ〉よりも控え目だが、その分CTも現実的だ。

 使い勝手は〈メテオ〉のほうが上だろう。


「これで全員のスキルが出揃ったな」


「防壁も発動したし、この後は門内の敵を掃除する感じでオッケー?」


 アサルトライフルを乱射する麻衣。


「オッケーだよ。それを言うために来たんだった」


「グルチャで言ってくれたらよかったのに」


「戦闘中だから直接言おうと思ってな」


 ということで、皆で残党狩りへ。

 作業は20分程で終了し、残り40分は城の前で仲良く待機。


 そして時刻が4時00分になり、本日の徘徊者戦が終わった。


「今日は久々に大変だったな、お疲れ様」


「一時はどうなることかと思ったけど結果的には問題なかったねー」


「漆田少年の類い稀なる指揮能力の賜物だなぁ!」


「俺がダメダメだから一時的とはいえピンチに陥ったんだけどな」


「またまたご謙遜を!」


 がはは、と笑う涼子。


「でも、思ったより強かったですよね、相手」と美咲。


「だな」


 今日の戦いに大きなミスはなかった。

 クラススキルに不慣れとはいえ、内容自体は悪くない。


 それでも門を破られてハラハラした。

 このまま何もしないで明日以降の戦いに臨むのは危険だろう。


「起きたら防衛力を強化しよう」


「防衛力?」


「機械弓兵だけでは門を守り切れないからな」


 幸いなことに、門は4時になると自動で修復された。

 門の修理に時間を費やす必要はない。

 思う存分に防衛力の強化に取り組めそうだ。


「そうは言ってもどうやって強化するの?」と麻衣。


「それは……」


「それは?」


「分からん!」


「分からんのかい!」


「具体的なことは風呂にでも入りながら考えるよ」


「頑張れ、リーダー!」


「我々の未来は君にかかっているぞ漆田少年!」


「プレッシャーをかけてくるな」と苦笑い。


「ではでは、お疲れ様っすよー! お風呂に入って寝るっす!」


「今日は疲れましたね」


「でもたくさんの風斗が見られてよかった」


 燈花、美咲、由香里の三人が城に入る。


「聞いているかもしれないけど、徘徊者戦の後のお風呂は女子が先だよ。涼子も一緒に行こ!」


 麻衣が涼子を誘う。


「すまない、先に入っていてもらえるかい?」


「涼子は一緒に入るのが苦手なタイプかー」


「いやいや、美女たちの裸体を拝む機会なんて滅多にないんだ。苦手なわけないじゃないか。ただ、お姉さんは今から親友の様子を確認したくてね」


 親友とは里奈のことだろう。


「りょーかい! じゃ、お先にー!」


 麻衣は燈花たちの後を追った。


「では漆田少年、お疲れ様!」


「おう」


 俺は城に入ると同時に安堵の息を吐いた。

 疲れがどっと押し寄せてきて眠くなる。

 何も考えずに寝たいところだが、そういうわけにもいかない。


 やれやれ、ギルドマスターは大変だ。

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