087 新仕様の徘徊者戦②
ドッカアアアアアアアアアアン!
砲弾は俺に命中して派手に爆発した。
鼓膜が破れそうな爆音が響き、耳がキーンとなる。
砂煙が盛大に舞った。
「ノーダメだからって仲間に撃つ奴がいるか!」
「いいじゃないか! 漆田少年が集めた敵をお姉さんが吹き飛ばす、これも立派な戦術だ!」
「物は言いようだな……」
視界を覆う砂煙がようやく消えた。
「これは……!」
愕然とする俺達。
スキルを発動した涼子自身も「うひゃあ」と驚いている。
半径約50mの徘徊者が消滅していたのだ。
「何その威力! ヤバすぎない!?」
「おかしいっすよ涼子!」
「すごいです涼子さん!」
「涼子、強い」
涼子はロケランを投げ捨て、両手を腰に当てて「ふはははは」と笑う。
「恐れ入ったか漆田少年! これが〈ドッカンバズーカ〉なり!」
「メインスキルとはいえ異常だろ。CTはどうなってんだ」
「2時間!」
「2時間!? 1回の徘徊者戦で1度しか使えない大技かよ!」
「いかにも!」
「それを初っ端に使う思い切りの良さよ」
「ふ、ケチケチしたらダメなのさ、人生ってのは」
「おおう……」
刀にもCT2時間のスキルがある。
〈魂の暴走〉というもので、説明文だと微妙そうだった。
だが、〈ドッカンバズーカ〉の威力を見る限り強烈なのは間違いない。
別の機会に試してみよう。
「ところで、〈ドッカンバズーカ〉は正式名称か?」
なんというか、他のスキルに比べて子供ぽい名前に感じた。
「いぇあ!」
「本当に?」
「……本当は私が名付けた!」
「だと思ったぜ」
「正式名は内緒だ! これからも〈ドッカンバズーカ〉でよろしく!」
妙なこだわりだな、と思いつつ「分かった」と返す。
「では俺もメインスキルを使わせてもらおう」
「おお! 見せてくれ漆田少年! 君が最初に選んだ奥義を!」
「〈ドッカンバズーカ〉の後だと見劣りするが……」
そう言って〈命ある影〉を発動する。
俺に瓜二つの分身が2体召喚された。
「わお!? 漆田少年が3人になった!」
「スキルの効果は見ての通りの分身さ。分身の数や強さはクラスレベルに依存しているそうだ。俺のレベルは27だし、それなりに強いんじゃないか」
分身に「行け!」と命じる。
すると――。
「「任せろ!」」
なんと言葉を返してきた。
「漆田少年の分身、話せるの!?」
「どうやらそのようだ」
話している間にも戦闘を始める2体の分身。
本体である俺よりも動きのキレがいい。
サクサクと人型のノーマル徘徊者を狩っている。
武器の攻撃力は本体と同じようだ。
「お前ら、スキルは使えるのか?」
「無理に決まっているだろ!」
「スキルは
「……なんか口が悪くないか、俺の分身」
「ふむふむ、漆田少年の本性はあんな感じなのかぁ」
「いや、違うからな?」
分身の戦いを眺めつつ、周辺の状況を確認。
今のところ後方から敵が迫ってくる気配はない。
「あ、そういえば……」
「どうしたんだい?」
「ゼネラル徘徊者のことを忘れていた」
「ほほう?」
涼子はピンと来ていないようだ。
「新たに追加された勝利条件にゼネラルを倒すってのがあっただろ?」
「あったような、なかったような」
「あったんだよ。ということは、だ」
「ゼネラルが復活しているってことだな! 今すぐ〈地図〉で確認だ!」
「そこは察しがいいんだな。まぁそういうことだ」
幸いにも〈ドッカンバズーカ〉のおかげで近くに敵はいない。
直ちに〈地図〉を確認した。
「涼子、念の為に警護を頼む」
「任せろ少年!」
涼子はクロスボウを収納して薙刀を召喚。
そしてロケランを背中に担ぎ――。
「お姉さんも前線に出るぞー! アチョー!」
薙刀を振り回しながら突っ込んでいった。
「俺の傍で守ってくれって意味だったんだが……」
コミュニケーションの難しさを知る。
――と、その直後、視界が変わった。
「風斗君、ここなら安全にスマホを触れますよ」
「え、美咲? それに麻衣も。何がどうなっているんだ?」
俺は麻衣と美咲の傍に立っていた。
目の前には麻衣の設置した半透明のシールドがある。
背後には由香里と燈花もいた。
「私のサブスキル〈コール〉で風斗君を呼び寄せました」
「そんなことができるのか」
「できちゃうみたいです」と微笑む美咲。
「そのスキルは敵にも使えるのか?」
「使えますよ。CTが1分あるので、試すなら1分後になりますが……」
「いや大丈夫だ。気になっただけだから」
「分かりました」
再びスマホに目を向ける。
〈地図〉を開いて「やっぱり」と呟いた。
「復活してやがるな、ゼネラル」
以前と違って数も増えていた。
島のあちこちに点在しているのだ。
「最寄りのゼネラルって近いの?」
麻衣が銃を乱射しながら訊いてくる。
「かなり近いよ。草原を抜けてすぐの所だ」
「近ッ! 倒しに行く?」
「今日はやめておこう」
「なるほど、今日は、ね」
「新しい環境にある程度慣れたら……1週間後くらいかな? そこらで挑戦してみよう」
「了解!」
俺はスマホをポケットに戻し、前線の戦況を見る。
「厳しいな」
俺がこの場にいるせいもあるが、明らかに前衛の数が足りていない。
「美咲、〈コール〉のCTが明けたら涼子を回収してくれ」
「分かりました」
涼子は思った以上に奮闘している。
薙刀を振り回しつつ、きっちり7秒間隔でロケランを足下に発射。
爆風で周囲の徘徊者を一掃していた。
(ロケランの攻撃間隔が少し短いのはサブスキルによるものだろうな)
ほどなくして美咲が〈コール〉を発動。
涼子が視界から消え、俺のすぐ隣に現れた。
「うりゃああああ!」
涼子の薙刀が俺達を襲う。
クラス武器ではないので当たると大怪我は免れない。
「うおっ」「きゃっ」
俺達はしゃがんで回避。
皆で仲良く「ホッ」と安堵の息を吐く。
「ありゃ? なんか瞬間移動しちゃった!?」
「私のサブスキルで涼子さんを呼び寄せました」
「そうだったのかー! ありがとう!」
「今度から〈コール〉する時は事前に声を掛けるなりしないとな」
「ですね……ヒヤッとしました」
事情を理解できていない涼子は「ほぇ?」と首を傾げていた。
「あ、私の風斗が……」
由香里の声で気づく。
俺の分身たちが徘徊者にやられた。
断末魔の叫びを上げていて、分身といえども胸が痛む。
「由香里、今、
麻衣がニヤニヤしながら尋ねる。
「……言っていない」
「えー、言ったよねー? 聞いていましたよ私! 言ったよねぇ!」
「知らない」
由香里は真っ赤に染まった顔をぷいっと背けた。
麻衣と燈花はその様子を見て笑っている。
涼子は「なるほどねぇ」と勝手に納得していた。
「風斗、タロウも戻すっすよ」
「おう」
次の瞬間、前方で一騎当千の活躍を見せていたタロウが消えた。
「ブゥ!」
目の前に現れるタロウ。
俺や涼子と同じで瞬間移動したようだ。
「美咲、ナイスだ」
「いえ、私ではありません」
「え?」
「今のは私のサブスキルっすよー!」
「燈花も〈コール〉を使えるのか」
「名前は違うけど使えるっす! 自分のペット限定っすけど!」
「〈コール〉に比べて効果が限定的だな」
「その代わり自分のペットなら何体でも同時に呼べるっす! ということで、ほら! トラックで休んでいたコロクもここに!」
燈花の服の中からコロクが出てきた。
可愛らしい顔を俺達に向けている。
「さて、これからどうするんだい? 漆田少年」
「後退して機械弓兵の射程圏で戦おう」
と、言った時だ。
「ワンワン! ワンワン!」
トラックで待機中のジョーイが吠えた。
「どうした、ジョーイって――おいおいおい、まずいぞ!」
後方から大量の徘徊者が迫ってきていた。
しかも城内から門を通って押し寄せてきているのだ。
まるでこの拠点を獲得した時のクエストみたいに。
もちろん機械弓兵は攻撃している。
だが、矢が数本突き刺さった程度では死ななかった。
弓兵だけでは敵を抑えきれなかったのだ。
「「「グォオオオオオオオオオオ!」」」
前方からも徘徊者の群れが迫ってくる。
「このままじゃ挟み撃ちだよ!」と麻衣。
「風斗、どうするっすか!?」
「漆田少年、指示を頼む!」
皆が縋るように俺を見た。
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